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一話 在りし日の時の中で

四章開始でございます。


今回は、直接関係はない、まあ、四章のプロローグになっております。

黒く高い暗黒の城。


ただ、見えるのはどこまでも続く荒野と、犇くように並ぶ暗黒の軍団のみ。


いうならば、蟻のように大地を黒々と埋め尽くす異形の軍団。


その光景を、見ながら、ゆったりと椅子に座り込む。


そこにいたのは、漆黒の髪と瞳を持つ異形の者だった...。




「きたか...」


その顔、仮面のごときその顔から発せられたくぐもった呟きと共に、大地に犇く異形の衆が、天に飛び散った。


あっけなく、ごみでも払うかのように軽い動作でそれを行ったのは。


金の髪と青い瞳を持った聖者...。


「今宵も、我の前に立ちはだかるか...、勇者よ...」



そして、幾度と無く繰り返された、太古の戦いの一つが幕を開けた――――――。




異形の怪物どもをなぎ払い、焼き尽くし、滅す。


幾束もの光剣、椅子に座り空虚な瞳で見定めるその先の光景は、ただ美しく、そして、どこまでも凄惨であった。


その剣に触れたものは、その身を塵と化し、聖者の前に立ちふさがったものは、等しく死者となる。


あるいは、一刀の元に切り伏せられ、あるいは聖者の口から発せられる古呪によって大地に縫いつけれられる。


そして、そのことごとくは程度の差はあれども、とても生きているとはいえぬ状態であった。


たった一人の前に、化け物どもは怯え立ちすくむ、まるで、自ら死刑台に進み出るかのように。


そして、また一振り、命が消えた...。




どれほど経ったであろうか。


もしかしたら、ほんの一刻も経っていないかもしれない。


それだけの時間で、それだけの早さで、聖者は異形のもの、魔王の前に立っていた。


その進んだ道しるべとして、おびただしい数の化け物どもを切り捨てて...。


闇の中、たなびく草原を深紅に染めて、その黒き居城を光と狂乱と絶望に染め上げて。


それは立っていた。


周りに生けるものは、彼と彼女のみ。


かつての聖者と魔族、かつての勇者と魔王のみ......。


そして、今宵も最後の戦いの火蓋が切って落とされる。



かつて彼が、彼女が歩んだ、巡りし時、今はもうない狂乱の時代。


ただ、己の存在意義を戦うことでしか表す事を許されなかった時代。


破綻した理の中に、『導き手』と『秩序』は立っていた。




「すべてを連れ行こう、未来に見えるはずの先の世界に...」


「今を終わらせる、すべては世界の均衡のために...」



交差するは光の剣と闇の槍か、それとも意思と理念か...。


それを知るのは、多分彼らだけだろう。




いくつ、刺し貫いただろうか、何度、切りつけただろうか。


斬撃は大地を抉り、槍花が草原を巨城を瓦礫に変える。


幾万のも、闇槍が空から降り注ぎ天を闇に染め、幾束もの剣線が雷光を纏い闇を貫く。



幾万もの黒き雨が、聖者に触れると共に蒸発し、大地を塵に変えた光束は魔王に触れると共に虚空に消えた。


強大すぎる魔力の奔流によって天地は荒れ狂い、ぶつかり合い飽和された魔力は空間すらゆがめ始めた。


そして、


...そして。


決着は、とてもあっけなくついた。


最後の一撃を放ったのは勇者...。


その一刀の元に、見事に魔王の頭を切り捨てた。


ただ、一撃...。


そこに、己のすべてをかけ放った斬撃だったのだろう。



その一撃は、魔王ですらも、消し去ることも相殺することもできずにその身に浴びた結果。


その命を落とした。



そして、世界は静寂を取り戻す。



唯一つ、魔王の頭を抱き締め、すすり泣く聖者のみを残して。


そして、すべてを洗い流すかのように、雨が降る、闇色にも光色にも染まらぬ、優しきしずくとなって。


聖者の呟きを書き消していく......。


「次は...、次こそは...


「幸せになりましょうね............


「たとえ、世界を滅ぼしたとしても.........


「笑って過ごしましょう.........、にいさま......」



そして、聖者も、自らの光の剣にそのみをゆだねた。


決して適うはずのない、淡い夢をその胸に抱きながら。



それは、かつて少年が『魔王』で会ったころのお話。


それは、かつて少女が『勇者』で会ったころのお話。



いまだ、わからぬ己の運命に嘆きながら...。


終わらぬ、途切れぬ己の呪われた身を怨みながら...。


彼らは生きていた。



それはまだ、少女が『魔王』では無かったころのお話。


それはまだ、少年が『勇者』では無かったころのお話。



すべてを、知るのは時の記憶者のみとはいえ、それは、今の時を生きる未来の彼らにとって、あまりにも残酷な現実の一つであった。


それは『勇者』では無くなった彼にとって、かつての呪縛を引き起こす引き金にしか、ならないのかも知れないのだから。

特に、深い意味はあまりありません。


ただ、作者として、混魂者以上に、主人公の魔王化の明確な理由がほしくて書いただけの話でもあります。


それでは、次話から、四章迷子編本編、お楽しみください。

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