五話 それは聞くべきだった世界の悲鳴
今回は少し暗い話です。
そして、この話しの根幹部分でもあります。
始まりは一人のエルフの王。
彼は、人という種族をとことん嫌い、排他的な政治形態を作り上げた。
ハイエルフもエルフ族もすべて里に篭り、彼が王であった期間外にでることは無かったそうだ。
しかし、エルフ族だけでこの世界を生き残ってはいけなかった。
もともと、プライドの高かったエルフ族は好んで奴隷を使っていたのだが、その奴隷達も里から追い出した今、彼らは新しく使役する奴隷を求めた。
しかも、その用途に応じてだ。
そして、その奴隷の候補として彼らは彼ら自身が穢れた存在としていた『ハーフエルフ』に目をつけた。
人間を奴隷として使役できないなら、こいつらを使えばいい。
そして、数々の『ハーフエルフ』達が『造られた』
たとえば、愛玩用に妖精達と交配させて作られた物もいたし。
力を強くするために『ワーウルフ』と交配して造られた物もいる。
メイドを作るなら、「森の主」である彼らに従順なドライアドと交配したハーフエルフと、
その種類はさまざまだ。
その後、エルフの王国は、人間達と戦争を始めた。
きっかけなど些細なことだったが。
彼らは己が血に穢れるのを嫌い、戦場にまで彼ら『ハーフエルフ』を投入したのだった。
ワーウルフの本能をとき放たれたものは、死ぬまで暴れ続け、オーガと交配させられたものは、その強力な膂力で迫り来る人間達をなぎ払った。
それでも、エルフ達は押され続けた。
その理由の一端としては、ハイエルフ、つまり王族以外のほとんどのエルフが人間側に加担したこともあったのだが、所詮、自然と生まれた者ではない『ハーフエルフ』の寿命が短かったのもある。
まあ、それに気がついた彼らも、自然分娩で強力な『ハーフエルフ』を生み出し戦わせる手段をとったのだが。
そして、記録上最後に生まれた『ハーフエルフ』が。
ハイエルフとフェンリル(天狼族)の交配種として生まれた...。
『ユノス』だった。
その時にはもう、戦争は終わっていたのだったが。
「あの子達は、もう寝てた?」
カリカリ
-それが、あの子、金の白髪を持った最後のハーフエルフであるあの子よ
「ええ、ぐっすり」
カリカリ
-そう、ハーフエルフの話は聞いていたけど、まさかフェンリルまで使っていたとわね
「そう、あんまり寝てないみたいだったから、良かった」
カリカリ
-でもね、あの子は生まれてすぐに捨てられたわ、そうよね、生まれたときには彼らにとって彼女は意味の無い存在となっていたんですもの
「疲れていたのか、ぐっすりよ」
カリカリ
-そう、勝手なものよね、作っておいて、生んでおいて、いらなくなったら捨てるなんて
「あの子が、あんなにはしゃいでいるのはじめて見たものね」
カリカリ
-ごめんなさい
「あら、楽しんで貰えたみたいなら嬉しいわ」
カリカリ
-なぜ、あなたが謝るの、あなたは悪くないは、アイウス
キャシーがそのまま泣き始めてしまったアイウスの嗚咽が漏れないように、アイウスを抱き締める。
その音を、聞かせないように。
誰よりもさとくて、気がついてしまう双子に聞かせないように。
「私達も、もう寝ましょうか」
そっと、アイウスの肩を押して居間を出て行く二人。
「僕らも、眠ろうかメアリィ」
夫の優しい言葉に、自分も泣きそうになっていたメアリィが、頷いた。
「ええ、そうね、彼女にとって明日が今日よりもいい日になること願ってね」
「ああ、そのためには、早く寝て、彼女に明日も笑顔をあげよう」
二人は、そう頷きをかわすと、ゆっくりと寝室にむけてあるいていった。
彼らは、気がつかない。
それは、時間のゆがみ、世界のゆがみだった。
『導き手』と『秩序』を失った世界の悲鳴であることを。
まだ、幼い彼らであっても、それは聞いておかなければならないことだったのかもしれない。
それが、つらい現実だったとしても。
いつまでも、夢にまどろんでいるわけには行かないのだから。
あー疲れた。
次からは明るく行きます。
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