雅なる月のごとく 終幕
おわりです、雅最後です。
ラグリオン学園、魔法研究塔の一室、そこでは小さな先生と生徒が向かい合っていた。
「はい、クオーツ君、君の卒業証明書だよ」
見た目年齢不詳な十五歳が、俺に向けて、賞状のような紙切れを渡してくる。
「ありがとうございます、先生」
俺の、お礼の言葉に少し寂しそうな表情を浮かべるアイナ先生。
「はいはい、君には負けたよ、まさか赤小竜とはいえ、飛竜種をしっかり倒して来てしまうとはお思わなかったよ」
「皆のおかげですよ」
俺は、かすかに笑みを浮かべて答える。
「皆か、普通レッドワイナスといえども討伐は三十人編成が基本なんだけどね」
俺の、返事に苦笑を浮かべると、アイナ先生はそうポツリとこぼした。
「まあ、いいや、君は私の課した無理難題をすべてこなしてしまったからね」
そして、その苦笑を寂しげな笑顔に変えると。
「クオーツ君、卒業おめでとう」
彼女は、最後の授業を終えた。
月がさんさんと輝く夜、俺達は下宿している酒場のテラスを陣取って飲みまくっていた。
「皆の卒業と、無事を祝ってー」
『かんぱーい!』
音頭と共にもっていた果実酒のジョッキを一気にあおる。
そのまま、一気にのみ切ると一度ジョッキをおいて周りを見渡した。
今現在、ジョッキを打ちつけているのは、自分達だけではなかった。
テラスから見ることができる街中、そこかしこで同じように数人ずつ固まった少年少女達が酒盛りをはじめており、俺達が陣取っている酒場と同じ光景が都市内のいたるところで確認できるだろう。
「良かった、良かったー」
「キール君は結局何を作ったの?」
「......にがい」
そして、同じテーブルについている仲間達も思い思いにしゃべり始めていた。
「メアリィ嬢、君の方はどうだった」
俺は、正面に座っていた軽くウエーブした金髪を持つ少女に話しかける。
「ああ、無事、剣士科も付加魔法科も卒業できたよ
試験内容がかぶっていたから、そういう点では楽だった」
俺の質問に、一人満足げにうなずきながら彼女は答える。
その横では、珍しく私服を着たマリアも果実酒をのんでいる。
「そういえば、マリアの試験はなんだったんだ?」
その光景を見ながら、俺はふと疑問に思ったことを訊ねた。
「私ですか?一週間一人の生徒を主と定めて仕えるというものですが」
彼女が言うには、それがちょうど俺達が試験に向かっている期間だったらしい。
その生徒が、ほとんどストレスや不満を感じなかったようなら合格とのことだ。
まあ、あの一週俺達はマリアに養われているような状態だったし、確実に合格だろう。
朝昼夕の豪華な三食付から始まり、朝起きれば洗濯物が洗濯済みで枕元に綺麗にたたんで置かれていたのは序の口。
夜、見張りの時は、さりげなく暖かい飲み物の入ったポットが置かれていたり。
凍りついたはずのレッドワイナスがいつの間にか三枚におろされていたり。
良く考えてみたら、最終日の晩飯は飛竜のステーキだった気がする。
まあ、そんな感じで、男の下宿暮らしの俺からしたら、彼女と一緒に依頼を受けているほうが贅沢をしているんじゃないかといったレベルだった。
まあ、マリアは合格だろう。
ガイアももちろんCランク以上を討伐したので合格。
キールは、レッドワイナスの角から精力剤を造ったら、先生に喜ばれたらしい。
ロードはCランク以上の討伐をチームで行うのが試験内容だったらしく、もちろん合格。
そして最後にライナス、卒業試験内容は筆記試験が二枚だったらしい。
なぜ、一緒にきたのだろうか?
合否をいえば、酒場に入って来たときにハンズアップをしていたから合格していたのだろう。
多分...。
さてと、次は、これからどうするかだな。
気持ちよく酔っているところ悪いが皆の意思を聞いておこうか。
「そういえば、皆はこれからどうするんだ」
「俺は、クオーツについて行くぜー」
軽く良いが回っているガイア。
「メアリィ様について行きます」
淡々と樽で酒を流し込んでいるマリア。
「楽しければそれでいい」
半分、眠りに入っているロード。
「ガイアに同じく」
気持ち悪そうにしているキール。
「どこまでも...ついていく」
たくさんの酒瓶を並べているライナス。
「私は、クランを作ろうと思っている」
頬を薄らと朱に染めたメアリィ。
『君は、あなたは(どうするんだ)』
そして、全員がこっちを向いた。
俺か、はっきりいってまったく考えていなかった。
この六年間将来のことを考えるよりも、無事卒業できるかが問題だったからな。
だから、誰かの意見を借りようと思ったんだけど。
.........まともに考えているのメアリィしかいない。
じゃあ、しょうがない。
「俺も、クランを作ろうかな」
と、ボソッとこぼす。
「せっかくだ、ここにみんないることだし、みんなでクランを作ろうじゃないか」
俺の言葉を、メアリィが都合よく書き換えてしまった。
まあ、いいけど、俺も適当だしね。
「クランっていったらさー、やっぱ名前が無いとねー」
珍しくいいことを言ったぞ、ガイア。
何か失礼なこと考えてない?と言うガイアは、ほおっておいて。
「メアリィなんか考えているのか?」
「ああ、もちろんだ」
-私達のクランの名は.........。
月光華 <フレグラス>
我らが、夜を照らす一輪の花とならんことを、願って。
酔っ払いどもが、クランを作るのに最低でも十五名必要であるということに気がついたのは、その次の日のことである。
あれから、何年のも月日が流れ、俺は二人の子供の親になっていた。
今も駄々こねる双子をあやしているところだ。
そして、ようやく寝静まったらしい双子の顔を交互にみてから静かに立ち上がる。
ベットで眠る姿だけはまるで天使のようだが、おきているときは暴君のように元気いっぱいで、それもまたほほえましい。
「お休み、クレア、サクラ」
まだ、揺り篭に揺られながらも合わせ鏡のように左右対称の色合いを持った双子の兄妹、静かに眠っている二人に優しくキスして部屋を出る。
揺り篭がかかっている窓際、そこからは優しく月光の光が子供達に降り注いでいた。
まるで、子供達が夢の中でも闇に迷わないように輝く道しるべのように。
-雅なる月のごとく END-
『蒼の魔道士』 クオーツ・サフィラス
冒険者クラン『フレグラス』の団長。
数々の功績を経て、その後サフィラス<蒼の玉石>の爵位を与えられる。
後に、冒険者の村<フレグラス村>を作り上げ、メアリィ・ツヴァインツェルと結婚する。
その後、双子の兄妹の親となる。
『灼熱の魔剣士』 メアリィ・ツヴァインツェル
ツヴァインツェル<2公>家の三女として生まれ。
ラグリオン学園に入学する、卒業後クオーツと共にクラン『フレグラス』を創設、副団長を務める。
クオーツが爵位を得て、冒険者の村<フレグラス村>を作ったあと、クオーツと結婚、そのときにツヴァインツェルの爵位は国に返還している。
その後、双子の兄妹を出産、クレアとサクラと名づける。
『銀狼の従士』 マリア
もともとツヴァインツェル家の召使として生まれ、メアリィとは姉妹のように育つ。
成長してからも、同じラグリオン学園に入学するなど、生涯メアリィに付従う。
ツヴァインツェルの爵位を返還しているので、メアリィは貴族ではないのだが、それでもついて来るマリアだった。
のち、冒険者の男性と結婚して、一人の少女を出産、ドロシーと名づける。
『剣戟士』 ガイア
卒業後、戦いの中で盾の変わりに、剣と戟の二本を持って戦うスタイルに切り替えている。
その実力は、魔法剣を使わないメアリィに並ぶとも言われており、剣士スタイルの冒険者達の目標となったほどだった。
のち、冒険者の女性ではなく、故郷の幼馴染と結婚、二人の子供に恵まれる。
長男はカルマ、長女はアルマと名づける。
『錬金士』 キール
学者肌の先生方に惜しまれながら卒業、その後、クオーツたちと共に討伐した数々の魔物から多くの魔道具を作り出す。
村ができた後は、『薬草士』の女性と結婚。
生まれた息子をクレスと名づける。
『深紅の狩人』 ロード
その高い隠密性、一発の狙いも外さないその腕から、深紅の暗殺者とも呼ばれたほどの腕を持つ。
だが、その称号に似合わず本人はいたって明るい性格のため、本人であると理解されないことがたびたびあったそうだ。
村ができた後は、同じ『弓士』の男性と結婚。
自分と同じ特徴を持つ、女の子を出産する。
名前はシルクと名づけられた。
『白銀の聖職者』 アイナス・イヤー・ヒーリングス
クオーツ以外で、爵位を貰った唯一の女性団員。
放浪癖があり、いつの間にか消えていることが良くあったそうだ。
そのたびに、どこかの王族を知らないうちに救っていたり、邪竜を気がつかないうちに封印していたりしたらしい。
村ができた後は、どこからかふらふら帰還。
旅の間に、心配になってついてきたらしい『治癒士』の男性と結婚。
その後、長女を出産フレスと名づける。
まあああ、<フレグラス>を書きたいがために生まれた外伝であります。
長々とお付き合いありがとうございました。
次話からは本編に戻る予定です。
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