雅なる月のごとく 五幕
レッドワイナス戦です。
まあ、あくまで外伝なので、戦闘は軽めです。
どっちにしろ戦闘描写は苦手ですけど。
学園都市ラグリオンから、北に歩いて三日、活火山の集合山であるレグナル山脈が存在する。
その一角、山の中腹を現在、七名の少年少女がゆっくりと油断無く進んでいた。
油断無く、中堅の冒険者でも実践できないその領域をこなしながら、彼らは、その視線の先、レッドワイナスの巣に静かに近づいていく。
そこでは、今現在一頭の赤小竜が寝息をたてている。
「俺が、呪文詠唱を行う、できれば一撃で、それで無くてもダメージは与えたい」
その身を、旅人が纏うようなマントで固めた彼らの一人、蒼髪の少年がそう言葉を発してから、詠唱体制に入った。
「わかった、私もその後の連撃に備えて、付加魔法の詠唱に入ろうと思うんだが、かまわないか?」
蒼髪の少年の言葉に、うなずくと軽くウエーブした金髪を後ろでくくった少女が、続いてそう発言した。
「ああ、大丈夫だ、ガイアとロードはレッドワイナスの監視、キールは結界防御の準備、ライナスは補助頼めるか?」
「ああ」
と、キールと呼ばれた銀髪の少年。
「おーけー」
と、ガイアと呼ばれた栗色の髪を持つ少年
「かまわない」
と、深紅の髪をなびかせる少女。
「......」
こくり、とうなずく長い蒼髪の少女。
「私は、いかがいたしましょうか、メアリィ様」
と、銀髪のメイド服の少女。
「マリアは、私達の詠唱の護衛を頼む、かまわないなクオーツ」
メアリィと呼ばれた金髪の少女が、そう蒼髪の少年に問いかけた。
「ああ、それじゃあみんな、始めよう」
『おう』
了承の言葉と共に放たれた、開戦の火蓋、その言葉と共に彼らは静かに持ち場についた。
大気の中にあふれる水分、その一つ一つを己とひとつに、自分の意思と共に魔力に練りこんでいく。
-汝は天地と共に
その魔力を、今度は練りこんだ意思のままに形づくる。
-我は汝と共にあろう
その意思を、具現し、実体化させ、とき放つ。
-汝は天地にして我、汝は我にして、すべての始まり成り
それが何かと聞かれれば、『海』だろう、しかし、誰も濡れはしない、それはすべて天に浮いているのだから。
-汝は我、我は汝、ゆえに我の呼びかけに答えよ
そして、その『海』は、俺の意思のまま、形をとる、一匹の竜を狩るために。
-汝の名は、『原初の海』、すべてを包み込む始まりの海成り
そして、すべてが組みあがった。
始まりの、すべてを内包する海が一陣の風になって、宙を翔る。
-展開『原初の海』、始動『エアグライド』
詠唱の終わりを告げる言葉と共に、『原初の海』を内抱した水の槍が、赤小竜に突き刺さった。
それは、目を覚ました。
そして気がつく、己の身が危険にさらされていることに、己に今まで食らったことの無い、殺すための無慈悲な一撃が加えられていることに。
そして、それに続くように、火炎の魔剣を揺らめかせ、こちらに駆けてくる人間がいることに。
正直、驚いた。
『蒼の魔道士』などと大層な名で呼ばれていても、まさかこれほどの水魔法を短時間で詠唱、そして具現させるとは思っていなかった。
自分の、付加魔法の方が遅くなってしまうんじゃないかと思ったぐらいだ。
まあ、とりあえず、自分の属性でもある、火の中級魔法「火炎弾」<ファイアーボール>をすばやく、己の剣に付加させるて、走り出す。
ちょうど、レッドワイナスが、水の槍をその身に受けて、のた打ち回っているのが見える。
この一撃で、死んでくれないのはかなりショックだが、今はたたみかけることが先決だと意識を切り替えて、レッドワイナスに切りかかる。
「はあーーーーー!」
気合一線ただ振り下ろすのみの斬撃、それでも私の手に、ひどく鈍いが、間違いなく切りつけた感覚が返ってきた。
「さすがー、やるね」
軽い口調の声が、隣から聞こえてくる。
軽く、視線だけ向けると、栗色の髪の少年が、自分と同じようにレッドワイナスの鱗に剣を突き立てていた。
「二人とも、離れろ」
そして、注意の喚起の言葉共に、私達の前に銀髪の無口な少年が飛び出して来ると、彼が着込んでいるマントの中から色違いの液体が入ったビンを、レッドワイナスの顔面に向けて投げつける。
「ロード、いまだ!」
珍しく、先ほどからしゃべっているキールの指令、そして、親友の深紅の髪の少女が放ったであろう、神速の矢が二本、ビンをかち割った。
戦闘前、いや、この三日間何度も話し合ったからこそ、とっさに私は目をふさぐことができた。
それでも、まぶたの裏を刺し貫くような閃光。
そう、彼が投げた二本の液体は混ざると、強力な閃光を放つものだった。
さすが、錬金士だとしか言えないその威力に少しめまいを覚えながらも、しっかりと目を開けて獲物を凝視する。
そこには、不意を突かれすぎて混乱するレッドワイナスの姿があった。
それを確認して、栗毛の少年と目配せすると、私は一気にたたみかけるために駆けだした。
目の前の、レッドワイナスはよほど混乱しているのか、手を振り回すばかりで、ブレスを吐く余裕も無いらしい。
だからこそ、ここでもっと余裕をなくさせるべきだ。
ならば、狙うのは目だ、それで致命的な一撃を与えることができる。
でも、急がないといけない、徐々にだが水の槍が刺さった後が回復してきている。
やはり、飛竜種の生命力はとんでもないものらしい。
そう考えながら、弓に矢を二本番えた私の視線の先、そこに銀髪の青年が二本の液体が入ったビンを投げたのが見えた。
「ロード、いまだ!」
まるで、私がそこを狙って弓を番えているのがわかっているかのような科白。
面白い。
そして、私は引き絞った弦をそのいくべき方向に向けてとき放った。
今日は、驚いてばかりだ、さっきのクオーツ君の魔法にしても。
ようやく完成したらしい、メアリィ様の付加魔法にしても。
キール君とロードちゃんのコンビネーション閃光弾にしてもだ。
だからこそ、ここは私も動かないとわすれられちゃうなー。
と、ひとつため息をついてから。
私は、愛用の包丁を引き抜く。
まあ、私が包丁と読んでいるだけで、メアリィ様とロードちゃんには、なぜかそれはどう見ても大鉈だ、といわれたけれどね。
まあ、いいでしょう。
そして、私も銀の髪とヘッドドレスをなびかせて前線で戦う剣士二人に加わるために駆けだしていく。
さてと、今日の晩御飯はトカゲの丸焼きかしら?
お手製閃光弾が炸裂したことを確認して。
すばやく後衛に戻る。
後は、クオーツのサポートで十分おつりが来るだろう。
前衛は、盾とロングソードを持ったガイアと火炎の魔剣と化した大型の愛剣を振るうメアリィ嬢、そして、どこから出したのかわからないがその身の丈ほどもある大鉈を縦横無尽に振るっているマリア嬢。
そして、先ほど自分の閃光弾を見事打ちぬいてみせたロード嬢は、なおもレッドワイナスの目を狙って矢をいかけ続けている。
正直、うまくいきすぎて怖いくらいだ。
「クオーツ、もう一撃いけそうか?」
だからこそ、最後の一撃になるだろう魔法を唱えようとする親友にしゃべりかける。
「ああ、赤トカゲの氷像をつくってやる」
そして、俺の心配をあっさり打ちぬくように彼は、そういって笑った。
それは気がついていた、自分の命が今刈り取られようとしていることに。
それは気がついていた、目の前の魔剣の少女一人とっても、その力量は自分をしのぐだろうことを。
そのみを、ロングソードに傷つけられながら、そのみを、魔剣に焼かれながら、そのみを大鉈に捌かれながら。
己の、視力を奪った閃光と共に、飛来した弓が己の目を撃ち抜いたことに気がつきながら。
そして、今、己を殺すだろう、圧倒的な魔力を練りこんだ魔法を放とうとする少年を肌に感じながら。
ああ、我は死ぬのだな
そこまで、考えて、赤き小竜は、意識と命をすべて凍りつかせた。
最後に見えたのは、視力を失っていてもわかる、冷たき魔法。
最後に聞こえたのは、冷たき言葉。
『凍る大地』<アイ・アイスマウンテン>
それが、最後に感じた、彼の終わりだった。
「終わったな」
蒼髪の少年がため息をつく。
「案外、あっけなかったなー」
栗毛の少年が軽く呟く。
「疲れましたわ」
金髪を後ろにくくった少女が天を仰ぐ。
「今日の夕飯はどうしましょうか」
銀髪のメイドさんが、目の前の氷像を眺めている。
「もう一頭くらいいけそうだな、お前達」
深紅の髪の少女が苦笑する。
「まだまだ、改良の余地ありかな」
銀髪の少年が吟味する。
「......わたし、何もしてない」
そして、最後に銀髪の少女が寂しそうに呟いた。
弱いですって?
いや、でも不意打ちめまいたこ殴り氷棺の四連コンボですからね、死ぬんじゃ無いでしょうか?
誤字脱字感想意見お待ちしております。
一応、次回で 外伝 雅なる月のごとしは終わる予定です。
まあ、こんな作者ですからあくまで予定ですけど。




