雅なる月のごとく 四幕
全員集合、出発です。
俺が発した疑問。
「その疑問はもっともですわね、私の学科は剣士科、卒業試験はCランク以上の討伐ですから」
にたいして、でも、あなたのような例外もある、と彼女は続ける。
そう、俺のような例外。
本来なら、人数の多い学科の方が試験は難しくなる、試験と言う名前のふるいに学生達をかけないといけないのだから。
だからこそ、この学園に通う生徒は、人気の無い学科、人の少ない学科、もう、先生の趣味に近い学科を何個か受けたりするのだ。
一人しかいないなら、その生徒をふるいにかける必要も無く、その分野を極めることができるなら、同じ職業でも違う特色を発揮できるかもしれない。
それこそが学部選択における自由の意味である。
つまり、学部選択において、一ヶ月間氷付けで、人気の無い学科しか受けられ無かったうえ、その学科の先生の嫌がらせで、卒業試験が危うい生徒なんて俺くらいのものなのだ。
本来ならね。
「私が受けている、もひとつの学科は、付加魔法科です
そして、卒業試験は、Aランク以上の討伐依頼でした」
付加魔法科、剣士として受けたい学科ではあるのだが、先生が偏屈なうえ、過去十年間で卒業生が二人しかいないという厳しい学科だった。
「そうか、あの先生ならやりかねないな」
「ああ」
「そうだねー」
俺の相槌に、先まで黙って話を聞いているだけだった二人も会話に加わる。
「でもー、付加魔法科の一番敬遠されるところは
六年かけても戦闘で使えるレベルまで習得できないこと、ってきいたけど」
同じ剣士科のガイアの疑問は的を得ているのだろう。
彼女は少し顔を曇らす。
「ええ、おかげで私はこの五年間、付加魔法の進級試験は一切ありませんでした
でも、できるようになったからこそ、この卒業試験なんです」
そして、彼女の笑顔が花開く。
そして、そのときには俺の中でもう結論は出ていた。
「メアリィ嬢、あなたの提案どおり、この依頼ぼくらで受けよう」
俺の言葉に、また少し彼女を笑みを強くした。
「それでは、そちら三人追加で、合計七人ですね」
へ、七人?
「えーと、後の三人は何?」
「クオーツ君、私にも、あなた達のように、危険を顧みないでついてきてくれる親友がいるということですわ」
俺の疑問に、彼女はそう答えた。
ところで、いつの間に俺、名前で呼ばれるようになったんだ?
しかし、その疑問ははれることないまま、依頼の日を向かえることとなる。
学園都市ラグリオンの城門前、そこでは、今七人の少年少女達が顔をつき合わしていた。
「まずは、皆さんご存知でしょうけど、メアリィ・ツヴァインツェルです、メアリィでいいですよ」
まず、メアリィが先頭を切って自己紹介、
薄手ではあるが、白いアーマープレートを邪魔にならない程度、身に纏い、背中には両刃の大型剣<ロングバウンド>を背負っている、良く見ると所々に魔法陣が刻まれているので、この剣は彼女の付加魔法に必要な物なのだろう。
そして、いつもどおり輝くような軽くウエーブした金髪を、今日は後ろで纏めている、のが今日の彼女のいでたちであった。
「皆さんよろしくお願いします、私の名前はマリアです」
そういって、綺麗なお辞儀をしたのは、従士科の制服に身を包んだ銀髪の少女であった。
ちなみに、従士科の制服は女生徒の場合メイド服なのだが、結構従士科は人気があるため見慣れた制服だったりする。
「こんにちは、ライナスです...」
そういって、マリアのまねをしたのかぎこちないお辞儀をしたのは。
蒼い髪を腰どころか膝ウラ辺りまで伸ばした小さい少女、その身の丈より大きい蒼水晶の錫杖をもっているところを見ると、クラスは治癒科<ヒーラー>らしい。
まあ、治癒科の白を基調としたローブに胸元に、青い糸で癒しの象徴でもあるシルフェの花が刺繍されている時点で一目瞭然なのだが。
「みんな、よろしくー、ロードです」
嬢性陣の最後は、赤い髪に健康的に日焼けした肌の少女だった。
動きを阻害しないためにか、ほとんど鎧などはつけておらず、軽装のうえから、旅人が着るような厚手のマントを羽織っている。
その背中に、身に余るような長弓<ロングボウ>を背負っている、その旅装のような格好とその背中の長弓を見れば、彼女が狩人科なのがわかるだろう。
「どもー、ガイアでーす、よろしくですー」
ロードの軽い感じに触発されたのか、続いてガイアが軽い感じで女性陣に挨拶した。
いつもどおりの栗色の短髪に、最低限の革鎧、腰にはロングソードと小型の丸盾をつけている。
ちなみに、ガイアと、メアリィの鎧の胸には剣士科の証である剣と盾が交差したマークが刺繍されている。
「キールだ、よろしく」
そして、いつもどおり無表情なもう一人の親友。
銀の髪で目元を隠して、胸元に金糸で秤のマークを刺繍されている以外は魔道士と同じ黒のローブに、大きな黒いマントを羽織っている。
この黒マント、内側にはたくさんポケットがついているらしく、戦闘に行くときの錬金士の必須アイテムなんだそうだ。
「よろしく、『蒼の魔道士』ことクオーツだ」
最後を閉めたのはなぜか俺、いつもどおり名乗るときには『蒼の魔道士』とつける。
格好は、何も刺繍されていない黒いローブでは無く、今日は黒いシャツと黒いズボンのうえから旅用のマント羽織っている。
腰には儀礼用の短剣を二本差し、キールのマントと同じようなつくりになっているマントの内ポケットには薬ビンのようなものが数個くくりつけられている。
「ふむ、それでは自己紹介もすんだようだし、話ならこれからの道中いくらでもできる
まずは、先に進むとしようか」
そして、メアリィの号令で皆歩き出した。
目指すのは歩いて三日ほどの位置、レッドワイナスが根城にしているらしい場所、レグナル山脈である。
城門に向かって歩き出す俺達。
「あしがー、つかれた」
とガイア。
「まだ、城門を出てすらいないよ!」
と驚くロード。
「マリア、お茶にしましょうか?」
と優雅なメアリィ嬢。
「歩きながらですか!」
これは、マリアではなく、俺だ。マリア嬢は歩きながらも淡々とお茶の準備をしている。
女性陣はなれたものなのか、マリアからティーカップを受け取るとおいしそうにのみ始めた。
「ところで、『蒼の魔道士』ってクオーツ君がもしかして、あの笑撃の『教頭の空飛ぶカツラ事件』を演出した本人なのですか」
これが、マリアだ。
「ああ、それはもう忘れさせてくれ」
これに関しては、本当に頼む、忘れさせてくれ。
「おなか、...すいた」
これはライナス嬢だな。
「............そうか、気が会うな」
と、返すキール。
お前ら自由すぎだろ!
こうして、城門を守る騎士科の、苦笑している生徒の前を通り過ぎながら、俺達の卒業試験は始まった。
次回はレッドワイナス戦になる予定です。
一話で終わるかなー?
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