一話 勇者と魔王<改>
20120309・改訂
「くははははは、その程度かのう?勇者よ」
何枚も張り巡らされた結界魔法の中心で、いかにも魔王といった姿をした化け物が妙に高い声で高笑いをつづけていた。
勇者と呼ばれた少年はボロボロの体でありながら、瀕死状態の仲間を庇うように魔王の前に立ちふさがっている。
「なんじゃ~、すでに返事をする気力まで失ってしまったようじゃのう」
「う、うるさい魔王」
なんとか声を絞り出したが、それが最後の力だったようで勇者と呼ばれた少年はそのまま地面に倒れ伏した。
「くそ!ここまでか、だが覚えておけ魔王、僕が倒れても第二・第三の勇者が…」
「勇者よ…、それは魔王のセリフじゃ」
「…………」
呆れたように言う魔王に対して、勇者は少し迷ってから言葉を続ける。
「たとえこの身が何度倒れようとも、我が命我が魂が朽ち果てるまで、神々の力で何度でも蘇り貴様の前に立ちふさがるだろう!」
「それで高笑いでもしたら完全に魔王じゃな…。
しかも戦い方が蘇生頼みとは、魔王どころかそれもうゾンビじゃろ…」
「…………」
くそ、何なんだこの魔王って奴は。
エンカウントしたと思ったら、速攻で僧侶(女)を落とし穴で気絶させ、魔法使い(女)を背後から強襲し、戦士(女)をムチャクチャチートくさい魔法で遠距離から葬りさったくせに。
俺に対しては、ねちねちと死ねない程度のダメージでいたぶってくる…。
と、思えば面白そうに僕のセリフに対していちいちツッコミを入れてくるし、本当よくわからん?
だがな魔王、お前のお遊びのおかげで最後の一撃を撃つための時間稼ぎはできた。
いくぞ一か八かの―――
-「我放つ聖光の一撃」
ふふふ、本当にこやつは飽きさせない奴じゃ。
まあ、女を三人ぞろぞろと連れて現れたときは、死という概念を魂にまで刻み込んで、生き返ることができぬくらいまで滅茶苦茶にしてやろうと思いもしたが。
…というか、どういうことじゃ?
連れている仲間が前回の転生の時と違うとか。
これなら、まえの戦士(男)を三人連れた、何がしたいのかよくわからんパーティーの方が遙かに増しじゃ…。
あれはあれで、ガチでムチムチな奴らがとっても気持ち悪かったがのう…
って、そんな話じゃなくての~、ん?なんじゃ?
勇者が何かやろうとしてるようじゃな、どれ、少し反撃してやるかの…。
-「|我穿つ漆黒の三つ叉魔槍」(ブラッド・ジャベリン)
………―――。
黒い大理石の床に倒れ付した三人の少女、彼女達を庇うように両手を広げた勇者の身体を何十本の魔槍が貫く。
それでも、勇者は口元に笑みをうかべていた。
「魔王、油断したな…」
勇者の目線の先、其処には醜い化け物の姿をした魔王が困惑とかすかに垣間見ることができる驚愕を瞳に浮かべていた。
その瞳には魔王の身体を貫く一条の光が映っている。
勇者が闇雲にに放ったはずの一撃は、魔王の結界を打ち破り偶然にも魔王の心臓を撃ち抜き、魔王の身体を杭のように壁にくくりつけていた。
「クックックッ、懐かしい久方ぶりの痛みじゃの…、
なあ、何千年ぶりかのう身体から血が抜けていくこの感覚、命が零れ落ちていくこの時間この瞬間、これが死ぬ感覚というやつだったかのう?」
どこか嬉しそうな声色をその声に浮かべながら、徐々に魔王の身体が光の粒子となって虚空に消えて行く。
勇者も限界なのか、色の無い瞳で魔王が立っているであろう方向をにら見つけている。
「さようならだ魔王、もう二度と出会わない事を願っているよ」
「つれないのぅ、お主が居なければこんな世界詰まらぬではないか…」
既に二人ともまともに身体に力が入らないのか、疲れたように地面に突き立てた剣に身を預けた勇者と、
自らの身体を撃ちぬいた光の杭を抜こうともせずに壁にくくり付けられている魔王。
「僕はもうごめんだ…。
終わることの無いこの不毛な戦いも…、お前のその見慣れた顔を拝むのもな…」
「見慣れた面…?
おおそうか、そうじゃのぅ~、今宵の生の数千年間、長き遊びに付き合ってもらった礼もあるしのぅ~
特別じゃぞ勇者殿」
一人で勝手に納得したとように頷いてから。
魔王は「それっ」、と一声発してからその頭に被っていたらしい化け物の然とした顔の仮面をはずした。
特殊メイクにも似たその仮面を取った素顔は…。
長い金髪をハラリと纏った美しき少女…。
「なっ、お前!お…女!」
「クフッ!またのう勇者、永劫たる輪廻の果てでまた会おうぞ!」
そうして、愕然としている勇者に笑いかけた後、魔王はゆっくりと虚空にきえさった。
勇者の驚いた顔がさぞ可笑しかったのか、その口元に微笑を浮かべたまま…。




