78:自分≒他人
話そうとするラヴちゃんに文句を言って、三発殴られて……私は大人しくなった。(ちょっと暴れたりもしたけど……。)
「私達ラヴクラインは全て、妄想の中にだけある現実によりオリジナルの脳とリンクしている。私はそれに気がついた時、正常でいられるようになりましたぁ。私には狂っている暇はないと」
「それ……私が甘えてるってことだよね」
「いいえ、それは私が耐えられるだけの精神をもっていただけですぅ」
「だからそれができない私は、甘えてるってことだよね!」
私はもしかしたら、博士を助けたいなんて思えていないのかもしれない。
「いいえ。おいで、ソドム-X」
「はい」
「えっ」
私の目の前で、ラヴちゃんがソドム-Xをドンと突き飛ばし、エッちゃんが尻餅をつく。(ていうかエッちゃんいつ来たんだろ。)
「ソドム-Xは私と同じくらい精神力がありますぅ。ただ、腕力は見ての通り私より弱い」
「…………」
ひょこんと立ち上がり、お辞儀をして去っていったエッちゃんはとても強そうに見えた。
「人それぞれ違うんですぅ。力ってのはぁ」
「つまり、どういうこと?」
意味……わからないんだけど。
「ソドム-Y。あなたはとても頑張った。だから限界超えちゃったんですぅ」
「でも! ラヴちゃんもメメメスも耐えてる! 狂姫さんはずっと戦い続けた!」
「ねぇ、ソドム-Y。今名前を出した人の苦痛と、あなたの苦痛。どちらが大きいと思いますかぁ?」
え……それは……。
「たとえ自分から見たらくだらない痛みだとしても、本人にとってはとても痛いかもしれない。同じ深さの傷でも、傷ついた場所によっては痛いだけだし、傷つきどころが悪ければ命にかかわるかもしれない。そういうものですぅ」
「じゃあ私は、ただ痛いだけってことだよね! でも……耐えれてない」
「本当に耐えれてないのですかぁ? 今もこのドアをあけようとしてたじゃないですかぁ!」
ラヴちゃんが勢いよく扉を開けて――――外の光が私の目に飛び込んでくる。
「いい天気ですねぇ。さぁ、ソドム-Y、行くなら行ってください。まだ間に合いますのでぇ」
「うう……」
「怖いですか?」
「こ……怖くなんて……」
「ありますね? いいですかぁ? 怖くないものに立ち向かうときは、別になんにもないんですよぉ。そうやって、怖いものに立ち向かおうとするから人は怖がるんですぅ」
あと一歩、一歩踏み出せば私は外に……。
「ソドム-Y、あなたはここに来た時からもう充分限界と言える状態だった。妄想の中にだけある現実の話をされて博士のことを連想できなかったくらいに」
た、確かに博士もラヴクライン……つまりオリジナルとかいう人に、脳がつながって……。
「だから休むといいですよぉ。安心してください、私は天才ですしぃ、強いですぅ。その私が今日の試合、メメメスは絶対勝つと保証してあげますぅ」
「でもメメメスは戦い過ぎたら脳が……」
「はい! うんちシール!」
お、おでこにシール貼られた……。
「よくできましたぁ。ちゃんと心配してるじゃないですかぁ。あなたは人のことを考えれないクズじゃなくて、人のことを考える余裕がないグズになっているだけですよぉ。今日のうんちシールはメメメスじゃなくてソドム-Y。あなたがお休みする番です」
「メメメスは大丈夫なの?」
「大丈夫ですよぉ。私は天才ですのでぇ、メメメスの状態はとてもしっかり確認、チェックチェックしてますのでぇ! さて、あなたは休んでください。じゃないと前に進めませんからぁ。戦うために、戦う力をつけましょう!」
戦うために、戦う力を。そっか、私一人で戦ってるわけじゃ……ないんだね。




