72:ぶっかけ
おいソドム、なにやってるんだ……ってメメメスに止められて、私はやっと気がついた。手を洗いすぎていたことに。
「なんか……綺麗にならない気がして……綺麗になってるのはわかってるんだけど……」
「そういう自覚があるなら大丈夫ですぅ」
試合が終わると、ラヴちゃんは必ず控室で私達を迎えてくれる。
「今日はぁ、美味しいもの食べに行きましょうかぁ」
「ほんとか! やったぜ」
メメメスが喜ぶのも正直わかる。ラヴちゃんの家で出てくるご飯は正直……美味しくないものが多い。(作ってくれてる人たちには悪いけど。)
「あ、仕方ないんですよぉ。うちの子たちはだいたい味覚失くしちゃったりぃ減っちゃったりしてるのでぇ、仕方ないんですよぉ」
ラヴちゃんってたまに、人の心を読んでるんじゃないかなって発言するよね。
「うーん何がいいですかねぇ。値段が高い美食家用のごはんはあなたたちでは理解できなそうですしぃ。そもそもメメメスが拒絶しそうですしぃ……あ、うどん!」
「うどん?」
「ええ、うどんです。好きなうどんを選択し、天ぷらも選べる。もう少し食べたければおにぎり、いなり寿司の選択も可能! 期間限定メニューもある激アツごはん、うどんですぅ! う、ドーン!」
と、いうわけで、私達はうどんを食べることになりましたとさ。というか天ぷらはわかるけど……うどん……ってなんだろう。怪獣みたいな名前だけど大丈夫かな……。
と、いうわけで、私達はうどん屋さんにきましたとさ。ってなにこれ……太くて白い……麺であることは確かだけど……明らかに太い……いや、太すぎない? というか白っ! 白すぎる……パンの白いところを麺にしたのかな……うう、味が想像できない!
「ら、ラーメンじゃねぇのか?」
「うどんですぅ」
「ラーメンじゃないの?」
「うどんですぅ」
どうやらラーメンじゃないらしい。確かにこんな太いの、つけ麺でも見たことない。
「ねぇ、メニュー……似たようなのがいっぱいあるんだけど……」
「好きなのを選べばいいですぅ!」
「なにがちがうのこれ……」
ざるとかけの違いはなんとなくわかるけど、かけとぶっかけの違いがわからない。なに? 勢い?
「ぶ、ぶっかけで……」
「メメメス! そんなに簡単に決断していいの?」
「名前的に、一番勢いありそうだから……」
私とおんなじ発想だ!
「じゃあ私もぶっ……」
いや、ちょっとまてソドム。はじめて食べるうどん。メメメスと同じメニューでいいのか? 違うメニューを頼んでシェアするべきじゃないか? いやいや、もし私がかけを頼んでぶっかけのほうが美味しかったら……。
「って、待って! 注文待って!」
「もう。早く決めてくださいよぉ」
「……か、かけ!」
なぜ私がかけを選んだか。きっとその理由を言っても、誰も信じてくれないだろう。かけが私を呼ぶ声が――――聞こえたと。
「並にします? 大にします?」
「大! あ、いや並で!」
私はこの直後、自らの判断が正しかったと確信することになる。なぜなら私達とレジの間には距離があり……天ぷらがずらりと並んでいたから! 大にしていたら、あれを、あれらを食す余裕が減る可能性がある……!(というかレジ遠いのにうどんの大きさはここで聞かれるんだ……。あ、うどん出てきた! え? え? あ、先に、先にうどんだけ受け取るの? あ、このおぼんにのせて……なるほど、この長いテーブルみたいなのはうどん置きなのか……。なるほど。)




