33:リバースアダプター
私とメメメスの第三回戦は、自宅の前だった。いや、だってメメメスにキレたらメメメスがキレてきて表出ろとか言ってくるから……。(先にキレちゃったのは私だけども。)
「ルールに守られた試合じゃねぇからな。殺害同意ボタンも押せないビビリが私に勝てると思うなよ」
「あんだけ有利な試合で負けたくせに!」
「はっ! おまえだって一回負けてるじゃねぇか」
ああ、もう腹立つなぁ!
「おい、何をしている」
「は、博士! だってメメメスがっ……」
「ソドム。メメメスはまだ療養中だ。その意味はわかるかね?」
えっ……と。博士……。
「二人とも中にはいれ」
「はい……」
「はしゃぎすぎですわ」
「あ、あなたは……きょ……狂姫さん! わわわ、わ、私メメメスって言うっす!」
いや、メメメスなに喜んでるの。あんたも悪いんだからね。そりゃ私も態度悪かったし、メメメスの体のこと気にしてあげなかったから怒られるのは仕方ないけどさ……。
「あら、メメメス。会えて嬉しいわ」
「知っててくれたんすか! あざす! ありがとうございます!」
「ええ、有能な選手ですもの」
私、狂姫さん来ること知ってたし。狂姫さんのご指名でご指導されてるし。(なんだろう、この虚しい意地は。)
結局その日、私は微妙なテンションのまま夕飯のテーブルにつき……食後の雑談タイムになってもずっと黙っていた。
「見てくださいましこれ、素晴らしいと思いません?」
「ふむ、接写リングか。だが私も素晴らしいものを手に入れたぞ?」
「あら、素晴らしいですわね。顕微鏡用のアダプターじゃないですの」
博士と狂姫さんの、輸入市での買い物自慢。二人は別行動をしていたのかな。というか狂姫さん、ご飯食べてるときも手袋はずさなかったよね……。寒くないのに肌の露出ほとんどないし……キャラ濃すぎだよ。
「それもしかして、リバースアダプターっすか?」
「あら、メメメスよく知ってますわね」
「へへ、私も結構好きなんす」
だから私は黙っている。ホント最悪。
「ラヴクラインさん、それ使うんすか?」
ちょっ……メメメス! 博士に向かって今の質問失礼じゃない? 買ったんだから使うに決まってるでしょ!
「ああ、そうだな。今日の買い物はすぐに使えるものが多いな。まぁ、そういうものばかりではないが」
ああもう、博士は優しいから答えちゃうし……。
「わかるっす! 撮影機材ってすぐ使えなくても買っちゃうっすよね。後で手に入らないと困るし、ゆっくり楽しんでいけばいいし」
「おまえはなかなか良い哲学を持っているな」
はぁ、なんか博士に褒められてるし。ていうかメメメス、敬語使ってもキャラ違いすぎない?
「そういえばメメメス、あなたずいぶんとキャラ違いますわね」
ナイスツッコミ! さすが狂姫さん! そう、メメメスだいぶキャラ違うですよ! 違うですよ!
「はい、やっぱり試合は魅せてなんぼだと思ってるっていうか、そんな感じっす」
「あら、なかなか良い哲学ですわね」
えええええええ、そうなるの?
「そうそう、この前のオリジナルソング、あれはちょっと……」
「あ、あの変な歌! うひひ、私もあれはないと思ってたんだ!」
うひひ、狂姫さんも流石にあの歌は「なし」だって思ったんだね。
「あら、ソドム。ようやく口を開いたら嫌味とは、ずいぶんと性格が悪いんですわね」
「えっ」
「私は褒めようとしたんですわよ。ちょっと感動したと。あのレベルのパフォーマンスは、Aリーグでもそうそう見れないですわね」
私……そういうつもりじゃ。いや変だと思ってたけど、えっと。
「そうだな、歌詞も良くできていた。狂姫が褒めるのも納得の出来だったな」
「へへへ、ありがとうごさいますっす!」
博士も……。
「わ、私もなんかいいなぁって思って……ごめんねちょっとメメメスとどうつきあっていいかわかんなくてその……ほら、いろいろあったし……」
「ソドム、おまえの親しい人の前で悪いけどさ、そういうのムカつくぜ」
「そうですわソドム、言い訳は見苦しいですわよ」
うう。
「まったく、教育が行き届いていないですわよラヴクライン」
「博士は関係ないです! わ、私が悪いんです!」
はぁ、何やってんだろ私。(一人外に飛び出して、すぐ後悔する馬鹿。)
…………誰も引き止めてくれなかったな……。




