28:モノクローム
ナノマシンのおかげで、体内の傷も治る。多分流血が少ないのもそのおかげ。もしかしたら私に、治癒能力あるってメメメスにバレたのかな……だってさっきから、頭ばっかり狙ってくるし。
「……」
こめかみを強く殴られると、目が変な方へ向く。でも声が出ないのは、喉に一撃いれられたから。
「しぶといぞ、糞が!」
確かに聞こえた、その声。ああ、メメメス焦ってるのか。ふふ、キャラ違い過ぎだよやっぱり。ぶりっ子なんだね。
「また……! 離せ!」
ああ、なんでだろう。なんで私は右手で、メメメスの左足首なんか掴んでるんだろう。こんなことしたらまた、頭をタクサンナグラレル……ダケ。
「離せっ! 離せっ!」
世界が白黒に見えてきた。もうダメなのかな、私。そうだ、手を離そう、倒れちゃおう。そのまま動かなければ、さすがに試合終了でしょ?
「離せっ! 離せっ! はぁああなぁああせぇえええええ!」
あはは、メメメスちょっとおかしいね。そんな大声出したらキャラ作ってたのバレるよ? そんなに足首掴まれてるのが嫌?
「目をえぐられたくなければ離せ! そこから脳を引きずり出してやる!」
目かぁ……目くらい別に……え? えええええええっ! っちょ! 目? 目はまって! って脳? 死ぬから! 脳はNO! NOだよ!
「ひぎいいいいっんんんんんっ!」
「ああああああああああっ」
ガードしちゃって電流に苦しむ私の声に、メメメスの悲鳴がハモる。金属の手でもわかる、肉を引きちぎった感触。ああ、そっか電流が流れたせいで手が、ギュッってなって……うひひ……博士、ありがとう。
「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
そして――これはその直後の私の声。あ、メメメスも同じような声を出してるから二人の声かな。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁはぁはぁ」
ゴキュンという妙な音とともに、肩の奥まで響く重たい衝撃は、私の拳から伝わったもの。頬がチリチリするのは、メメメスの拳が掠めた熱。
「お……お……おおおおおおおおおおおお! メメメスちゃんダウンっ! 動かないぞ! 動かないぞ! これはまずいかっ!」
実況の人が驚いてる。うん、メメメス倒れたもんね。あれ? メメメスが、倒れてる?
「……沈黙! 沈黙! メメメスちゃん沈黙っ!」
モニターに流れる、映像は私と……ああ、さっきのシーンのリプレイか。えっと、足首をちぎられたメメメスが、全体重をかけ私に向けて倒れながら殴りかかる。その勢いよく近づいた顔を、打ち抜いた私の一撃。え、なんだこれ、完璧なカウンターじゃん。私、こんなことしたの?
「ご覧になられましたでしょうかっ! 今のっ……今のっ……」
次にモニターに映し出されたのは、赤と黒と肌色と髪の毛のピンクが混じり合う、メメメスの壊れた顔。うわ、大丈夫かな、殺しちゃったかな……。えー、メイドさんとかめっちゃ走ってくるんですけど、あれ、あれ、私っ……もしかして……。
「……生存っ! 生存確認がとれました! よって勝者っ! ソドムっっっっっっっっっっっ! あれだけ殴られながらも意識を保ち、確実に射抜くカウンター! これは偶然か、それとも必然かっっ……だがっこのタフネスは本物だぁっ!」
………………そっか、私、勝ったんだ。
「それでは再びご覧ください! ソドム選手による見事なカウンターっ! 劇的勝利の瞬間ですっ!」
また流される映像。え、私の目、なんか暗くない? 意識ほとんど飛んでるよねあれ……。うう、殴られすぎて目がおかしいよ。やっとカラーに見えてきたけど、チカチカする……。はぁ、疲れた……。




