#68 魔王と王
ラングはトッドギースから呼ばれたので拠点から出て右側に向かった。
そこは木がまだあったはずだが見る限り一本も無かった。
「すごいな…」
キョロキョロと辺りを見回しながら歩いていると、魔術師達の姿がちらほらと見え始めた。
皆、同じような建物をいくつも作っていた。
「ラング!こっちこっち!」
遠くでトッドギースが呼んでいる。
呼ばれた方向へラングは歩き出した。
「王よ、すごいな!これならどんなに増えても困らないぞ!」
「でしょ?こっちの人間もそっちの魔族もどれだけ増えても大丈夫」
「あぁ!」
ラングは握り拳を作り、笑みと共にトッドギースにそれを見せた。
「ところで作ってほしい建物はあるかい?」
「作ってほしい?」
腕を組み、首を傾げた。
「あぁ、今作ってるのは純粋な住居だ。つまり住むところ」
「住むところ以外に作ってほしい建物ということか、それなら決まっている」
「食べるところかい?」
「わかってるじゃないか」
「しかし、それは問題があるんだよ」
「ど、どういう問題だ?」
腕を離し、前のめりに顔を近付ける。
「料理を作る者がいないだろう」
「………確かに」
「だからそれはおいおいだね、他にあるかい?」
「他に……、あっ!修練場が欲しいぞ!出来れば結界に守られたどれだけ力を使っても壊れない修練場」
「…ふふっ、やっぱりそうだよねぇ」
トッドギースはほら来たと言わんばかりに微笑んだ。
「予想していたのだな?」
「あぁ、君ならそういうと思ってね。まだ本気で戦った事無いだろう?」
「……気付いていたか」
「そりゃね、ローレライを一撃で倒していたし、あのロキって魔族も一撃と言ってもいいぐらいに倒していたじゃないか」
「…実は力をどれだけ出していいのかわからんのだ」
「それだけ強大な力をまだ出せずにいるということだね?」
「あぁ、普段は魔力を抑える服を着ているし、戦いの時も本気を出したらどうなってしまうのか見当もつかない」
「しかし今のままでは力が落ちてしまうと」
「…何でもお見通しなんだな」
「何となくわかるさ、私も全力を出したことは一度も無いからね」
「…そうなのか。では王よ、今、結界を作れるか?」
「今?」
「ああ、全力の王と戦ってみたい」
「………いいかもね、イガヤル!」
「はっ!」
「全員此所に集合させろ」
「はっ!今すぐに!!」
王の命のもとイガヤルを筆頭に魔術師達が二人の近くに集まった。
「イガヤルと魔術師達に結界を張らせる。それで存分に戦いあおうか」
「ありがとう」
「いや、私も楽しみになってきたよ」
魔術師達は少し広めに結界を張り、その光景や感じる力から他の面々もその場に集まってきた。
「先生、あの二人は何をする気なんですか?」
「ソフィア、来たかい。よぉく見ておくんだ。今からあの二人が全力で戦うよ」
ナイアはニヤニヤしている。
「えっ!?ケンカでもしたんですか?」
「違うよ、お互いにまだ全力で戦っていないからやってみたいんだとさ」
「…何ですか?それ」
「まぁそんなもんさね、男ってのは」
「はぁ…」
ソフィアは到底理解できないという表情を浮かべた。
「さて、結界が完成したようだね。どのように戦う?」
「魔法のみの戦いにしたい」
「わかった。ちなみに結界に少しでもヒビが入ったり、もちろん壊れたらその場で終了だからね」
「わかった」
「周りに被害は出したくないし、地図を作り直させるのも面倒だからね」
「あぁ、では行くぞ!」
ラングは服を脱ぎ捨てた。
「ああ!」
トッドギースも構える。
『ファイアーボール』
『ファイアーボール』
二人は同じ魔法を唱えた。
ラングの方が速さで勝り、大きさではトッドギースが勝った。
結果、ほぼ二人の中間地点で相殺された。
『フレイ』
トッドギースが間髪入れずに火の上級魔法を唱える。
『サイクロン』
それを風魔法で速度を落とし、空に飛び上がるラング。
トッドギースが放ったフレイはそのまま結界にぶつかった。
『ハリケーン』
『ストーンエッジ』
そのまま竜巻でトッドギースを閉じ込め、風に負けず直進する石の刃を数本撃ち込んだ。
しかし竜巻の中で石同士がぶつかり壊れる音が聞こえた。
「ちぃ!もういないか!」
ラングは辺りを見回す。
すると竜巻の向こう側から気配を感じた。
その姿を確認したときにはすでに遅かった。
『ファイアーアロー』
数本の火の矢が消えかかっていた竜巻の風で大きくなりラングに向かった。
『ファイアーウォール』
分厚い炎の壁でそれを吸収し
『ストーム』
直線的な風を炎にくぐらせ、風の流れに火が乗るよう魔法を唱えた。
『ウィンドカッター』
トッドギースは大きな風の刃でその風を真っ二つに切り、ストームを無効化した。
地上に降りるラング、数歩前に歩くトッドギース。
「すごい…」
ソフィアはその応酬を目の当たりにし、驚愕していた。
魔法の相性から使い方まで一つ一つ考えられていて、しかもそれを的確に放つ二人から目が離せなかった。
「ラング、本気でって言ったよね?」
トッドギースはにやけながらも鋭い目つきでラングを諌めた。
「…本気のつもりだが?」
「いーや、まだ手加減してる」
「…手加減しなければこの空間だと私にもダメージが来ると思ったからな」
「…なるほど、範囲魔法かい?」
「あぁ…」
「1度放ってみてよ。君なら収縮して放つことも出来るだろう?大丈夫、かき消してあげるから」
「…ほう、挑発してくるとはな」
「ふふん」
「いいだろう」
ラングは力を込めた。
『エクスプロージョン』
ラングは火の範囲魔法を唱えると同時にそれを収縮するように力を込め続けた。
「ぐっぬぬ!」
必死の形相であった。
『ダイタルウェーブ』
トッドギースのすぐ前から高い津波が起こり、見事にラングの魔法を消して見せた。
「何!?」
咄嗟にラングは空へ飛び、津波を回避した。
「ね?」
「ふ、ふはは!さすがだな!」
「次は闇魔法を使ってみてよ」
「…死ぬぞ?」
「それは受けてみないとわからないじゃない」
「ならば……」
『ヘルファイア』
ラングは禍々しい黒い炎の玉を放った。
『ファイアーボール』
トッドギースは再度大きな炎の玉を撃ち相殺しようとした。
だが相殺どころかそれは吸収され一回り大きくなった黒い炎の玉がトッドギースに向かった。
「まずい!」
空へ飛び上がるトッドギース。
「これが闇魔法…」
確認するトッドギースに追い討ちをかける。
『ポイズン』
『ペイン』
ラングは毒と病気の魔法を同時にトッドギースにかけた。
「ぐわぁ!!」
トッドギースは地面に落ち、もがき苦しんでいる。
「がはぁ!ぐ!うぅあぁぁ!」
『キュア』
ラングはすぐに回復魔法を唱える。
「…はぁ、ふぅふぅ」
トッドギースは落ち着いたようでゆっくりと立ち上がる。
「闇魔法にはこんなものもあるのか…」
「ああ、もちろん魔族の王である私には効かないがな」
「ということは当然ニースキースにも?」
「あぁ、だから闇魔法以外で戦う術を得なければならない」
「戦う決意はもうしているのかい?」
「……あぁ」
ラングは少しの沈黙の後、真っ直ぐにトッドギースを見て答えた。
「そうか…。なら私も正式にそれに付いていくとしよう」
「今までは?」
「少し疑ってたよ?」
「…正直だな」
「今は違うからね、過去の事なら平気で言える人間さ。私はね」
あっけらかんとそれでいて力強い言葉をトッドギースは使った。
「ふっ…、それを言われたら私も信じるしかなかろう」
「ハハハ、それも策略かもね」
「ったく、読めない王だよ」
二人は数秒見合った後、盛大に笑いだした。
その光景を周りの人物達も見ており、同じように笑うもの、不思議に思う者、何となくハッピーな者、色々な反応を見せた。
トッドギースは魔術師達に結界を解くように指示を出した。
「ラング、一ついいかい?」
「…あぁ」
「君の事を皆に話した方がいい」
「知らない者もいるということか」
「まぁね。魔法剣士と私も言っていたからね」
「そういえばそうだったな、これから私のもとに来る魔族もいるだろうからな」
「そういうこと、今のうちに抜ける者がいるかどうかを募った方がいい。魔族が来たときに混乱されても敵対されても困るしね」
「…確かにな。全員集まれる場所をすぐに作れるか?」
「当然」
「じゃあ頼んだ。私はソフィアと話をしてくるよ」
「わかった。準備出来たら呼ぶよ」
ラングはソフィアの元へ、トッドギースは魔術師の元へそれぞれ歩いていった。




