#51 王国騎士団長とナイア
王都 アーサー
勇者アーサーの名を冠した街に勇者アーサーが暮らしていた城があった。
しかし本家の子孫達は怠惰に溺れ壊滅しているため、今は別の血族の者が王としてこの地を治めている。
ラング、ソフィア、ナイアの三人は街に入り、広場に着いた。
「ここが勇者アーサーがいた街…」
「私も小さな頃に来ただけなんですけどね」
「私はその辺の酒場で飲んでるよ」
「ちょっと先生!何でですか!」
「…大人の事情ってものさ」
ナイアは気まずそうな顔をしている。
「先生の過去はわかりませんし、聞くこともしませんでしたが何があったんですか?」
「…私は本来なら存在してはいけない人間なのさ」
「…何故か使える光魔法ですか?回復魔法だけみたいですけど」
「あぁ、その通り。勇者の血族にしか使えないはずの光魔法、私は使えるが勇者の血族として私の名前は無いだろう?これ以上は察しておくれ」
「…この街に知ってる人がいるんですか?」
「どうだかね、本家が壊滅したのは知ってるから、そやつらはいないだろうけど」
「…まぁ、今はそこまでうるさくはないさ。今の王は血族と関係無いしな」
横から一人の騎士が話しかけてきた。
「アグワス…」
「ナイア、久し振りだな!」
アグワスと呼ばれた騎士は比較的友好的にナイアに声をかけた。
アグワスはナイアと近い年齢に見え、風格がある出で立ちをしていた。
「…相変わらずだね」
「そっちもな…。こちらの二人は?」
「その子はソフィア、今は勇者として魔王を倒すために精霊様に会う旅をしている」
「…っていうことは分家の子か!やはりあの魔力は魔王か?」
「あぁ、だが前回来た魔王とは違う魔王だったけどね」
「…会ったのか?」
「あんたも今、会ってるよ…」
「…えっ?」
アグワスはラングを見た。
「…魔王?」
「魔王ラングと申す」
「…ハッハッハ!!ナイア、冗談が下手になったな!あの魔力は感じんぞ!」
「そりゃあ今は魔力を抑える服を着ているからね」
「本気で言っているのか…?」
「こんな嘘ついてどうする」
「いや、どうするも何も理解が出来ないんだが…」
「ひょんなことから一緒にはぐれ魔族を倒すことになってね。そこから風の精霊様の導きで旅をすることになったのさ」
「…魔王がはぐれ魔族を?…ん?待った、やはり理解が出来ない」
「じゃあ色々話すから騎士団の所に連れていってくれ」
「あぁ、話を聞く必要があるようだな」
一行はアグワスの案内で騎士団詰所に向かった。
その道中
「ソフィアさん!ここの美味しいものは何ですか?」
「…ここは、何ですか?先生」
「アグワス、今この街で一番の名物はなんだい?」
「名物?食べ物か?…そうだな、街で今流行っているのは魚だな」
「魚!?海から遠いこの街でかい?」
王都アーサーは大陸の中心部にあり、近い海でも歩いて3日はかかった。
そのため魚という食材は滅多にあり得なかった。
「…最近、凍らせた魚を売りに来た集団がいてな。その中に一人氷魔法を使う漁師がいたんだ。他の漁師は使えないみたいなんだがな」
「氷魔法…。そりゃまた珍しい魔法を使うね」
「あぁ、しかもいきなり魚を買ってくれと来たもんだ。騎士団としても最警戒して交渉に臨んだが、連中は本当に魚を売りたいだけだったようで、街としても新鮮な魚が食べられるならと街での行商を許可している」
「へぇー、変わったもんだね。この街も。あれだけ余所者を邪魔扱いしてたのに」
「言っただろ?今はそこまでうるさくないって。どうだ?ナイア。ここで暮らさないか?」
「バカなこと言うんじゃないよ。私の事を見捨てたのはどこの誰だい?」
「あれは誤解なんだ!」
「どんな理由があっても私は街から追放された。事実はそれだけさ…」
「……」
アグワスは何も言えず、下を向いた。
「魚とやらはどこで食べられますか?」
ラングが関係無しと話をする。
「ラングさん、今はちょっと…」
ソフィアは止めるが
「いいさ、ソフィア。むしろありがたい。ラングさん、後でその店に行きましょうか」
「はい!ぜひ」
「…やはり、どうにも信じられん。本当に魔王なのか?何か気さくだし、さっきから食べ物の事しか話してないぞ?」
「そりゃそうさ、ラングさんの一番の目的は人間界の美味しいものを食べる事なんだから」
「は!?…ハッハッハ、何だそれは」
「おかしいですか?」
「まさかそれを手に入れるために支配しようとしているんじゃないだろうな!」
「いや?私が支配したら誰が美味しいものを作る?私は作れない。支配とは人間達を倒してこの地を手に入れるというような意味だろう?じゃあ美味しいものも無くなってしまうではないか」
「…あ、あぁ。それはそうだけど」
アグワスは拍子抜けしている。
「え?いわゆる観光という目的で来たって事?」
「そんなようなものだな」
「あ、あぁ、そう…うん、そうか。うん…」
今度は戸惑いを隠せない。
一行は詰所にたどり着き、アグワスにテーブルのある部屋まで案内された。
「じゃあ、話そうか。ナイア、全部話してくれるんだよな?」
「あぁ、話すよ。出来るならその上で協力してくれるとありがたいんだけどねぇ…」
ナイアは今までのいきさつを話した。
「……つまり、前回来た魔王が何か企んでいて、そこにいる魔王ラングもそれを調べていると」
アグワスはラングを見た。
「そうだ、実際に私に攻撃を仕掛けてきてもいるから、私にとっては今はニールキースは敵だ」
「そして精霊からソフィアと一緒に世界を巡る旅をしろと言われている」
「あぁ、そうだ」
「まだ仲間はいるけどね、拠点の守りも必要だから私ら三人で来たのさ」
「仲間?」
「コボルドとピクシー、リザードマンにラングさんの使い魔のカラス、ナイトメア。それと確定ではないが魔界にもニールキースのやり方に反対してる魔族がいてリザードマンが今、説得に行ってるよ。だからもしかしたら増えるかもね」
「……話が複雑すぎるな」
「そうかい?簡単な話さ。大魔王ニールキースに対抗するための連合軍って考えればいいのさ、だから私達はこの街に来た、あんた達、王国騎士団の力を借りられないかとね」
「連合軍ねぇ…」
「何か懸念でもあるかい?」
「いや、俺はいいんだ。ナイアがそこにいるならむしろ俺はそっちに行く。しかし、騎士団となると王の許可というか説得というか…」
「まぁ、すぐには決められないだろうね。勇者と魔王が大魔王と戦おうとしてるから力を貸してくれなんて」
「…だな」
「だとしたら今は良い機会かもね」
「…また来たな?」
風の精霊が現れた。
「ラング、僕の事を暇人扱いしたね?」
「事あるごとに来るからな」
「実は暇なんだよね。もう他の精霊にも女神様にも用件は伝えちゃったし」
「そうか…。じゃあキサを鍛えてやったらどうだ?何か悩んでいるとクロが言ってたぞ?」
「…それは僕にもお手上げなんだ。ラング、キサって本当にピクシーなのかなぁ?」
「…それはクロも可能性として言ってたな」
「でしょ!?うーん。あっ、違う違うその話をしに来たんじゃなかった。…アグワス騎士団長」
「は、はい。え?本当に精霊様?」
「本当じゃなかったら何で僕は飛んでるのかな?」
「す、すみませんでした。それで私に何か用件が?」
「いやぁ、水の精霊が困ってるみたいでね。この街で最近魚を売ってる店あるでしょ」
「は、はい」
「調べた方がいいかもねぇ」
「調べるとは…」
「例えばどこで魚を捕ってるとか、どうやって捕ってるとか。……本当に魚か?って事とか、ね」
「…どういう意味ですか?」
「やはり、人間では無いと?」
ナイアが話し始める。
「さすが、やっぱりその辺の魔術師とは違うね。この街にナイアがいたらあんな奴等は街にすら入れなかったろうね」
「ナイア、何か知ってるのか?」
「逆だよ。氷魔法を使う人間を知らないのさ。言ったろ?珍しいって」
「…つまり、人間ではない可能性が?」
「あぁ、精霊様の言うことを加味すればその可能性が高いね」
「…すぐに調べるために王に許可を取ろう。皆も一緒に来てくれ!…精霊様もよろしいですか?」
「いいよ、暇だし」
「じ、じゃあお願いします」
一行は城へ向かうことにした。




