デンジャー
勇者を抹殺し人間国の衰退を企む『悪の秘密結社』
その名は『デンジャー』
……俺のネーミングセンスにケチをつけるでない。
たぶんそのうち慣れるさ。
秘密基地の場所は、秘密だ。
だって秘密基地だもん。
ただ、人間国の国都にそれなりに近い場所とだけは言っておこう。
もちろん場所は地下だ。
俺一人で掘るのはさすがに無理があるので、ゴブリン×モグラでモグゴブリン(俺命名)という種を作ってやらせてみた。
土の壁では崩れそうだったので壁を固める粘液を出す、穴ガエル×ゴブリンで穴ガブリン(俺命名)という種も作らねばならなくなった。
そんな苦労のおかげでこの秘密基地は、けっこうな広さである。
既に秘密結社には、何人もの協力者が参加している。
その辺に住んでいる人を勧誘した訳ではない。
全員が元はその辺で拾った、魂も一緒に回収できた比較的新鮮な死体である。
新鮮って言葉はなんかいいよね。
新鮮なお肉とか新鮮な魚って言うと、食欲が沸いちゃうし。
殺したてのお肉とか死にたての魚って言うと、なんか食べる気あんまし起きないし。
『さぁ殺したての豚肉だよ!』とか『今朝死んだばっかりのサンマだよ!』とか言われても、なんか買う気とか起きないもんね。
新鮮な死体を埋めて育てて収穫して、魂を入れて復活させる。
復活させたのは、もちろん人間ではない。
奴隷になっていたドワーフ・エルフ・獣人・魔人たちだ。
みんな人間には恨みのある人たちばかりなので、それなりに説得もスムーズだった。
もちろん全員が協力してくれたわけでは無い。
故郷に帰りたいといいう人たちは、奴隷商人を偽装して国に帰してあげた。
奴隷を運ぶ荷馬車は、盗賊を襲って手に入れたものである。
一応、俺たちのことは秘密にしておくという条件は付けたが、知られてしまってもそれはそれで構わん。
それで協力者が増えてくれたら最高だし。
最悪それぞれの国に俺のことを利用してやろうと目をつけられても、ここは人間国だ。
人間国に入らないことには俺をどうすることもできないし、入ってきたら人間国のやつらと争いになる。
それはそれで、人間国の勢力を削ぐことになるので大歓迎だ。
ここまで組織を整えるのに、3ヵ月掛かった。
正直やっつけ仕事の寄せ集めだが、我ながら僅か3ヵ月でよくここまでできたと思う。
ようやくだ――ようやく『悪の秘密結社』としての活動ができる……。
「しゅりょー、幹部の人たちが呼んでるよー」
そう言いながら入ってきたのはタッキだ。
今のタッキは俺の秘書官のような立場にいる。
ついでに秘密基地に通じる俺の生活空間で、家事の一切を仕切っているメイドさん的な存在でもある。
まぁ実際の仕事のほとんどは、量産型タッキを使ってやっているのだが。
実はこのタッキは以前のタッキではない。
タッキに蟻を交配した、蟻タッキなのだ。
交配した肉体に魂を入れる事ができるか、という実験をした結果である。
もちろん本来の肉体である通常の量産型タッキの肉体は、そのまま確保して保険にしての上だ。
実験は上手く行った。
タッキのパワーは以前よりはるかに強化され、外殻もそこらの鉄の鎧並みの防御力を有している。
その姿は蟻のように全体的に丸みを帯びたフォルムに腕が四本、それでいて全体が狐の毛に覆われていて触覚が2本頭に生えていて、狐耳と狐しっぽがあるという……。
微妙なゆるキャラになっていた。
なんか地方の町や村にいそうだよなー、こんなゆるキャラ。
量産型タッキたちも、当然ながら蟻タッキになっている。
我が家は小さなゆるキャラたちに溢れているのだ。
四本の腕というのはけっこう便利だ。
なんでそんな事を知っているのかというと、俺もだからだ。
俺は自身をカブトムシと交配してカブトムシ人間となっていた。
いや、なんか角が3本のヘラクレスっぽいの見つけてテンションが上がっちゃって……ほら、男ならわかるよな!?
……まぁそのために1回死んだんだけど、タッキのやつがあんなに泣くとは思わなかった。
たぶん心細かったんだろう。
ちなみに死ぬときは毒を飲んだ。
なんかこの世界には普通にあったのよ、苦しまずに死んじゃう毒とか。
神様に『寿命以外で死んでも生き返らせてあげるよ』との言質をもらっていたけども、特に必要は無かった。
自分で自分の魂を管理して、交配して収穫したカブトムシ人間の自分に入りこんで完成。
そうして俺はカブトムシ人間……いや、カブトムシ男となったのだ。
でも生活空間では馴染んだ人間の姿だけど。
俺はこの交配による人体改造をした者を『品種改良人』――略して『改人』と呼ぶことにした。
もちろん『改人』となったのは俺たちだけでは無い、協力者の全てが何らかの『改人』となっている。
詳細はおいおい明らかにしていこう。
指令室には、幹部たちが待ち構えていた。
ここでは俺はカブトムシ男の姿になっておくようにしている。
敵が人間で味方がその他の種なので、人間の姿だと無用な不信感を生みそうだからだ。
「首領、ご足労痛み入ります」
「首領、お待ちしておりましたわ」
幹部2人が挨拶をしてきた。
今のところ幹部は2人、肉壁団長と病気女将である。
言っておくが、俺のセンスではないからな。
生きていた頃の名前を使うと、親類縁者に危害を加えられたり人質にとられたりする可能性があるので、幹部名みたいなのを名乗れと言ったら、本人たちがそう言い始めたんだから。
嘘じゃないからね!
肉壁団長はドワーフで、元はサーカス団で動物の調教を担当していたというおっさんだ。
商人の馬車の護衛として連れて行かれ、肉壁として盾になり盗賊に殺されたらしい。
俺が持つドワーフのイメージ通り髭に覆われた顔をしていて、背が低くガッシリした体格をしていた。
良く見るとけっこうイケメンの、ナイスミドルのおっさんである。
病気女将はエルフで、元は宿屋で働いていたというおねーさんだ。
ベトマスという街で働かされていて、店が国都に支店を出すということで荷物と一緒に運ばれていたのだが、その途中で病気になり捨てられてそのまま死んだのだそうだ。
長身で細身で耳がとがっていて、金髪の髪に切れ長の猫目。
これでアゴが妙に長くて2つに割れていなければ、美人の範疇に入ったであろうおねーさんである。
2人とも人間に対する憎悪も強く、それでいて俺に対して深い感謝の気持ちも持っている連中だ。
今のところ、能力よりも信頼できる人物を幹部に据えておきたい。
悪の秘密結社『デンジャー』は、まだまだ寄せ集めなのだ。
「準備は整ったのか?」
俺の問いは初期段階の作戦、様々な情報収集のための準備のことだ。
「こちらの準備は整っております。勇者召喚は『サヒューモ教』の教会で行われているとの情報が入っており、あとは誰がどのように行っているかの調査でございます」
俺が肉壁団長に命じたのは、勇者召喚を誰がどこでどのようにやっているかの調査だ。
こちらとしてはこれ以上勇者召喚をされたくはないので、この調査は必須だ。
それにしても『サヒューモ教』か……人間至上主義の教団だったな、狂信者とか面倒くさそうだなー。
「こちらの準備も進んでいますわ。今現在確認されている勇者は全部で11名、うち現在国都に滞在しているのは6名。首領が特にご指名された3名も王都に滞在中でございますわ」
病気女将に命じたのは、勇者の情報収集だ。
勇者を抹殺するにはまず情報だ、情報無しで戦いを挑むなど自殺行為に等しい。
勇者の【魂の刻印】は俺が安全な場所から確認できるが、そのためには顔や名前および出没地域などの情報が欲しい。その上で敵の能力の検証だ。
これには実際に誰か力のある者――改人でもぶつけてみるしかあるまい。
「よし、それでは肉壁団長の作戦をまず始めようか。改人のほうはどうなっている?」
「我らが改人ならば、既にそこへ控えております」
肉壁団長が指し示したのは暗闇。
その暗闇には、8つの目が怪しく輝いていた。




