第九話
「死にさらせこのクソ野郎がぁぁぁぁぁ!!!」
辺りに俺の叫びが轟いた…。
ふかふかのベッド。天涯つき。
高そうな絵。彫刻。芸術品。
メイド長。40歳独身。つり目、スレンダー、姿勢の良い背筋。
窓から射し込む朝の光。本日は晴天なり。
ざっと目についた、辺りの様子である。
かるーく、自分の頬をつねってみる。うん、夢じゃない。
夢の中で叫んだはずの言葉が、辺りに轟いたのは夢じゃなーい。
あはははは。
オワタ。俺の令嬢人生オワタ。
こう見えてもお淑やかに振る舞うのは得意だった。
二歳くらいまでは気にしなかったけどな。自分は男という意識の方が強かったし。
でもこの世界だの自分の立場だの魔法の存在だのを知る内に思ったんだ。とりあえず令嬢のふりをしておけば情報を手にいれやすいと。
だから…言葉遣いには気をつけてたんだけどなあ…。
「おはようございます、アレイシアお嬢様」
メイド長の声が聞こえる。何だか優しい声だ。
…いつもは三角縁の眼鏡でザマスザマス言ってそうな硬質な声を出すメイド長が優しい声とか、怖いんですけど!
「…おは、おはよう。ととと、取り乱してしまったわね!」
震えながらもしっかり答える俺。
「恐い夢を見たのですね。うなされて叫んでしまう程に」
…お? なかった事に…してくれるのかな?
「え、ええ。恥ずかしいわ。お母様やお父様には内緒にしてくれるかしら」
「ええ。私は公爵家にあるまじき汚い罵りなど聞いておりません。…その替わりに」
ニッコリ。
「淑女の悲鳴について、みっっちり! 勉強いたしましょうね!」
ハイ…。
朝から思わぬイベントを起こしてしまったが、それよりクソ神様の事だ。
自分がなんでこんな生まれなのかはわかったが…この世界についてもっと質問したかった。
俺はこのゲーム世界について知らな過ぎる。攻略キャラや主人公が誰なのかに始まり、育成ゲーム編とRPG編が終わった後は何編が始まるのかとか。
適当な要素でこの世界に来てしまった自分には、難易度が高いんだよな…。
もっとこう…楽して生きていきたい。
あとついでに、女の子にめっちゃモテたいです。ハーレム作りたい。毎日違う女の子とイチャコラしたり、たまにはまとめて全員とイチャコラしたり、朝と夜とで違う子とイチャコラしたいんだよ。
チーレム万歳。チーレム万歳。
「ふう…」
ため息も出ちゃうってものです。
「どうしたの、リル?」
「アン…世の中って難しいわよね…」
「? よくわかんないけど、一緒に勉強すれば大丈夫だよ! 元気出して、リル!」
いい子だな…アン…。
もし悪役令嬢として俺が処罰されても、お前だけは幸せになるよう手を回してやるからな。
心の中でユウジョウ! ユウジョウ! と誓いながら、今日も学園へと向かうのだった。