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シュウスケのランドリー講座

 僕は洗濯かごを抱えるリア様とともにもう一度ランドリーに足を踏み入れた。ご依頼通り彼女に洗濯機の使い方を教えてあげるためだ。


「まずは洗濯機のふたを開けて中に洗濯物を入れてって」


 依頼を受けたのはリア様の声がそれだけ真剣だったからだ。この女王様に上から目線で物が言えるのが楽しいからだなんてことは決してない。


「わかりました」


そういってリア様はかごの中身を適当に洗濯機へと放り込んでいく。


「あ、下着はネットにいれて……」

「ちょっと!何見てるんですか!?」


 見ずにどうやって教えれば良いんだよ!


「……ネットって何のことです?」

「洗濯ネットって持ってない?」

「見た事もありません」


これが本物のお嬢様と言うやつか。


「ブラのホックが何かに引っかかったり、パンツのレースが取れたりしないように、そういうデリケートな物はネットにいれて洗濯するの」

「知りませんでした……。って、加納君、女性の下着に詳しすぎませんか?」

「僕は実家で家族の洗濯物を洗って干してたたんでたの。こんなの常識」


 常識だよね?僕が家族ヒエラルキーで下位にいたからじゃないよね?


「そうなんですか……。いつもは高橋さんがやってくれますから……」

「じゃあ、今日はネット無しで。次に洗剤をこの箱に入れるんだけど……洗剤は?」

「どうしましょう、持ってません!」


 まさかここまでわかってなかったとは!これは呆れるを通り越して面白いね!


「高橋さんが持ってるはずだよね。部屋を探してきたら?」

「勝手に人の荷物を漁るなんてできるわけないでしょう!」

「そんなところは常識的なんだね」

「私は極めて常識的です!」


 お金持ちの国の常識ね。


「じゃあ僕の洗剤貸してあげるから、ちょっとここで待っててね」




 自室に帰ると真っ暗な部屋の中でケイがベッドにうつぶせで倒れていた。


「おい、ケイ……生きてる?」


 ケイの口があるであろう場所からケイのうめき声が聞こえてくる。生存確認。


「スーツのまま寝るとシワになっちゃうぞ、おまえが教えてくれたことだろう?」

「そうか……脱がないと……」


 そういってケイはもぞもぞと芋虫のように動き出した。どうやらスーツへのこだわりだけがこいつを動かしているらしい。


「僕は洗濯しにいってるからな。脱いだスーツはちゃんとハンガーにかけとけよ」

「オッケー……」


 ああ、こんなケイの姿をファンの女子全員に見せてやりたいと思った僕に天罰が当たりませんように。




 液体洗剤を持って地下に戻ると、ランドリーからリア様がこっちをこっそり窺っていた。降りてきたのが僕だとわかってほっとため息をついている。ちょっとかわいいじゃねえか。


「じゃあこの液体洗剤をそこにそそいで」

「わかりました」


液体洗剤を受け取ったリアは、キャップをはずすとおもむろに容器を傾けようとした!


「ストップ!」

「何ですか突然?」

「何で量りもせずに入れようとしてるの!?」


 洗剤が残りわずかで助かった。これが満タンだったらどうなってたことやら。


「しかし量りなんてどこにも……」

「その左手に持ってる物は何?」

「あ、キャップが量りになってるんですね、画期的!」


 そうですか、キャップの目盛りに驚きますか。僕はあなたの生態に驚きが隠せません。


「それじゃあふたを閉めて、この溝にクォーターいれて」

「クォーター?何ですそれ?」

「25セント、知らない?」

「現金は持ち歩きませんから」


 そのセリフ、いつか言ってみたいフレーズランキングトップ50にはいるかも。


「その現金がないと洗濯はできないんだけどね」

「学校ではこのIDさえあればなんでもできるんじゃありませんでしたっけ?」

「たしかにそうだけど、洗濯機だけは別。今日は僕のクォーター貸してあげるよ」

「ありがとうございます」


 そういえばリア様ちゃんとお礼は言えるんだよな。こういう人たちはお礼なんて言えないもんだと思ってた。


「この5つの溝全部にいれて」

「これさっきのコイン……このためにたくさん持ってたんですね」

「そうだよ。ちなみに乾燥機にも必要だから」

「……すいません」

「あ、別に怒ってないよ、大丈夫」


 教えてるうちに怒りは消え、いつの間にか純粋にお嬢様の反応を楽しんでいた。


「さあ、あとは洗い終わるのを待って、中の物を乾燥機に移して、クォーターを入れれば乾燥が始まるから」

「はい……」

「たぶん1時間もあれば乾くはずだから1ドル分……念のため1ドル50セント渡しておくね」

「値段で何か変わるんですか?」

「乾燥機は25セントで15分動くから、もし1時間経っても乾ききってないようなら、もう50セントいれてみて」

「なるほど!」


 乾燥機の説明を目を輝かせながら聞いてくれるなんて、家電量販店の兄ちゃんはいつもこんな気持ちを味わっているんだろうか。


「あと僕は乾燥機用の柔軟剤持ってなくてさ。女の子の服なんだからホントはふわふわに仕上げたいんだけど、ごめんね」

「いえ、加納君が謝る事では……」


 うん、これで説明すべき事は全部説明したな。


「それじゃあ後はがんばってね」

「え?ちょっと!」

「どうしたの?」

「……洗濯が終わるまで私はどうすれば良いんですか?」


 そんな、時間のつぶし方まで僕に訊かれても困るよ。ケイやニコラとならプールでいくらでも時間がつぶせるんだけど……


「どうすればって……談話室でテレビでも見てたら?」

「こんな場所で、私一人でですか?」


 はあ、わかりました。こうなったら最後まで付き合いますよお嬢様。

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