潜入!女子エリア
「ニコラ、この洗濯物リアに届けてくれない?」
女子の洗濯物を男子が持っていったら変な誤解を与えかねない。だからどうかニコラさん、お願いしますよ。
「何で私が?仲良くするいいチャンスだよ」
「僕は男だから女子エリアに入れないんだ」
「そんなルール無いでしょ?私の寮にも男の子よく遊びに来てるし」
「え、そうなの?」
ケイに教えてあげたら少しは喜ぶだろうか。早くしゃきっといつものケイに戻って欲しい。
「だからって、洗濯物はちょっと……」
「男らしくないなー。私は帰るからちゃんと届けてあげてね!見送りは要らないから」
そう言い捨てるとニコラはウインクを決めて地上への階段を2段跳ばしで駆け抜けていった。
ニコラはああ言っていたが、やはり僕から渡すのは気まずいので、真由子さんか寮母さんに頼んでみよう。
「真由子さーん?寮母さーん?誰かいませんかー?」
僕がスタッフルームで一人困っていると、トーフル対策で同じクラスのブラジル人の女の子が話しかけてきた。
「あら、どうかしたのシュウ?」
「女子エリアに用があるんだけど、寮母さんがいないんだ」
「だったら私が開けてあげようか?」
「そんなことしていいの!?」
たしかにこの子も同じ寮生だけど、それはあまりにも危機意識がないんじゃなかろうか?
「シュウなら問題起こさないでしょ?それとも問題を起こしにいく所なのかしら?」
「何もしないよ、約束する」
はあ、結局自分で行くしかないようだ。
「オッケー。女子エリアにようこそ」
「あ、そうだ。君からリアにこの洗濯物渡してもらえない?」
うん、その方がきっと角が立たないだろう。
「え?何で私が?私あの子と1度も話した事ないんだけど。同じ日本人同士で何をためらってるの?」
そういうと彼女はリアの部屋がどこにあるかを教え、自分の部屋に行ってしまった。危機感ゼロだなぁ。僕ってそんなに安全な男の子に見られてるんだろうか。
まぁそんなことはどうでもいい。さっさとこの布切れの山を渡して一刻も早くここを去ろう。男子エリアと雰囲気が違ってなんかドキドキするんじゃい!
僕は意を決してリア様の部屋をノックした。
「はい、今開けますね」
ドア越しにくぐもったリア様の声がする。こちらが名乗る前に不用意にドアを開けるのは危険ですよ?
「や、やあ」
「何であなたがここにいるんですか!?」
「中院さん、洗濯物トイレに忘れてったから」
「な!?……早く入って!」
そう言うなりリア様は洗濯かごごと僕を部屋の中に引きずりこもうとする。
「へ?ちょ、やめ……」
「早く部屋の中に入ってください!」
僕は強引に部屋の中へと連れ込まれてしまった。
「ど、どうして部屋の中に?」
最後に女の子の部屋に入ったのっていつだったろう。あれ?そもそも女の子の部屋に入った事ってあったっけ?
「部屋の前で男の子と言い争ってたら周りから何を言われるかわかりませんからね」
「いや、その男の子を部屋に連れ込んだ方が何言われるか」
「連れ込んだとか言わないでください!」
「……はい」
怖い。これが日本人留学生を統べる女王の風格か。
「それじゃあ、今から身体検査をさせてもらいます」
「はあ!?」
コイツはイッタイ何ヲ言ッテルンダ?
「先ほどのあなたが私のパ……下着を見る目つきが異常でした。盗んでないのならポケットの中を見せてください」
「盗んでるわけ無いじゃん!僕を侮辱してるの?」
勇気を出してここまで来たのにこの扱いは何なんだ!悲しいの通り越して怒りが湧いてきたよ。
「いいから!ポケットの中の物を出しなさい!!」
「……はい」
僕の怒りよりもリア様の形相の方がよっぽどレベルが上だった。僕は大人しくポケットに入っていた小銭やハンカチなどをテーブルの上においていった。
「こんなに小銭をじゃらじゃらと……だらしないんじゃありません?」
「ほっといてください」
庶民にはそのコインが必要なんです。
「どうやら何も盗んではないようですね」
ふう、やっとわかってくれたか。ここで下着ドロの汚名を着せられたりしたら、浪人どころか日本へ強制送還されかねない。
「盗んだかどうかなんて洗濯かごの中を見れば一発なのにどうしてこんなことを?」
「っ……」
気付いてなかったのか。まあ、大嫌いな奴が自分の洗濯物を持って部屋に訪れたんだからパニックに陥っても仕方ない。でもそれはそれ。これはこれ。
「そもそも中院さんの忘れ物を届けにきただけの僕が、どうしてこんな犯罪者のような扱いを受けなきゃいけないんだ!」
「それは……」
「それにノックだけで相手も確認せずにドアを開けるなんて不用意すぎない?」
「だってここは女子エリアですし……」
「あと僕だったから何もしないけど、世の中には女子の部屋に招かれただけで体の関係を持とうとする奴がいるんだから、うかつにこんなことしちゃダメだって!」
「……心配してくれてるんですか?」
「僕は常識を教えてあげてるだけだよ」
怒りが勝ってついついまくしたててしまったが、弱気になってるリア様をいじるのちょっと面白いかも。
「そもそもランドリーとトイレを間違えるってどういう事?まさかこの1ヶ月1度も使った事が無いとか言わないよね?」
「……」
「……え?ほんとに使った事が無いの?」
強気な感じで押していこうと思ったら肩すかしを食らってしまった。どうしたら1ヶ月もの間洗濯せずに過ごせるんだよ。
「私の洗濯物はルームメイトの高橋さんがいっしょに洗ってくれてましたから……」
「そんなことさせてたの?」
「させてたなんて人聞きの悪い事言わないでくれます?全部高橋さんがすすんでやってくれてたんです」
いやいや、それは無いだろう。それって僕がケイの洗濯もすすんで一緒にやってやるようなもんだろ?あり得ない。考えただけで鳥肌が立つ。
「まあ、すすんでやってるのが本当だとして、何で今日は自分でやろうと思ったの?」
「そんなこと加納くんには関係ありません!」
「そう?じゃあもう帰ってもいいよね」
多少もやもやも残るけど、まくしたてたら少しは気分が晴れたようだ。早く帰ってシャワーでも浴びよう。
「待ってください!」
僕がドアを開けようとしたらリア様がこれまでにない真剣な声で僕を呼び止めた。
「何?」
「私に……洗濯機の使い方を教えてくれませんか?」




