魔王様と魔石 ■ 36
竜族と魔石に関するすったもんだは取り敢えず収束した。
まぁ、伝書竜とかフィンデイルさんやナイリアスさんの騎竜が、思い出したようにやってきてはサナリ一族とクララちゃんによる激しい攻防の末追い返されている。
それはもう互いに親の敵かという激しさで、毎回海上で繰り広げられる怪獣合戦にハラハラドキドキだよ。
伝書竜と騎竜も普段は仲悪そうなのに、クララちゃんが振り回す触手を避ける時は息が合った連携プレイだし、ガルマとサナリにしたって辿り着かせない手腕は見事だといつも感心して観戦してる。
真面目なところ申し訳ない気もするんだけど、娯楽無いからついつい。
後、たまに夢渡で竜王さんとかフィンデイルさんがやってきては、「うちの騎竜が申し訳ない」なんて言いつつ宝飾品の類とかを渡そうとしてモジモジしたり、なんて事があったりはするけど概ね平和な日常が戻ってきたのである。
というか、竜王さんとかフィンデイルさん、わざわざ夢の中へやってきては何やら高価なお土産を押し付けてくるのは良しとしてもだ。良くないけど。
お土産はいらないと返したら、見るからにしょんぼりするとか。
自分の倍近く大きな人が眉を下げて肩が落ちているのを見ると、まるで私がいじめているような罪悪感が湧くんですけど。
それに竜王さんときたら、口を開いては閉じて、その後じっと人の事を見つめてはまた口を開いて閉じるの繰り返しで、結局何も言わないまま明け方に帰っていくのよね。
あなたは金魚なのか、鯉なのか。何しにきてんだ。言いたい事があるならはっきり言えと言いたい。寝た気がしないので、用が無いなら来ないで欲しいんだけど。
と、やんわり、婉曲に伝えてはみたものの、更に萎れた様子で「うむ」と頷いたまんまだんまりだし。
フィンデイルさんも、やはり高価なお土産を持ってきてくれるんだけど、あの人「魔族の姫」とか人の事呼ぶから鳥肌が止まらないんですが。
睡眠邪魔しにきた挙句に下手なポエムとか、寒々しくてしょうがないんだけど、何なの? 嫌がらせなの?
持ってくるお土産も、金の塊で出来た等身大のフィンデイル像とか、どうしろっていうのよ。
枕元に置いて下さいって、いらんがな。魘されるわよ。
寝る前にドアをきっちり閉じたイメージをすれば夢渡はできないのだけど、たまたま忘れたりした日に限ってやってくるから困ったもんだ。
それとも毎日チャレンジしてるんだろうか。
不思議と二人揃ってやってくる事はないんだけど、そろそろ本当に止めてくれないかしら。
と、少々煩わしい事もあるけど、のんびりと日々を過ごしていたある日の事、イシュからプレゼントを贈られた。
「何これ?」
手の甲を覆うインドのアクセサリー、パンジャそのものだ。
「先日、魔王様が竜族に囚われた際、自身の魔力が使えなかった事を考慮いたしまして、魔王様自らお力を使わなくても済むよう魔具を誂えさせてみました。失礼いたします」
イシュが利き手ではない左手を取り、嵌めてくれたパンジャをしげしげと眺める。
虹色鉱石でできたパンジャは、ビーズアクセサリーのように細かい装飾でデザインも派手すぎず好みだ。
人界では採掘場所が特殊であるため、最も高価な鉱石として高値で売買されているのが虹色鉱石なんだけど、コレ魔物が作り出しているから魔界では採り放題なんだよね。
魔力とも相性が良くて、コレ以上に最高な魔石は無いんじゃないかな。
魔力が空っぽだった虹色鉱石に、今どんどん着けられた手から魔力がチャージされていくのが分かる。
「お気に召しましたか?」
「うん。着けてても邪魔にならないし、デザインもおしゃれだし、うん、気に入った。ありがとう。で、これで……どうすんの?」
石の一つ一つは小さいけど、かなりの数があるから、魔力の容量としては結構多くなりそうな感じがする。
「このように手に着けておりますと、石が魔力を吸収してまいります。魔力が減った後はまた勝手に吸収致します。ある程度魔力が溜まると使えるようになるのですが……」
イシュが私の左手を取ったまま、一緒に魔力が溜まるのを眺めていたのだけれど――――。
「…………ワタクシもこのように、ずっと魔王様のお肌に触れていとうございます」
なんて言うもんだから、ゾワッと鳥肌が立った。
咄嗟に取られたままの左手を振り払うと、ドカッと鈍い音が響き、イシュがアッパーカットを受けたように仰け反っている。
いや、実際アッパーカットを受けてた。私の左手にあるロッドで。
「何これっ?!」
「こ……このように、魔王様の必要に応じて姿を変える魔具でございます」
ロッドの長さは私の手から肘くらいまでの長さで、小さな手でも握れる細さだ。
先端は卵サイズの虹色鉱石に、緻密なデザインが施されている。ファベルジェの卵みたいな? この先端でイシュ殴っちゃった?
ロッドから手を放すと再びパンジャに戻る。そして、減った分の魔力をチャージしていく。
「へぇ……便利だ。って、ごめん。イシュが変な事言うから……顎、平気?」
「問題ございません。魔王様から頂くお情け、例え痛みであろうとも甘美なる……」
グッと手を握り込むと確かな手応えに、迷わず頬を赤らめうっとりしているイシュへと突きつけた。
「伸びろ如意棒!」
声を上げると同時に私のイメージ通り執務室の扉は開き、勢い良く伸びたロッドにイシュが廊下へと突き飛ばされ、そして容赦なく扉は閉まった。
「おお……」
なんと便利な……。
手を開けば再びパンジャへと戻るのに、感動の声が漏れる。
扉をしきりに叩いているイシュはそっちの気で、日傘やらナイフやらハサミ等など思い浮かべた道具へと存分に変化させて楽しんでしまった。
時折、イシュの余計な一言に反応してパンジャが鞭に変わった途端イシュの目が輝いたりとか、ガルマが嬉々として鞭の見本を何種類も用意したりとか、轡に変わって途端シャイアが逃げ出したりとか、サナリが羨ましそうに見ていたりとか、そんな感じで本日も魔界は平和であります。
『魔王様と魔石』は、これにて完結となります。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。




