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プロローグ

かつて、ひとりの英雄がいた。


太い腕っぷしに、驚くべき切れ味の名剣。


勇猛無双と恐れられた男は、南海から内地に浸透すると、四十七諸国の手練れと渡り合い、たちまち大陸を自軍の旗色にぬり込めていった。


内陸最奥部の旧都で最後の大仕事をやり遂げ、自らのイニシャルを彫り込んだ剣を天に突き上げた瞬間に、世界は彼のものとなった。


五陸七海を統一した英雄は、帝国の王となるべく、麗しき妃の手を引き、玉座へと向かった。


妃は胸に、玉のような赤ん坊を抱いていた。


この子もまた、英雄の血を受け継ぎ、たくましい剣士となるにちがいない。


彼らの未来は、そして新しい国の前途は、洋々とひらかれていた・・・はずだった。


ところが、その悦ばしい場に一頭のドラゴンが現れ、立ちはだかった。


英雄は剣を抜き、投げ放つ。


その剣が、ドラゴンの額に突き立った。


すると巨大な野獣は見境がなくなり、荒れ狂いはじめた。


そして、鋭い尾刃が三人を襲ったのだ。


英雄と妃をつなぐ手が離れた。


お互いを握りしめていた手の平が振りほどかれたのではない。


痛ましいことに、妃の手首が切断されたのだった。


妃は倒れ、烈火のごとくに怒った英雄は、ドラゴンに組みついた。


わが子を脇に抱えたまま、決闘を挑んだのだ。


英雄は死力を尽くして闘った。


ドラゴンの爪を、牙を、尾先の刃をものともせず、蹴りを浴びせ、怒りの拳を打ち込む。


両者は絡み合い、くんずほぐれつの激しい死闘となった。


やがて英雄は、かつて最大の敵将の城を攻め落とし、本丸に旗を掲げたときのように、ドラゴンの頭にのぼり詰めた。


そして、額に突き立つ自分のイニシャル入りの剣をむんずとつかむ。


勝負は決したかに思われた。


ところが、このドラゴンが強大だった。


瀕死の傷を負っているにも関わらず、新帝王となるべき男とその子を背に乗せたまま、大空へと飛び立ったのだ。


それきり、ふたりの行方はようとして知れない・・・と伝説は言う。


が、今もなお、英雄は子とともに、ドラゴンの背で剣を高々と掲げ、天駆けているにちがいない。


・・・これは本当の話じゃぞ」


 髪の編み上げを許される年頃に、僧院のお師さんがよく聞かせてくれた話だ。その話がはじまると、オレは剣を振るう手を止め、一心に聞き入ったものだ。


「しかも、そう遠くはない昔の、な」


お師さんは、まるでそれを見ていたかのように語るのだった。


その目はなぜか苦々しく、ときに悔恨のような色がひらめくことさえあった。

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