第一話 新聞紙、インクの味
この作品はAIを使用しています。ストーリーの構成と下書きは自分でやっていますが、読みやすい文章にしてもらうためにAIを使用しております。ほとんどの文章力はAIのものです。ご了承ください。
『王子失踪から三年――やはり陰謀か!? 専門家が語る』
『王家の闇、出来損ないだった王子!?』
大通りのど真ん中に落ちていた、ボロボロの新聞。それを拾い上げたのは、一人の少年――ヒイロだった。
しばらく擦り切れた文字を眺めたあと、ヒイロは新聞をぐしゃりと丸める。
そして、迷いなくそれを口に放り込んだ。
むしゃ、むしゃ。
真剣な表情で咀嚼する。
数秒後、ヒイロは顔をしかめた。
「……まずい」
最後にまともな食事をしたのがいつだったか、もう思い出せない。三日前だった気もするし、一か月前だった気もする。
それほど腹が減っていた。
ヒイロはその場に大の字に倒れ込んだ。
陽光を閉じ込めたような鮮やかな陽色の髪が、石畳の上で風に揺れる。
通行人たちが「なんだあいつ……」と怪訝そうな視線を向けてくるが、気にする余裕など微塵もなかった。
なんなら通行人の革靴さえ美味しそうに見えてきた。
「……いや、待て」
ヒイロは自分の視線を追う。
黒く艶のある革靴。
「……いや、さすがに靴は食い物じゃない」
危ない。本当に危ない。
現実逃避するように、ヒイロは空を見上げた。
「あの雲……メロンパンみたいだな……」
だが、現実逃避も長くは続かない。
その時だった。
――バリンッ!!
頭上でガラスの砕け散る音が響いた。
「うおっ!?」
反射的に顔を上げたヒイロの目に飛び込んできたのは、建物の三階ほどの高さから、陽光を切り裂いて落ちてくる桃色の髪をなびかせた人影。
鳥かと思った。だが違う。
空を飛んでいたのは、ぐるぐる眼鏡をかけた少女だった。
腕には大きなカバン。必死にそれを胸に抱きかかえている。
割れた窓からは、ガラの悪い屈強な男たちが身を乗り出して怒鳴っていた。
「待ちやがれ、泥棒猫が!!」
ヒイロが目を丸くして眺める中、少女は近くの屋根へと軽やかに着地した。
「盗まれる方が悪ぃんだよ! バーカ!! オレを捕まえられるもんなら捕まえてみな!!!」
べぇー!! と舌を出して男達を挑発し、トントン、と小気味よい足取りで屋根から屋根へと飛び移り、そのまま逃走を続ける。
「ん……?」
その瞬間、ヒイロの鼻先がぴくりと動いた。
くんくん。くんくんくん。
生きる執念のすべてを込めた鼻先が、ある一点で止まる。
「食べ物の匂いだ!!!」
視線が、少女の持つカバンに釘付けになる。
次の瞬間、ヒイロはふらつく足で走り出していた。
考えるより先に、飢えた身体が動いていた。
少女――レイはほくそ笑む。
(上手く盗めた……! あとはどこか人通りの多いところへ……!)
荷物を抱きしめたまま、屋根から路地裏へと飛び降りた。
しかし、着地点を確認する余裕がなかったのが運の尽きだった。
まさかその真下に、涎を垂らした少年が獲物を待ち構えるように両手を広げて立っていようとは。
「うわぁああああああ!!!!」
「ブフォッ!?」
レイの着地は、見事にヒイロの顔面を捉えた。勢いよく二人はもつれ合い、地面を転がる。
「何してんだお前!! 邪魔だ!!」
「わっ、ごめん! なんかご飯の匂いがして、つい……」
ヒイロは鼻を押さえながら、申し訳なさそうに謝る。
だが、ぶつかった拍子にカバンの中身が地面にぶちまけられていた。
転がり出たのは、紙袋に入ったパン。そして、手のひらより少し大きいくらいの鏡。
転がったパンに視線が吸い寄せられる。
だがその直後――
カラン、と石畳を滑った鏡面が、夕日を受けて一瞬だけ妖しく輝く。
ヒイロはなぜか、その鏡から目を離せなくなった。妙にざわつく感覚が胸の奥を支配する。
その瞬間。
――バキンッ。
不快な音が鳴り響く。
周囲の空気がびりりと震え、一瞬視界が眩んだ。
ヒイロはあまりの不快な音に思わず耳を塞ぎ、俯く。
(っ………!?……割れる……割れる割れる割れる割れる――!)
意識が遠のく。
閉じかけた視界の先でうっすらと桃色の髪の少女がうずくまっていた。彼女もまた、同じように苦しんでいるらしい。
(割れる、割れる!)
ぼんやりとした頭で、ヒイロは何故か手を伸ばしていた。
桃色の髪の少女に向かって。
理由はわからない。ただ、そうするべきだと強く感じていたのだ。必死に少女を見つめる。
ブツリ。
世界が裏返る。
伸ばした指先が少女に触れる寸前ーー
視界が闇に塗り潰された。
◇
「うわー! 最悪だ。何してくれてんだよ、この鏡、高く売れるらしいのに!」
耳に飛び込んできたのは、怒りに満ちた声だった。
ハッと意識が浮上する。
目の前には、割れた鏡の破片を慌ててかき集めるレイの姿があった。
さっきまで頭が焼けるように痛かったはずなのに。
何故痛かったのか、思い出せない。
「……えっ。あ!ほんとごめん!」
ヒイロは弾かれたように頭を下げる。
「弁償しろよな。金貨500枚で許してやる」
「……あれ? これ盗んだやつだろ?」
「……そ、それは」
レイは三つ編みをいじりながら、ぐるぐるメガネの奥で目を泳がせる。
「俺、謝る必要ないじゃん!!」
言い返したヒイロの前で、レイの泳いでいた目が、ふと一点で止まった。
レイはそこで初めて周囲の異変に気がついた。
「てかさ、ここは一旦見逃すから……パン、俺にちょうだい?」
「……なぁ」
レイは返事をしなかった。
代わりに、ゆっくりと周囲を見回しながら呟く。
「今、オレたちって路地裏にいたんだよな……?」
レイの声には、困惑が隠しきれなかった。
「ん……? 多分?? パンに夢中で周り見てなかったけど」
「いや、オレは路地裏に降りた。確かに」
「まあ、街にいたとこまでは覚えてるぞ」
ゆっくりと立ち上がるレイ。
「じゃあ何でオレたち、森にいるんだ?」
「えっ?」
ヒイロもそこで初めて周囲を見回した。
石畳も建物もない。
あるのはどこまでも続く木々だけだった。
「どこだここ!?」
◇
「意味がわからない……何が……あ、こいつの固有魔法か……? いや、だが他に人影は……」
その場にへたり込み、長い三つ編みに手を当ててボソボソと呟き始めるレイ。
その一方で、ヒイロはドタドタと歩き回りながら何かを必死に探していた。
「パン!! パンが消えてる!」
「うるせぇ黙れ!! その辺の石でも食ってろ!!」
「その手があったか!」
「ねぇよ!!」
イラついたように、レイはスカートのポケットから大きなチョコレートを取り出し、わざとヒイロから離れた場所へ投げる。
が、そんな嫌がらせは通じず、ヒイロは易々とそれをキャッチした。
「うおおおおお!!! ありがとう!!!」
(……まず、状況を整理しよう)
涎を垂らしながら、包装紙ごとチョコレートに齧り付くヒイロを横目に、レイは思考を回す。
(オレは鏡を盗んで、路地裏に逃げ込んだ。そして、この奇妙な男とぶつかった)
「久しぶりの甘味……!!」
奇妙な男は、ボロボロと感涙を流している。
(それで、鏡が割れて、気がついたら森にいた)
「ありがとう!! 俺の名前はヒイロ!! アンタの名前は?」
そう言って差し出された手を、レイは見向きもしなかった。
(この場にあるのは、手にしていた荷物だけ)
「聞こえてないのか? おーい!」
もはやメガネにぶつかりそうな距離で、ヒイロが陽色の瞳をキラキラと輝かせている。
レイは目を合わせないように俯いた。
(やはり、この男の仕業なのか……?)
ふと、俯いた先でキラリと光る何かを見つける。
(鏡の破片?なんでこれだけここに…ますます意味がわからねぇ)
混乱が収まらず、思わず頭を抱えた。
(だが、とりあえずこの森を出ねぇと)
周囲は不気味なほどに静まり返った木々。
虫の音一つ聞こえない。
風は吹いているはずなのに、葉擦れの音すらしなかった。
まるで森そのものが息を潜めているよう。
「でもまだお腹空いてるなぁ」
響くのは、あの馬鹿の間抜けな声だけだ。
スタッと立ち上がり、レイはそそくさとその場を去ろうとする。
「あ! 待ってよー!!」
「………」
シャキン、とナイフが抜かれる。
レイはヒイロの喉元にそれを突き立てた。
「?」
「…この転移はお前の固有魔法のせいなのか?」
「ん?いや、違うぞ!だって俺……」
「オレはお前を信用していない。そこから動くな。オレがお前の視界から消えるまで」
何か言いかけたヒイロの言葉を遮り、レイはジリジリと後退った。
「少しでも動けば、オレの固有魔法でお前を殺す」
「えぇー……」
困ったように頬を掻くヒイロ。
固有魔法——この世界で一人につき一つだけ与えられる特別な能力。
他人の能力は基本的にわからない。
ピリピリとした空気が流れる。
ぐぅうぎゅるるるる!!
その静寂を破ったのはヒイロの腹の奥に住まう食欲。
(やばい!腹減りすぎて死ぬ!!)
ヒイロは必死に周囲へ目を走らせた。
ボロボロの服。
手入れのされていない髪。
異常なまでの空腹。
レイは思わずヒイロから少し目を逸らす。
「あ!あそこ!!」
ヒイロは森の奥の方を指差す。
「煙だ!!人がいる!!……肉の匂いもするぞ!?」
クンクンと興奮したように鼻を鳴らす。
「……は?何にも見えねぇぞ?」
目を凝らしても木々しか見えない。
ぐるぐるメガネの奥で、目を細めているようなそぶりをするレイ。
「ちょっと俺見てくる!!」
弾かれたように走り出すヒイロ。
(見えているのか?本当に?)
(もし、人里なら貴重な情報だ)
レイは顎に手を当てた。
(この距離ならいつでも逃げられる)
(……追ってみるか)




