11 戦闘訓練
「うへぇー、やっぱ塩気がないと美味しくないな」
昨日、食べきれずに残しておいたホーンラビットの肉を焼いて朝飯がわりに食べている。朝から肉と思うかもしれないが、ササミに近く脂肪分が少ないので朝から食べてもキツくはなかった。味は別として・・・。それに持ってきていた食料はまだ少し残っているが保存が利くものなので緊急時に備えて残しておきたかった。
ダンジョンに閉じ込められてから救助がいいつまで待っても来ず、数日は不安と絶望しか考えられなかったが生き残ると決め、目的を定めたからか暗くなりそうな気持ちも楽になった。
朝食を食べ終えた界人は、手早く身支度を整えモンスターを探しに歩き出した。
ギャイ、ギーギャギャ。ギャギ。
ギャーギャギャ。ギャギャギュギ。
しばらく歩いているとよく分からないことを言い合っているゴブリンの集団と出くわした。気づかれないように壁に身を寄せて観察する。
「五体か、武器は棍棒のみ。情報通りだな。ステータス的には多分勝てるだろうけど武器が心配だな」
手持ちの武器はナイフが二本。しかも、一本は解体や採取用なので戦闘に耐える代物ではなかった。ナイフの柄は短く懐まで潜り込まないと攻撃が届かないので逆に攻撃されるリスクが高くなる。動けない敵や単体の敵で気づかれていないのならともかく回復手段が残り少ないポーションしかない現状では頼りないと考えていた。
そして昨日、寝る前に道具の手入れをしていて思いついたのが、片側の刃が欠けてしまったピッケルを採掘用から戦闘に使えるよう改造することだった。残った刃の部分を研いで削り掘ることよりも切り裂けるような鎌にし、欠けてしまった部分もハンマーとして使えるように欠けた断面を少し丸みを帯びた凸面にし槌頭にした。
見た目は戦槌のような感じになった。柄が長く攻撃のリーチがナイフより広くなったので少しはリスクを減らせたと思う。
しかし、不安もある。元々ピッケルだったのをお粗末な道具しかない中で改造したのだ、出来栄えは自分の鍛冶スキルを信じるしかなかった。
界人は足元に落ちてる石を拾い、ゴブリン達より奥の床に落ちるように投げた。落ちた石が音を立てた事で、会話らしきものをしていたゴブリン達が一斉に音の方を向く。
それを合図に界人は身を潜めていた壁から離れ、急いでゴブリン達に近づく。手前にいた二体を背中から鎌の部分で切りつけようと戦槌を横薙ぎした。
「へ?マジか・・・」
深手にはなっても一撃では倒せないと踏んでいた界人は二体のゴブリンが上半身と下半身に真っ二つに切断されたことに驚いた。
ギャギギ!?
「あっ、やべ!───今度はこっちだ!」
グゲッ!?
驚いた界人の声で残りのゴブリン達が界人に気付き振り向いた。界人はすぐに三体目のゴブリンに近づき槌頭を頭上に振り落とした。三体目は頭が陥没して奇声を上げ絶命した。
ギャギャギャイッ!
ギャッギャ!
残った二体が吠えるようにして棍棒を振り回しながら走ってくる。その攻撃をなんとか躱し振り向いて向かい合う。
「敏捷のステータスが低いせいで避けるのも結構ギリギリだな。ってことは攻撃速度もそれに比例するだろうから当てるのも難しいぞ」
(とりあえず二体をいったん離さないと攻撃を受けてしまうな。両方同時に対処するのは無理だ。)
界人は二体のゴブリンからの攻撃を躱しつつどうやって二体を引き離すか考えていた。そして倒したゴブリンが持っていた棍棒が落ちているのが目に入った。
落ちていた棍棒を近づいてくる片方のゴブリンに向けて蹴り飛ばした。棍棒を蹴り飛ばされた方のゴブリンは避けようと大きく横に飛んだ。それを狙って飛んだ方向に鎌を振りぬいた。
するとゴブリンは脇腹から肩にかけて寸断され倒れた。すぐにその場から離れ最後の一体と距離を取る。
仲間が倒れ残り一体となったが、ゴブリンは構わず突っ込んできた。それを躱し、ゴブリンが振り向く前に鎌を横薙ぎして最後の一体を仕留めた。
「ふぅー、なんとか勝てたか」
一息つき、その場に立ち尽くして戦闘の高揚感を落ち着かせる。
「結構ヒヤヒヤしたな。二体だったからまだなんとかできたけど、五体同時だったら絶対に攻撃くらってたし。てかゴブリンと速さがそんなに変わらないんだなオレ・・・」
界人はゴブリンに一部とはいえステータスで並ばれていることにショックを受けた。
「反省すべき点は色々わかったけど、まさかこの戦槌の切れ味がここまであるとは思わなかったな。おかげで命拾いしたし。だけど慣れないせいかバランスが悪いな、体の動かし方を考えないとな」
落ち着いてきたのでゴブリンから魔石を抜き取り、落ちている棍棒を拾い集めてその場を後にした。
その後、三回ゴブリンの集団を見つけて注意を逸らし、奇襲で数を減らし倒していく戦法で今日の訓練を終えた。
ホーンラビットは見つからなかったので帰りに湖でスモールトラウトを確保して安全地帯に戻った。
今日の晩御飯はスモールトラウトの焼き魚とスモールトラウトのお刺身である。うん、塩も醤油もないから美味しくない。
「やっぱ、同じ戦法ばかりだと戦い方が成長しないな」
晩御飯を食べ終えて、今日の戦闘を振り返り反省する。
何回か集団と戦ったおかげでレベルとステータスが上がり、ゴブリンを楽に倒せるようになってきたとはいえ三体以上に囲まれれば注意力が散漫し死角からの攻撃を許してしまう。一人でも常に視野を広く持ち気配を読むような感覚を身に付けなければゴブリン以上の敵と複数対峙した時に一瞬でやられてしまうだろう。
それと戦槌に少しは慣れたがまだまだ扱いきれていないので動きを体に覚えさせるために素振りの練習もしよう。
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一週間が経った。
ゴブリンやホーンラビット相手に戦闘経験を積み、一対多の戦闘もだいぶこなせるようになってきた。レベルを上げ、ステータスも向上しいよいよ11層に突入しようと思う。
「結構、長い間ここにいたな・・・。ま、崩落した天井が未だ開通してないからここか下の階層にしか行けないんだけど」
カバンを背負い戦槌を持って11層に降りた。
11層は10層と同じような洞窟だが通路の幅が倍近く広がり、地面から天井の高さも同じぐらい高くなっていた。
「広いな。それに10層よりも少し明るいか?」
気になった界人は光源の発生場所に目を向ける。壁から生えるように緑色の光を放つ結晶石があった。
『緑灯石』《りょくとうせき》(良)
蓄光石の一種。魔力を貯蓄し発光する。貯蓄した魔力を使いきると発光しなくなる。魔力を直接込めるか魔力が豊富な場所に置いておくと魔力を貯蓄する。質によって貯蓄できる魔力量は異なる。
「ほぉー、前よりも詳しく見れるな。それに面白いことが書かれてるじゃないか。何かに使えるかもしれないからから少し頂いていこう」
結晶石に近づき元ピッケルであった戦槌の槌部分を叩きつけ、いくつか緑灯石を確保した。
それから界人は少し進み低木がいくつか生えている場所に出た。低木には濃い紫色の小さい果実が実っていた。
『アメシストベリー』(良)
ベリー系の一種。アメシストのような濃い紫色。薄暗く魔力と湿地性のある場所を好む。甘酸っぱく爽やかな味。紫が濃い物ほど甘さが強い。
食べ物も素材として見れるため[眼識]の適用範囲に含まれるらしくこの状況では食べられる確認が出来るのでありがたかった。おまけにたくさんスキルを使えばレベルが上がりやすくもなる為、[眼識]様々である。
「うまそうなベリーだな、これも頂くか。・・・やっと肉と魚以外に食える物にありつけたぜ」
界人がベリーに感動して採取していると隣の低木の陰から黒い物体が音を立てずに飛びついてきた。
「うっ!?」
界人は咄嗟に両腕で顔をガードするように構えて身を守ったが、黒い物体はそのまま界人の左腕に噛みついた。
「──こいつはっ!まずいっ!」
噛みついた物体が蛇型の黒いモンスターであると気付き、すぐに嚙みつかれた腕から反対の手で引き離し逃げられないように首元を掴んだ。そのまま腰に差していたナイフを引き抜き蛇の首を切り落とす。
蛇のモンスターは首を切り落とされてもすぐに死なず、頭と胴体が数分間動き続けた。
「あぶねー。やっぱ服の袖を貫通してるな。ちょっとだけ腕に刺さったし」
界人が袖をめくり噛まれた箇所を見て、冷や汗を流す。左腕に小さい針で刺されたような傷が出来ていた。
傷口に口を近づけ毒を吸い出すようにして吐き出したが、毒が抜けきる前に巡るほうが早かったのか界人の体が痺れだした。
「これがシャドウスネークの麻痺毒か。動けないほどじゃないが手に力が入らなくて物を掴みづらいな。毒が抜けるまでここから少し離れるか」
界人は低木の生えている場所から離れ、近くにシャドウスネークが潜みやすい岩陰がない壁際で毒が抜けるまで待ってから探索を再開した。




