09 遭遇と崩落
10人程の冒険者のパーティーが全員顔色を青くしながらダンジョン内を走っていた。
「ハァハァハァ・・・クッ!?」
「大丈夫かリーダー?」
「・・・ああ、左腕を潰された。ここまでいくとハイヒールじゃないと治せないだろう。だが、俺よりもドルンの方が重症かもな」
リーダーと呼ばれた男、ハスターは先程自分が助け出したばかりのドルン(ハウンドドッグの仲間に背負われている)を見ながら仲間に怪我の具合を報告した。
「すまんウチのリーダーのせいでハスターさんに怪我させちまった」
そう言ってきたのはドルンのパーティーメンバーの一人で斥候役の男だ。
「いや、アイツが先に飛び出していなければ私も同じことをしていたかもしれない。そっちはコッティーを我々はフランを失ったのだからな・・・」
悲憤を滲ませるような表情をしてハスターが答えた。他のメンバーの表情も似たようなものだった。
つい先程、謎のモンスターによる襲撃を受けた二つの冒険者パーティーはどちらも仲間を一人失ったばかりである。
仲間の死と何もできずにおめおめと逃げることになった冒険者達は様々な想いを堪えて上層を目指して駆けていた。
「ドルンの様子はどうだ?大丈夫そうか?」
「いや、息はあるみたいなんだがまだ暫く目覚めそうもない」
「そうか・・・」
ハスターはリーダーとしてこれからどうするか頭の中で素早く考えを巡らせる。
「負傷した私とドルンがその様子ではやはり急いで出口を目指すしかないな。どうする?」
「そうだな、出口までハスターさんの指示に従うよ。それでいいか?お前ら」
ハウンドドッグの斥候役の男がパーティーメンバーに問いかける。そして全員ハスターに従うことに同意した。
ハスター指示のもと何度かの戦闘と小休憩をはさみ冒険者達はほぼ全力で出口に向かって数十時間も走り続けていた。それだけ走れるのはやはり金ランクまで登りつめるだけの実力があるからなのだろう。しかしそんな彼らでも謎のモンスターに敵わなかった。
そこらの冒険者よりも遥かに良質な装備を身に纏い実力も高い彼らであったが、謎のモンスターの前では一合すら敵わない。膂力に圧倒的な差があった。おまけに行動不能にする謎の攻撃までしてくるのである。
「よし、もうすぐ9層だ。あと少しだ踏ん張れ!」
流石の彼らでも、45層からここまで一気にほぼ全力で走ってきたことでかなり疲労と所々に怪我を追っていた。体はまだ動くが、全力の戦闘は厳しいだろう。
だが、この階層にいるモンスターなら疲労していてもかすり傷負うことなく誰もが単独攻略可能と考えていた。
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ダンジョンでミスリル鉱石を採掘するようになってから3日経った。
今日も9層まで有本さん達の班と一緒に降りてきた。
「四津谷君、ミスリル鉱石の採掘順調に進んでる?」
「いや、あんまり良くないかも。ちょっと行き詰ってきたかな・・・」
「?」
9層の採掘ポイントまでまだ距離があるため、有本さんと会話しながら移動している。ちなみにマッチョ達は少し前を歩きながら今日も筋肉談議に華を咲かせていた。
「スキルのおかげで掘る場所は分かるんだけど、奥に掘り進めて行くほど壁が硬くてなかなか進まないし、この階層のミスリル鉱石はあらかた掘り尽くされてるような感じだから数も少なく品質も粗悪な物ばっかりなんだ」
「そうなんだ。だとしたら、もうダンジョンには潜らなくなるの?ミスリルも採れないみたいだし」
「いや、研究の為にまだまだミスリル鉱石は欲しいから有本さん達に少しお願いがあるんだ」
「お願い?えっと、私は鉱石とか詳しくないからあんまり力になれないと思うよ?」
「そうじゃなくて、ミスリル鉱石は9層以降の階層から採れる物だから俺も一緒に下の階層に連れていって欲しいんだ」
「えっ?でも10層からは今までよりも強いモンスターも出るし、数だってこれまでよりももっと増えるんだよ?戦闘職じゃない四津谷君だと危ないよ?」
小夜は界人のお願いに驚きながらも危険性についてちゃんと説明し注意する。
彼女たちが界人といつも一旦分かれて攻略している階層は現在16層である。彼女たちも初めて10層の攻略に乗りだした時はこれまでのダンジョンの雰囲気からガラリと変わり危険度が上がった事を体験していた。
一度にエンカウントするモンスターの数・種類。死角から不意を突いて攻撃してくるモンスターなど様々だった。慣れてないうちは小休憩もまともに出来ない始末であった。
そんな場所にまともに戦闘訓練を受けてない非戦闘職の界人が自ら望んで降りたいと言っているのだから小夜としては危険性を訴え翻意してもらいたかった。
だが、
「ごめん、それでも欲しいんだ。そして、俺を10層でも活動出来るようにレベル上げにも付き合ってほしい。どのみち、採掘で掘り進めるのに筋力のステータスも上げなきゃだから」
「・・・・」
界人が真剣に頼み込むその目を見て暫く考えこんだ小夜だったが、ふぅと息を吐くと仕方なさそうに答えた。
「やれやれ、仕方ないわね。こっちが認めなかったら黙って下に降りる気だったろうし、勝手に行動されるより私たちと一緒にいてレベル上げする方が安全か」
もしも断られた時に考えていた事を見透かされて界人はバツが悪そうに苦笑した。
「私はいいけど、彼らにも話さないとね。ねえ聞いて、マッチョ軍団」
前を歩いていた四人のマッチョがこちらに振り返った。
そして、有本さんに話したお願いをもう一度M4に話した。M4は快く俺のレベル上げに付き合ってくれるのを同意してくれた。
「良かったわね、四津谷君。渡辺君達も手伝ってくれるみたいで」
「うん、そうだね。それよりもあいつらの名前はちゃんと覚えてたんだね」
苦笑交じりに界人が質問すると、小夜はため息ついてから答えた。
「いい加減イジワルはやめてあげなきゃと思っていただけよ。いつまでもマッチョ1号とか呼ぶわけにはいかないわ。それに渡辺君達はバカではあるけど根は悪い人達じゃないってのは分かるわ。困ってるクラスメイトを見たら声を掛けて助けたりしてるのを何度か見たから」
「へぇー有本さんはクラスメイトの事をよく見てるんだね。さすが学級委員長だ」
「な、何よ!その目は!ニマニマとこっちを見て」
小夜は少し赤くなった頬を隠すように界人の視線からそっぽを向いた。
界人達が10層に入り少し歩くと人だかりが出来てることに気づいた。その人だかりには一般の冒険者と思われる人達もいたが、ほとんどはそれぞれの班ごとに分かれて訓練しているはずのクラスメイトと補助についている騎士団員達であった。
界人達も人だかりが気になり近づいて行った。
「つっきー!」
「ん?あっ小夜ちゃんだ!」
有本さんが牧野さんを見つけたらしく声を掛けて話始めたので俺も牧野さんと同じ班のH4に話しかけた。
「道明寺、この人だかりは何だ?何かあったのか?」
「四津谷か、俺達もついさっき来たばかりで詳しいことは分からないがーーー」
どうやらこの街で有名な金ランク冒険者の混合パーティーがダンジョン下層の方で起きている異変の調査依頼を受けていたらしくそこで未確認の謎のモンスターに襲われ逃げてきたということらしい。
先に来ていたメディナ副団長が前方から走るように戻ってきた冒険者達が満身創痍の状態だったことに気づき怪我の治療と何があったのか聞いてるうちに周りに人が集まったようだ。
「ーーー事情は分かりました。お辛いところ報告してくださりありがとうございます。ギルドには話を通しておきますので」
「ああ、助かります。それと疲労回復ポーションや治療までしてもらって」
「いえ、帰還中に引き留めて無理を言ったのは私の方ですのでこれくらいは。しかし、あなたの左腕とお仲間の一人はここでは治療出来ませんでしたので近くの教会の方に行った方がいいでしょう」
パカパカ。パカパカ。
人だかりで少し騒がしくなっているこの場で何かが近づいてくる音にいち早く気づいたのは『ハウンドドッグ』と『ホワイトイーグル』の彼らだった。
「ッ!?ヤツの音だっ!間違いねぇ追ってきやがったのか!」
ハウンドドッグの斥候役の男が危険を知らせるように叫ぶ。周りの冒険者も只事ではない様子に警戒し、メディナは何が来たのか理解しすぐに補助に入っていた騎士団員達に指示をだした。
「現段階をもって遠征は中止とし、撤退する!我々はその為の時間を稼ぐ。各員、防御陣形を取れ!」
騎士達が背負っていた盾を構え、近づいてくる謎のモンスターと界人達や周りの冒険者の間に入る。
紅く光る瞳孔が全員の目にも見えるぐらい近づいたところで謎のモンスターは一度止まり、獲物を見つけたと言わんばかりに瞳をさらに輝かせた。
「デカいな」
「ああ・・・」
界人と司がモンスターの姿を見て驚くように呟いた。全高が5メートルぐらいあり、全長も6メートル近くあったのだ。二人はダンジョンでの訓練が始まって以来初めて目にするサイズのモンスターであった。
モンスターが空気を吸うような動作を見せた後、吸った空気を一気に吐き出して加速するように駆けだした。
「早いッ!?来るぞーッ!構えろッ!」
「ーーーッぐあぁぁ!」
盾を構える騎士達が突っ込んでくるモンスターを先に行かせないように進路を妨害して備える。が、モンスターは障害物など存在しないかのように騎士達を吹き飛ばす。
「なんて速度と力だ。部下たちをまとめて吹き飛ばすとは・・・」
メディナが吹き飛ばされた騎士団員を見てレイピアとバックラーを構え側近の二人の部下にすぐさま次の指示を出す。
「お前たちは吹き飛ばされた団員の救助に迎え。それと地上に残っている部隊にこの事を伝え応援に来させろ。その間は私が足止めする!」
「「了解しました副団長!」」
メディナは部下の返事を聞く前にモンスターに向けて駆け出していった。
メディナはモンスターに近づくと前傾姿勢になり加速していった。加速した勢いを利用してまずは刺突で喉を狙おうとした。だが、目の前にいたモンスターは霧のように霧散してメディナの攻撃は空を突くだけだった。
「消えた!?いったい何処にーーー」
メディナが突然消えたモンスターに動揺していると背後から悪寒のような物を感じ、すぐさま前に転がるようにして移動した。メディナが振り向いた先にはモンスターが存在しており、メディナの頭を嚙み潰そうとしていたのか口を開いていた。
「どういうことだっ!?何故やつが消え、違う位置に移動している!」
メディナは先程部下の団員たちがモンスターの突進を受け吹き飛ばされた際にモンスターの移動速度を見ている。確かに速かったしあれが全力で移動速度なのかは分からないが、仮にあれ以上速く目で追いきれなかったとしても音や空気の振動で高速で移動しているのだと分かる。だが、このモンスターは音や空気など周囲に影響を与えずに移動していた。
「また消えたっ!?今度は何処にーーー」
モンスターはまたも背後から現れ、両前脚を振り上げメディナを押し潰そうと一気に落とした。
メディナも背後に現れたモンスターに気づき、落とされる前脚の威力を逃がすようにバックラーを斜めに構え受け流した。
それから数度同じようなやり取りをしてメディナは結論づけた。
「なるほど。原理は分かりませんが、分身のような物を生み出せるのですね。しかも消すのも自在ですか。囮を使って背後から奇襲という事ですか」
メディナは既にモンスターの背後から来る奇襲を見切っており、冒険者達から聞いて一番警戒していた黒い靄も使ってこないことから攻勢に転じるかどうか迷っていた。
モンスターは自分の攻撃を悉く防ぐメディナに苛立つように吠えた。
「いったい何をーーーはっ!まさかっ!?」
メディナはモンスターの前脚と後ろ脚の蹄が橙色に光り始めそこに魔力が高まっていくのを感じた。
「総員!退避!急げっ!」
メディナが時間を稼いでいる間に吹き飛ばされた騎士達も起き上がり、生徒達を守るように後方に下がっていた。そしてメディナから逃げるように指示が出されたが既に遅かった。
ダンジョンの地面が隆起して鋭利な岩盤が槍衾のように界人達に襲いかかった。
他の生徒達もこの攻撃にパニックになる。
「きゃあああっ!?」
「足を止めるなっ!動けぇ!」
岩で出来た槍は天井にぶつかるまで伸びた。暫く走り回っていると広範囲の槍衾のような攻撃が止み、界人の近くにいた小夜が仲間に呼びかける。
「みんな無事?怪我してない?」
「俺たちは大丈夫だ!」
M4達も自分の安全をすぐに伝える。
「よかった、お前達も無事だったか」
「司君も無事だったんだね。他のみんなは?」
「怜達も無事だよ。牧野さんは近くにいたクラスメイトが足を怪我してしまったみたいで今、治療しているよ」
月石が他のパーティーの女子の足の怪我を回復魔法で治療しているところにみんなで近づく。
ゴゴゴゴゴゴッーーー
天井に亀裂が走り、辺りにパラパラと土埃が降ってくる。
モンスターによる攻撃が止んだと思い少し油断していた界人達は他の騎士団員や冒険者達より少し反応が遅れた。
「天井が崩落するぞっ!」
「出口まで下がれ!下がれ!下がれ!」
治療を終えたばかりの女子生徒と月石の真上に崩落しそうになっている岩盤がから岩が落ちるのを見た界人は二人を自分と入れ替えるようにして腕を掴み、投げ飛ばした。
「きゃあっ!?」
「へっ!?四津谷君?」
「何をっ!?」
近くにいた司が界人の突然の行動に焦るが、直後二人がいた場所に岩が降ってきたのを見てすぐに悟った。
界人も投げ飛ばした反動で二人がいた位置よりも離れて着地したので岩の下敷きにならずに済んだ。
「道明寺!二人を頼む!もう間に合わない!」
界人は天井の崩落具合から直ぐに自分の場所にも岩盤が落ちてくることが予想できたので、その場から離れ出口と真逆の方に走った。
そして、界人の予想通り落ちてきた岩と比べ物にならないほどの大きさの岩盤が大量に降ってきた。砂埃が舞い晴れる頃には、10層は出口付近より先は岩で塞がれてしまっているのが見えた。界人と他の者達は完全に分断されてしまっていた。




