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 仕事が終わるまで、なるべくテイラー様の顔を見ないように過ごした。

 没頭するように、自分の出来るテーブル拭きや片付けをしていると視線を感じる。視線の先を辿ると常にテイラー様からの視線だった。

 考えすぎだと思いながらも、他の人が「アンが可愛いからって見すぎよ」と、言っていた。きっと、そんな感情ではないだろう。断ったことで、何かテイラー様の勘にでも触ったのかもしれない。

 恐る恐る視線を合わせれば、にこりと微笑まれるが、その表情が本心なのか業務用の物なのか判断がつかない。

 先程の会話を思い出すだけで、お腹が痛くなり身体中からじわりと汗が吹き出る。

 注文から下がろうとした人に「顔色悪いけど大丈夫?無理しなくてもいいんだよ」と言われたため、体調が悪いわけではないと伝えようとするも、顔色を指摘されてしまい、ちょうど店に来ていたグレン様にも帰宅するように促されてしまったので、やりかけのままになってしまったテーブル拭きから逃げるように、帰宅の準備に取り掛かった。

 私が体調を崩すのを予想していたかのように、直ぐに迎えが来たので馬車に乗り込む。馬車の振動が心地いいためか、体調が悪いはずなのにうとうとしはじめ、知らないうちに眠りに落ちた。

 身体を揺らされたことで、屋敷に着いたと認識した。眠い目をこすりながら、屋敷に足を向ける。寝たはずだが、あまり体調が回復しなかった。出迎えてくれた者たち悪いと思いながら直ぐに夜着に着替えさせてもらいベッドに潜り込む。

 このまま、体調が治らないまま明日を迎えればいいのに、と願いながら執事が手配してくれた医者の診察を待つ。

 早く来てくれないだろうか。

 夜に呼び出して申し訳ないと思う気持ちと、「明日は安静に」という言葉をはやく聞きたい。



 痛みを忘れるかのように、寝入っていたら、突然起こされたので、「まだ、朝じゃないでしょ」と明かりを確認して少々不機嫌に返答してしまった。

「お嬢様、先生が来てくださったので起きてください」

 ミーヤが揺らしてくるが無視して、睡眠を続行しようと布団の中に潜り込めば「若先生。お嬢様は、とうとうユーゴ様に純潔を…」と、嘘を伝えようとしているので、バッと布団を押し上げ起きあがる。

「ミーヤ、止めて。先生、ミーヤが言っていることは嘘なの。信じないで」

 慌てて先生に弁解するもクスクスと笑っている。

 笑い方が兄のように豪快に笑うのではなく、堪えるように笑っているので、此方が恥ずかしくなってしまう。

「アンジュ様、回復しましたか?」

「…少しだけ」

「よかったです。ですが、何か悪い病気になられては、困るので診察はきちんとしますよ」

 そのまま、ベッドの隣にある椅子に腰を掛けた先生をじーっと見つめる。

 聴診器を耳当てはじめたので、「風邪ではないはずです」と反論してみた。

「私が判断しますので、お静かに」

 眉間に皺を寄せながら診察しはじめる。若先生と呼ばれているレオ・ソリア先生は我が家のお抱え医師で、兄より5歳ほど年上の先生だ。簡単な診察をしてくれる際に、よく来てくれるが今回はレオ先生のお父様に来て欲しかった。

 理由を話せば、仮病を使えると思ったから。レオ先生は、ちょっと厳しいことばかり言うから苦手だ。

「本当に風邪ではないみたいですね。何かありましたか?」

「えっ、どうしてわかるの?」

「お嬢様が体調を崩すのは、精神的なこともありますからね。普段は、健康優良児みたいな方ですから」

 健康優良児って…貴族令嬢に対しては褒め言葉ではない。

 勝手に苦手だと思っていたが、しっかりと私のことを見ていてくれたことが嬉しくて、ポツポツとだが今日のテイラー様とのやり取りを伝えると、呆れ顔だった先生が「その方との付き合いは辞めることを勧めます。ロット家といえば、それなりに有名な家柄です。私の口から説明するよりも伯爵か兄君から説明していただいた方がいい」と、だけ言いながら頭を優しく撫でてくれた。

「体調を崩しているので、明日の茶会には参加しないように。この件に関しては、私から伯爵かケイ様に伝えておきます」

 その言葉にどれだけ救われたか。大きく頷けば、柔らかい笑みを向けそのまま部屋を退席していった。

 先生の診断に満足して、また布団の中に潜り込む。ベッドサイドに飾ってあるテディを道ずれにして。

 きっと、いい夢がみれるだろう。そう思いながら、目を瞑り眠りに落ちる。


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