何故、こうなったかと言えば(ケイ視点)
席に着く前から感じていた。だが、いつも感じる視線とは何か違う。
この店で感じていた視線。それはクリスに送っているものだと思っていたが、違うようだ。何やらこの席が注目されているのはユーゴが来てからだ。
クリスとは違う雰囲気のユーゴだから人目を惹くのだろう。
まあ、そんなことはどうでもいい。王族の護衛をする度に、視線を感じている。その視線にどんな感情が乗せられていようと気を許してはいけないと、教え込まれた。
その習慣が、どうしても抜けないためか、ここでも気を張ることになるとは。
アンにだけは軍属の俺を見せたくなかったのに、と思ってしまう。
何故、俺の隣にユーゴが座る。まあ、ジェーン嬢の隣に座られるよりはましだ。
この店は妹が働いているのだから、妹を悲しませるようなことをしたら、一発殴るつもりだが。
それにしても、自由だな。テーブルの上にメニュー表を広げながら眺めているジェーン嬢はユーゴの存在を無視するかのように俺に話し掛けてくる。
「ねえ、ケイ様。珈琲でよろしい?私はアッサムにいたしますが」
「珈琲でいいですよ。それにしても、よく私が紅茶ではなく珈琲が好きだと気づきましたね」
「ふふふふ、それは淑女の秘密ですわ」
淑女の秘密か。どうせ、母辺りが茶会か夜会で話したのだろう。あの人はやたらと、俺の婚約について心配をするからな。
伯爵家の長男として、親を安心させろと言うことなのか。
俺としてはアンが幸せになったのを見届けてから結婚したいと思う。もし、独身だとしてもアンの子に爵位を譲ってもいいとさえ考えている。
それにしても以前、ここで見たジェーン嬢とは何かが違う。それに、夜会で見せるような妖艶な表情とは違い心から楽しそうな表情をしている。その表情に少なからず好意はもてる。
夜会の派手な彼女は遊び相手として見られがちだが、浮いた話は聞いたことはないから、身持ちは堅いのだろう。
「軽食は如何します?」
「少し経ってからでいいのではないですか?まだ、此方に着いたばかりなのだから。ゆっくりと過ごしましょう」
浮わついた言葉が、出てくると思う。これも、母の教育の成果か。
嬉しそうな表情を浮かべながら、呼びベルを持ったので注文をするのかと思えば、「ねぇ、ユーゴ。私、あなたにここに来て欲しいなんて頼んでいなくてよ」と、俺以外の存在に話し掛けた。
無視するのを止めたかと思ったら、先程の表情からいきなり挑発的な視線をしていた。女って怖いな。
「此方も頼まれて来たいとは思っていません」
「なら、どうしてここに来たのかしら」
「それは、あなたなら既にわかっていることだ。今日の観劇に何故あなたたちも行くのですか」
「あら、観劇に行くのは私の自由でしょ。それを何故、あなたに許可を取らなくてはいけないのかしら?」
彼女の意見は最もだ。それに、納得いかないのかユーゴは苛立ちを含めている。
ジェーン嬢との間になにがあるんだ。
「それに、この観劇に誘ってくださったのはケイ様なのよ」
「ケイどういうことです!」
会話は聞いていたがいきなり振られるとは思わなかった。
昨日のことを思い出しながら、隠しても仕方がないから、全て話すことにした。




