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目の前にいる二つの影が動かない。はやく、目の前から移動して欲しい。

兄の顔を見ない程度に上げていると、伸びてくる手にびくりと反応してしまう。

この場で、眼鏡を外されたらとジェード殿下たちと交わした契約を反意にしてしまう。そう思うと、怖くなってしまい目を瞑る。

耳に掛けられていた重さから解放された。そのことから、眼鏡を取られたのだと認識するが「ジェーン嬢、そのようにからかわなくてもいいではないですか。席に向かいましょう」と、兄に制止された。離れたはずの重さが、また耳に戻る。

庇われたのだろうか?

そっと、目を開ければ、前にいたはずのジェーン様を兄が席へと連れていった。

どっと疲れを感じたが、これからまだまだ出迎えをしなくてはいけない。

扉に目を向けるが、兄とジェーン様のことが気になる。

気持ちが落ち着かないでいるが、入店を告げるベルの音が響く。

先程の失敗してしまったからと、意気込んで「いらっしゃぃせ」と言いながら、扉に目を向ければ、また唖然としてしまう。

だって、そこにいるのは私が午後から約束している人、――― ユーゴがいるのだから。

私との約束があるのに、何であなたがここにいるの?

女性とは一緒ではないようだけれど、ここで待ち合わせをしている可能性もある。

こんなにも早く私は、婚約者が女性と密会しようとしている現場(仮)に居合わせるとは、何という悪運。

昨夜から今までの幸せな気分を返して欲しい。

近くにある花瓶をユーゴに投げつけたい。もう、花の水を代えると見せ掛けて、水でも掛けようかな。

そんなことをすれば、お店に迷惑がかかるから出来ないけど。

「アンちゃん、どうしたの?笑顔、笑顔!」

「いま、ちょっと笑顔つくれないかもしれないです」

笑顔を作っているつもりだが、表情が引きつってしまっているのかもしれない。

まだ、目の前には入店したばかりのユーゴがいる。

「お客様、失礼しました。まだ、この子は新人ですので、多目に見てください。お客様は何名様ですか?」

アイリーン様が謝り、助けてくれたが、笑顔なんてつくれない。

「待ち合わせなので、気にしないでくれ。それにしても、可愛いレディ。あなたの笑顔をそのうち僕にもみせてくださいね」

えっ?誰???

ユーゴって、そんな感じで女の人を口説いていたの?

まだ、夜会には参加したことないから、ミーシャやカロリーナに聞いたことやお茶会で言われたことしか知らなかった。

でも、ユーゴみたいな格好いい男性に言われたら惚れてしまう。

ジェード殿下よりも親しみやすそうだから。

私のことなど気にした様子もなく、店内を少し見ている。

待ち合わせの相手を見つけたようで、顔が一瞬だが真顔になった気がした。

「お客様が素敵なあまり、この子も固まってしまったみまいです。ふふふふ、ではお席に案内させていただきます」

「いや、いいよ。見つけたから僕ひとりで行くから、君たちは仕事に戻ってくれ」

そう言いながら、彼が向かった席は兄とジェーン様がいる席だった。

どういうことだろう。

前にここで見かけたときもジェーン様と一緒にいたから、何かあるのかもしれない。

もしかして、ユーゴはジェーン様のこと!

そう思うと胸が痛くなってしまう。

でも、私はユーゴのことが好きだから諦めたくない。

兄たちのいる方向を、じーっと眺めてしまう。

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