椎名 凛
(なぜか放っておいてはいけない気がした。捨て猫を家に持ち帰るような、そんな感覚?今となってはこの子を、初対面の女の子を家に呼ぶなんて大胆すぎてできないかもな…。
何か変化がほしかったのかもしれない。川の流れにまかせっきりだった毎日に、刺激がほしかったんだろうか…。)
とにかく、今僕の家には彼女がいる。親はこの時間仕事で家にはいない。
彼女の名前は観月 凛。年は僕と一緒らしい。親と喧嘩をして家を飛び出したはいいが、財布を持ってくるのを忘れたらしい。すらっと伸びた手足に、どこか気品すら感じる。身長がもう少し高ければ、モデルのような体形だ。そんなことを考えながら僕は台所に立っていた。
彼女のプロフィールはこのくらいにして、昨日の残り物の肉じゃがを温め終え、彼女のところに持っていく。
「はい、どうぞ。」
「あ、ありがとう。」
彼女はリビングにちょこんと正座をしてそわそわしていた。
「ね、ねえ、ここって客間なの?ずいぶん狭いけど…。」
ここでひとつお詫びと訂正がある。
彼女はもともと財布を持っていなかったらしい。びっくりするだろ?そんなに貧しい生活を…と思ったけどどうやら違うらしい。彼女の家はむしろ超がつくくらいの金持ち。話を聞くと、椎名っておそらく、椎名証券の椎名だよな。僕みたいな一般人でも知ってるぞ。なんでも世界でも有数の証券会社なんだよな…。その、社長令嬢…?てことになる。おそらく。庭で客人を招いて、パーティーとかしちゃったりする感じの、ガチな方。
「……ここはリビングだよ。」
彼女は「え」と言わんばかりの目をしていた。
「あ、ああ、そうなの。で、この食べ物は?」
「それは肉じゃがだよ。まあ煮物みたいなものかな。食べたことないの?」
「初めてみたわ。じゃ、じゃあ、いただきます。」
彼女は恐る恐るお箸を持って、肉じゃがを食べた。
・・・・・・・・・・・
「ど、どう?」
「おいしいわ。初めて食べた味だけどとっても美味しい。これあなたが作ったの?」
「そ、そうだけど…。」
「あなたシェフでも目指してるの?」と彼女はふふっと笑った。自転車の件から初めて見せた、彼女の笑顔だった。正直、まぶしい。
「社交辞令でもうれしいよ。ありがとう。」
もぐもぐ もぐもぐ 彼女は僕の肉じゃがをすごいスピードで食べた。お腹空いてたんだろうな。
「ごちそうさま。美味しかったわ。じゃあ、私、そろそろ行くわ。これ以上迷惑かけられないし。」
「え?行くってどこに?」
「どことは決まってないけど、これ以上あなたに迷惑はかけれないわ。だから私、行くわ。本当にありがとう。」
「お金も持たずにまたあてもなくどこかへ行くなんて危険すぎるよ。ただでさえきみ可愛いんだから…」
瞬間、彼女は「え?」というなんとも間の抜けた顔をした。
「え、いや、だから、その、そういう意味じゃないよ。ほら、年頃の女の子が一人で夜中とか歩き回っちゃ危ないでしょ?そういうことだよ。」僕は必死に取り繕うようにそう言った。
少しの間沈黙が流れた。彼女の顔が心なしか赤かったのは気のせいだと思う。うん、気のせいだ。
「そ、そうだ。しばらく家にいたらどう?」
「え?」彼女は驚いた表情で僕を見た・
「ご飯も作ってあげるしさ。外を出歩いてたら、家の人がきっと誰か人を使って君のこと探してるかもしれないし。」
「う、うん。それは多分そうね。で、でも…」
「いいから、いいから。」
ガチャ。
いきなり玄関の開く音がした。




