12 【奇跡の妖精の作り方】
その数日後、私と祖父は工房で王女から下賜された写本を読み言葉を失った。
【奇跡の妖精の作り方】と書かれた本には、想像を絶する内容が事細かに書かれていた。
「奇跡の妖精、真珠色の妖精は――妖精の生みの親である木が死ぬ時に生み出される奇跡の妖精……その実験の為には沢山の妖精が犠牲になったことが記されています。妖精とはどのようにして生まれるのか今まで知らなかった自分が恨めしい」
写本に書いてある通りだと祖父に言われた時は頭を抱え、私は目元を覆った。
普通の妖精が生まれる際、妖精の木から生まれ出るものが殆どなのだが、それらは実のようになっている部分から生れ落ちるのだと記されている。
奇跡の妖精の作り方には、沢山の妖精が堕胎されて死んだ事が書かれていた。
「無理やり辛い環境下に置き、失敗品である普通の妖精が生まれれば殺してすぐに新しい命を産ませようとしていたドルセ前国王と研究者達……これらは実験と言う名目の元、何十年も前から行われてきたらしいな」
「ええ、次第に妖精の木は枯れていき、妖精が少なくなっていたとも記されています」
本来、各国の国王達はそのような非人道的な事をしてはならないとされているにも関わらず、ドルセ前国王はそれを平然と行っていたのだ。
……妖精は光に包まれて死ぬ。故に他国にばれる事は無い。
それをいい事に実験は行われ、妖精の数は激減して行ったらしい。
怒れる世界樹は農作物の生育に大きく影響を与え、一時期は干ばつや疫病で作物が殆ど取れない時期もあったらしい。
その結果、ドルセ前国王の命令で世界樹の木は切り倒され、ヴァルキルト王国にたった一つしかなかった世界樹は失われたのだとも記されている。
「お前は前にプリアを助けて欲しいと言う老婆の依頼を受けていたな。きっとヴァルキルト王国に存在する世界樹の近くにあった村の事だろう。その村は、今は焼き討ちに遭い無くなっている」
「つまり……世界樹の事を他国に知られるのを少しでも遅らせようとして、罪の無い村を焼き払ったという事ですか」
妖精の生まれる木は世界樹の麓に沢山あったそうだが、その親である世界樹の木が亡くなった事により、妖精の木は更なる減少の一途をたどり始めたのだとも……。
一部の妖精達は親である妖精の木を守ろうと戦ったらしいが、数の暴力の前には勝てるはずも無く、妖精達は次々に死んでいったそうだ。
枯れた妖精の木を切り倒し、その木を燻る事で妖精の木に想像を絶する苦痛を与え続け、ヴァルキルト王国周辺の国王が管轄する場所にはたった一本の木しか残らなかった。
――その木も枯れ果てようとした時に生まれたのが……プリアさんだった。
本来ならば、世界樹の加護のもと生まれる真珠色の奇跡の妖精は、死ぬ時に母なる世界樹へと代わるのだと記されている。
つまりプリアさんは――次代の世界樹になるのだと、その時初めて知る事ができた。
「世界樹……」
それは――国を加護する大樹。
ドルセ前国王はその加護を持つ樹すら切り倒したのだと知った時、祖父と二人言葉を無くし、私はプリアさんの事を想った。世界には大きな王国に一本の世界樹が存在する。それらが五つ存在することで世界中の生きる人間や妖精、そしてその土地に祝福を与えるとされている。
「邪気を払い、加護する王国に祝福を与える世界樹の木々……それらの調和が崩れた時に魔王が復活すると言われている。つまりビリーが倒した魔王はドルセ前国王の行いが発端となり復活してしまったと言う事か」
「どうでしょうね、でも魔王が存在していたのは事実です。ただの迷信と信じて疑わなかった。けれど世界樹の木を切り倒した事によって世界は闇に包まれ、魔王が復活してしまったのですから他国としてもこの問題は許されざる罪でしょう」
この事を知った各国の国王達はドルセ前国王を責め立て、国から勇者一行を送り出したと書かれていたが、ドルセ前国王は別に勇者一行が魔王を倒そうが倒すまいがどうでも良かったのだとも記されている。
真珠色の妖精を持っているだけで、世界樹の木が存在しているのと変わらないのだと。
だが、真珠色の妖精を所持している事を各国の国王に知られる訳にはいかず、それで城の地下に幽閉していたのだと書かれていた。
「人があるべき姿へと、妖精があるべき姿へと……皆に祝福を与える貴重な真珠色の妖精は短命であり、所持しているだけで幸福をもたらす存在。それがプリアさん……ですか」
「その存在が他国にばれてしまったとしても、非人道的な事をしていたと言う事が知れてしまったとしても、そのどちらでも戦争の火種になりかねん。そもそも世界樹を擁護しない国は大国として認める事ができないのだからな」
だから魔王討伐と言う名目でヴァルキルト王国から勇者一行を送り出し、一時凌ぎをしていたのだと言う記述を見た時、この国は他国から侵略されても仕方なかったのだと、鳳亭の皆や街の住人達を思い出してゾッとした。
魔王が倒されて世界の闇が晴れたことにより、ヴァルキルト王国はそのまま存在する事を許されたのだと記されていた。
これらを整理すると、まずヴァルキルト王国周辺の妖精の木は枯れ果てている。
そして世界樹が無い以上、他国から王国として認めて貰える可能性は極めて低くなる。
故にヴァルキルト王女は世界を救った英雄としての私を後ろ盾にしたかったのだろう。
「プリアが死ぬ時、光に包まれて死ぬだけではなく次の世界樹の木になってしまうのか」
「その様な事はさせません。必ず世界樹の実を見つけなくては!」
もう一つの写本である【世界樹の実】を手にする。この中にこそ、プリアさんが死ぬ事無く生る道が記されているかもしれないからだ。
――世界樹の実。
それは世界樹が生み出す、母なる妖精の木の命。
世界樹は稀にその実をつけ、この世界に沢山の妖精を生み出すのだが、世界樹はその実をとても大事に育むのだと言う。
命の詰まった祝福されし実は、妖精の間ではその実に祈ればどんな願いすらも届くとされている程の貴重品らしい。
「プリポが使ったのもきっとこの世界樹の実だろう。でなければ、妖精は人間になる事はできないはずなだ」
しかし、今では入手困難となっている理由を探しても、ドルセ前国王が世界樹を切り落とした際、世界樹の実はとある実験に使われたとしか記述がない。
一体どんな実験が行われたのかまでは記載されていなかったが、碌な使い方はされてはいないだろう……。
兎に角、世界樹の実が見つかればプリポとセレスティアに使い方を聞き、プリアさんを人間に生まれ変わらせる事は可能だろうという事は理解できた。
――プリアさんが人間に。
そう思った時、成長するプリアさんの隣で同じく年を取って行ける自分の姿を想像し、そんな現実を手にする為にも頑張らねばならないと拳を握り締めた。
残る可能性はヴァルキルト王女がその世界樹の実を探し出してくれる事……他国にも声を掛けてくれているのかも知れない。世界樹の実はとても貴重だと記されている以上、早々手に入らないだろうが、それでも――プリアさんを失う事だけは絶対に避けたい。
私の隣で一緒に老いて行けるプリアさんを、必ず……そう願わずにはいられなかった。
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既に執筆完了している小説を、2018年5月1日から土日休みを貰い毎日UPしていきます。
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