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第七話

 シーボルが半ば逃走に近い形で出て行ってから約一カ月後。

 そこには立派に狩人として成長し、活躍する二人の姿が……あるはずもなく。


「毎度おおきにぃ~!」

「いやぁ、あんちゃんに診てもらってからすっかり腰の調子がよくなってなー!」

「そらよかった。でもあんま無茶したらあかんで。腰痛は癖になるさかい」


 なぜか異世界で接骨院を開きそこそこ評判になりかけている和己の姿があった。


「(なんでこんなことになってるんやろう……)」


 きっかけはちょっとしたことであった。

 シーボルから出発して翌日の夕刻。二人は行く当ては無いものの、図書館で見た地図には近くに村があったと記憶していた和己は、とりあえず、そこで宿を取ろうと正義に提案し、その村に向けて歩いているところであった。

 その道中に、街道の脇でうずくまって動かない一人の男性を見掛けたのだ。その男性が言うには、隣の町まで野菜を売りに行った帰りに、急に腰に激痛が走り動けなくなり、休憩しているとのこと。

 元の世界で接骨院を開いていた和己である。半ば職業病に近い感じでその男の容態を確認する。


「あーこりゃあかん。腰まわりガッチガチやわ。住んどる村までは近いんか?」


 そう言って肩を貸し、男性が住んでいる村の家まで運んだ。


「俺ちょっとそういうのに詳しいねん。ちょっと診させてもらうで」


 和己はベッドにうつ伏せで寝かせた男性の腰をマッサージし始めた。すると……


「おお! さっきまで痛かった腰が! 腰がぁあああ!」


 効果は劇的であった。

 男性はどっかの天空の城にいそうなグラサン野郎ばりのテンションで叫びだし、腰の回復に歓喜した。


「いや、そんな即効性のあるようなマッサージやないんやけど……」


 そんな男性を見て和己はうろたえるのであった。

 それからというもの、男性が友人に和己のことを触れ回り、約一ヶ月後、小さいながらも店を持つという現状のような状態になってしまったわけであった。余談であるが、もちろん借家である。


「はよ、王都に行って手掛かり見付けたいんやけどなぁ……まぁでも、今頃王都は誘拐うんぬんでどうせ色々ややこしい話になっとるやろうし。もうしばらくはここにおってもええか。それに、ここでの生活も案外無駄やなかったしな」


 実はこの村に滞在中、和己は皆には黙っていたが、各施術方法の効果のほどを確かめる……簡単に言えば患者をモルモット要員として、色々確認という名の実験をしていたのである。

 そして出た結論は、元の世界とは一線を画した効果があるということであった。

 まずマッサージであるが、これは即効で痛みを取り除いた。根治的な治療となるとやはり時間はかかるものの、簡単な捻挫、腰痛、突き指、はたまたなぜか打撲にまで、その周囲の血流を促すようにマッサージをすることでみるみる回復していくのであった。

 次に和己が試したのが針治療である。これも周囲の筋肉をほぐし、血流を促すという意味ではマッサージと同じなのであるが、マッサージより効果範囲がピンポイントにはなるものの、その回復効果が段違いであった。回復速度はマッサージの約3倍、一週間施術し続ければ腰、膝、肘、などの関節痛はほぼ完治するという脅威の結果を叩きだした。

 ただしここまでは和己の想像の範ちゅうであった。いわゆる効果が劇的に向上したと考えれば、納得できなくもないからだ。所詮、効果の延長線上にある話である。

 しかし、お灸治療は違った。腰痛などはいわずもがな。なぜか骨折や裂傷すら劇的に回復し、最終的には、まさかと思い試してみた風邪などの病気にも効くようであった。


「(確かに体にある自然治癒力を向上させるんやけど!)」


 ただし、和己はこの針治療とお灸治療に関して、効果が判明した時点で、既に使用することは控えている。理由は簡単で、こんなものが大々的に評判になれば、それこそ有象無象が集まってくるからだ。要は目立ち過ぎるのである。ただでさえ元の世界に帰る方法が全く分からない現状の二人において、それ以外の問題を抱えることだけは御免被りたかった。

 ちなみに正義にはこの施術を施してはいない。なぜなら、膝を治療したことにより、膝爆弾のスキル自体が消失してしまうという万が一のリスクを和己が避けたからだ。正義本人もそれを危惧して治療を断ったというのもある。

 スキルと正義は公言したものの、使えるきっかけを作ったのは膝への負担である。もしそれが施術でなくなってしまったら……正義は30歳そこそこの単なるデブである。

 飛べないデブはただのデブ。そんなデブが生きていけるほど異世界は甘くないことを、正義は初日に痛感していた。

 そして、そんな正義がこの一カ月、何をしていたかというと……


「カズだけ凄なってなんかずるい! 俺も修行する! でも就業はまだしない!」


 と言い、店の簡単な手伝いをしながら閉店後、裏庭で膝爆弾の鍛錬にいそしむ日々を送っているのであった。その成果はそれなりにあったようで……


「膝を腰の高さくらいまで上げ、そのまま地面を思いっきり踏みしめると発動する。連続で撃てるのは10発が限度。それ以上は貧血を起こして倒れる。リロード時間は約5秒。射程は約15m。射程内の威力はカズの腰くらいの太さの木なら折れる。撃った直後に出る血は物凄く熱いがすぐ冷める。試しにゼロ距離で倒木に撃ってみたら血の熱さで木が燃えて、石は表面が溶けた。……っと」


 そうぶつぶつ呟きながら、この一カ月の成果をまとめたノートを見て復習する正義。


「そっちもなんやかんやでエグイことになってるやないか……なんやねん石溶かすって……」

「俺の内に秘めたるこの熱い思いが、とうとう収まりきれんようになって現実世界に顕現けんげんしたってことやな!」

「あほくさ。熱い思いもっとるやつがニートなんするかいな……」


 そんな軽口を言い合っていると、外から誰かの叫ぶ声が聞こえてくるのであった。


「この村にいい歳したおっさん二人! いい歳したおっさん二人はいらっしゃいませんか!」


 店の外から聞こえてくる聞き慣れた嫌な言葉。二人は当然スルーする。


「この村に確かにいるのです! 30歳そこそこのいい歳したおっさんが二人! そう授かったのです!」


 二人の中にある嫌な予感はどんどん勢いを増し、一大勢力となる。


「なぁカズ……あれってやっぱり……」

「マサそれ以上言うたらあかん。俺らはなんにも聞いてない。ええな?」

「そやな! 関係無いよな!」


 そう言う二人を尻目に、嫌な予感はとうとう天下統一という旗印を二人の心の中心地に突き刺し、勝ちどきを轟かせたのであった。


「そう……ご神託を授かったのです!!」




 二人はその災害が何事もなく過ぎ去っていくのをただただ願った。しかしその願いはかなうことはなく。


「どなたか! どなたかいい歳したおっさん二人を! ってあああ!」


 勢いよく二人がいる店にSATよろしく突っ込んできたのであった。窓から。


「申し訳ございません! 申し訳ございません! 人探しに熱中するあまり前を見ておりませんでした! 本当に申し……訳……」


 そして、口をパクパクしながら二人を指差し押し黙る。


「あなたたちはもしや! 30歳そこそこのいい歳したおっさん二人ではございませんか?!」

「「いいえ、ちがいます」」


 二人は敬語でハモってそれを否定するのであった。




「まさかこんな形で見付けられるとは思ってもいませんでした!」


 そう笑顔で話す女性。名をトモカという。

 服装は元の世界でも一般的な修道服を身にまとっており、ベールからは腰まである綺麗な茶髪がはみ出していた。どこかほんわかとした雰囲気の中にも意思の強さが感じられる黒い瞳。バランスよく配置された鼻と少し厚めの口。美人ではあるのだが、全体的には可愛らしいという印象の方が強い容姿であった。

 そんなトモカは、二人が何も聞いていないのに勝手にしゃべり始める。


「私は近くの教会でシスターをさせていただいている者なのですが、なんと三日前にご神託を授かりました。『30歳そこそこのいい歳したおっさん二人がこの村にいる。その者を見付け歓待せよ』と……」


 笑顔でそう話すトモカ。それとは対照的に、苦虫とタデを噛み潰した後の口内をセンブリ茶で洗い流したような表情の和己と、その隣でなぜか酸っぱい表情をしている正義。


「ひ、人違いちゃうか?」


 せめてもの抵抗を見せる和己。


「いいえ! 私の目に狂いはございません! あなた達はまぎれもなく30歳そこそこのいい歳したおっさん二人! これは間違いございません!」


 トモカはキラッキラした目でそう語る。どうやら思い込みの激しいタイプらしい。


「万が一、いや、億が一、兆が一、そうであったとしてや。歓待って何するつもりやねん」

「それはそれはもう歓待でございます!」

「だからなんやねん」

「え、えっとぉ……それはですねぇ……」

「考えとらんかったんやな?」

「……はい」


 目を伏せもじもじしながら、和己の質問に小さくそう答える。


「あ、そういえば! 近くの町にこの国随一と名高いサーカス団が来ております! そちらを案内させていただきましょう! それを歓待としましょう! そうしましょう!」


 しかし、いきなり顔を上げたかと思えば大きく胸の前で手を叩き、再びキラッキラした表情で唐突にそんなことを言い放つトモカ。


「サーカス!?」


 それに大きく反応する正義。


「ええそうです! サーカスです! 凄いですよ! 楽しいですよ!」

「カズー見に行くだけならええんちゃう?」


 キラッキラした表情を感染させた正義が、トモカの提案を援護射撃する。


「いや絶対現地で絡まれるとかそういうイベント盛り沢山やろ」

「パッと見てサッと帰ってきたらええやん! きっとでっかい象さんおるで!」

「俺は小学生か! そんなんで釣られるか!」

「えー行こうやーカズー! なーなー行こーやー!」


 30歳そこそこのデブのおっさんが床を転げ回り駄々をこねる。その光景はあまりに醜く、和己は目の前で繰り広げられるその惨状に、軽く目眩めまいを覚える。提案した張本人のトモカでさえも、ゴミを見るような目付きでその肉塊を眺めるのであった。

 肉塊による駄々はしばらく続き、イライラが頂点に達した和己はついに折れる。


「あーうっとおしい! 分かった分かった! 見てすぐ帰るで!」

「やったー! カズ太っ腹ー!」

「やりましたね肉塊さん!」

「サーカス楽しみやなぁ! って正義ですけど?!」


 トモカによる侮蔑の言葉に若干動揺しながらも、トモカと正義はその後ハイタッチをして喜びを分かち合う。こうしてサーカスを見に行くことになる和己達であった。




 和己達一行は翌日の朝早くに村を出発し、昼前には無事サーカスが開催されているというカマランの町に到着することができた。しかし、中に入らず町の前で呆然と立ち尽くす二人。なぜなら……


「なんやこの人だかりは……」

「うわぁ……ゴミが人のようや……」

「正義さん何言ってるんですか? ゴミはゴミですよ?」

「やめて! そんなピュアな目で俺を見ないで!」


 町中が人であふれ返っていたからである。

 それもそのはずで、もともとカマランの町は貿易港として国内有数の規模を誇っており、それに加えマキール随一と名高いサーカス団も来ているとなれば、このような状態になるのは当然の結果であった。


「……宿取れるやろか?」

「でも取られへんかったら……」

「そら、野宿やろなぁ」

「カズがんば!」

「いやお前も探せや!」


 あまりの人の多さに、今晩泊まれる宿屋の心配をする二人。実際、大通りから見える宿屋の看板には全て満室の札が掛かっており、それがさらに二人の不安を煽る。

 そんな二人をよそに、トモカは自身満々の笑顔で言い放つ。


「あ、その点は大丈夫ですよ! 私がいつも利用している宿屋がありますから! この私が言えばちょちょいのちょいですよ!」

「そうやとええけどなぁ……」

「まぁ任せてください!」


 そして、トモカがドヤ顔で紹介する宿屋に来たまではいいのだが……


「いくらトモカちゃんのお願いでも今日はさすがに満室なんだが……」

「お願いします! お願いします! 私の顔を立てると思って!」


 トモカが涙目で宿主に訴える。さっきまでのドヤ顔はどこへやら、であった。

 そんなトモカの懇願が通じたのか、もしくはあわれみからか、宿主がある提案をしてくれる。


「……仕方ない。本当は改装中で宿部屋としては今使っていない部屋があるんだけど、そこでもいいなら構わないよ」

「本当ですか! ありがとうございます! ありがとうございます!」


 そうして、宿主にひとしきり感謝し倒した後、トモカが和己達に振り返り、


「まぁざっとこんなもんです!」


 と、ドヤ顔でのたまうのであった。


「なにがやねん。途中泣いとったやないか」

「トモカちゃんの泣き顔を見ていると、なんだか自分の中のSっ気が産声を上げて……Mだと思ってたのに……」

「んなもん一生目覚めんでええわ、うっとうしい。とりあえず、その部屋に案内してもらおうや」

「はい、ケルンさんから鍵は渡されていますので、どうぞ付いて来て下さい!」


 どうやら場所自体は知っていたようで、トモカが和己達を先導して部屋に向かう。トモカの行動を見るに、この宿の常連であるのは本当なのであろう。


「ここですね! どうぞ、入ってくだ……さ……」

「「……」」


 ドアを開け入ったそこは、確かに部屋であった。ただし外壁の一部が壊され、そこには布が張られており、窓ガラスすらない部屋を、はたして部屋と呼ぶかどうかは各個人の裁量によるだろう。

 絶句する二人。謝罪のタイミングを計るトモカ。二人とトモカの関係に深い、それはもうふかーい溝ができた瞬間であった。




 これ以上宿屋に居ても溝が深くなる一方であることを悟ったトモカは、早く宿屋を出ようと二人をき立てる。二人も特に宿屋に長居する理由も無いため、トモカと共にカマランの町へ散策に出掛けるのであった。


「来たときから思とったけど、俺らがいた村とは比べもんにならんくらいでかい町やなぁ」

「どうです! 凄いでしょ?!」

「なんでトモカが偉そうなんや……とりあえず、どっかお勧めないんか?」

「うんまいもんが食いたいです!」

「そうですねぇ、じゃぁ……」


 トモカがよく来るという町だけあって、案内は非常にスムーズであった。お金を入れて願い事をすればかなうという噴水。お金を張り付けて願い事をすればかなうという銅像。お金を投げて無事当たれば願い事がかなうという勇者の盾、お金を……


「トモカ、ちょっと待て」

「はいなんでしょう?」

「この町ちょっとお金にがめつ過ぎへんか?」

「それはしょうがないですよ。この町、元は商人が興した町なんですから。それよりも次はですねぇ、お金を……」

「いや、もうええ。そろそろお金以外にしよか。それにそろそろサーカスのところに向かわんと席座れんかもしれんし」

「や、屋台でいいので何か食べさせてください。もうお腹と背中がくっ付きそうで……あ、今くっついた!」

「どこがやねん。ずっとだるんだるんやないか。まぁマサも、こう言うとるし適当になんか食ってからサーカスんとこ行こか」

「そうですね! ではこの町の名物を食べることにしましょう!」


 なんだかんだで散策を楽しむ和己達一行。

 そして、この町の名物であるカマラン焼きを頬張りながらサーカスの会場に到着するのであった。


「しかしこのカマラン焼きってジューシーで美味しいなぁ! 何使ってるんやろ? 魚っぽい気もするんやけど……肉のような噛みごたえもあるし……むぅ」

「詳しいところは企業秘密らしくて、店の人以外は誰も知らないんですよねぇ。ちなみに皆は謎肉って言ってます」

「何それ怖い……でも美味しいからいっか!」

「気に入ってもらえてよかったです!」

「そんなことよりほれ、もうあんま席あらへんで。はよ座らんと」

「そうですね! 行きましょう!」


 そうして、なんとか後ろの方の席ではあったが座ることができた和己達一行は、サーカスが始まるのをいまかいまかと待ちわびるのであった。


「私も初めてサーカスを見るんですよ! とても楽しみです!」

「俺も小さい頃に見たきりやから、めっちゃ楽しみや! 白い虎とか出てくるんかな!?」

「それはさすがにないんちゃうか? しかしまぁちょっとした息抜きにはよかったかもなぁ」


 来る前は色々と気を揉んでいた和己であったが、宿以外は特にこれといって問題も起きず、逆にいい気分転換ができたかと、今はトモカに感謝すらしていた。


『レディースエーンジェントルメン! 皆様ようこそお越しくださいました! どうぞ最後までごゆっくりお楽しみくださいませ!』

「お、とうとう始まったで」


 サーカスは圧巻の一言であった。

 元の世界でも見たことのある人間達による、空中ブランコやジャグリングも素晴らしいものであったが、何より凄かったのがこのサーカス団の一番の売りでもある動物達であった。象や虎、犬や猫、果てはリスやウサギまで。とにかくよく動きよく命令に従うのである。時には、指示すらしていないのではないかと思えるような、気の利いた可愛い一面を出したりと、とにかくサービス精神旺盛であった。これほどの錬度を誇る動物達を二人は今まで見たことがなく、またどんな訓練をすればこんな動きを躾けられるのか、想像すらできなかった。


「いやーすごかったなー」

「ほんまやなぁ! これほどのもんとは思わんかったわ! さすがの俺もびっくりやで!」

「えっへん! そうでしょー! すごいでしょー!」


 なぜか胸を張るトモカ。


「そういえば、すぐそこでサーカス団が主催している動物園もあるんですよ! さっきの動物達と触れ合えるかもしれません! ぜひ行きましょう!」

「象さん! 象さん!」

「おい! 俺まだ何も言って……はぁ、しゃーないのぉ……」


 そう言ってトモカは和己の返事は聞かず、そそくさと先に行くのであった。

 着いた先の動物園では、確かに先ほど見た動物達が観客にこれでもかというくらい愛想を振りまいていた。和己には一種異様とも思える光景であったほどである。


「おった! 象さんやで! カズ象さんがおるで!」

「お前のその象に対する異常な思いは一体なんやねん」


 そんな30歳そこそこのデブのおっさんと象とのふれあいを、少し距離を取って眺めていた和己のもとへ別の象が近づいてくるのであった。


「ん?」

「お、カズもとうとう象さんの魅力に気付いたんやな! ってどないしたん?」


 その象は、二人を見るなり急に落ち着きがなくなってくる。そして、必死に鼻を使って地面に何かを描き始めるのであった。


「な、なんやこの象。なんか鼻で地面に描きだしたけど。そういう芸なんか?」


 そして地面には、描かれた絵、ではなく、読み取れるほどの制度を誇る、書かれた文字、が形作られた。


「えっとなになに、それでも俺はやっていない? ……なんやこれ?」


 涙目で二人に訴えかける象。


「古今東西そういう奴ほど、大抵なんかしらやってるもんなんやけど。そういうのはそもそも人に限定した話であって……象にも当てはまるんやろか……」


 象は必死に首を振る。その様子をめずらしく困惑しながら眺める和己。


「まさかこいつ……前世の記憶持ち?! もしくは俺らと同じ異世界人で、こっちに来る途中、何かの拍子に象の姿になってもうたとか?!」

「んなあほな。おとぎ話やあるまいし」

「いやでも実際、俺らもおとぎ話みたいなことを、絶賛進行中やで?」

「いやまぁそうやけど……」

「まさかここにおる動物全部そんな感じやったりしてなぁ」

「んなわけ……」


 なんとなくぽろっと口にした正義のそんな言葉を、簡単には否定できなくなって言い淀んでしまう和己。同時に急速に胸の中で大きくなっていく嫌な予感。ほんの気分転換と軽い気持ちで来たのが、180度裏目になって返ってきた現状というカウンターの威力はすさまじかった。そして、大きくへこむ和己達に、とどめとばかりに書かれた文字を見て二人は息をのんだ。そこには……


「カズ。俺今ここに来たことめっちゃ後悔しとる」

「マサ。奇遇やなぁ。実は俺もやねん。気合うやん」


 そこには『俺達は明日のお前達だ』と、読み取れる文字が書かれていた。


「なんや異世界はこんなんばっかりか」


 思わずそうぼやかざるをえない和己であった。




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