反逆者
バキバキッ……ドカーン……ドサッ……
クディアは森の奥深くに仰向けで倒れ、そのまま動くことはなかった。
「あの子……まさかクディアを倒したのか……?」
住民たちは口をぽかんと開き、言葉を失っていた。
「はぁ……はぁ……」
アリアはその場に膝から崩れ落ちた。
「アリア!」
クワガタはアリアに思い切り抱きつく。
「お前すげぇよ!あのクディアを倒すなんて!」
「ははっ……とりあえず俺はいい。リランをなんとかしてくれ……」
リランもまた、戦いの中で大きなダメージを負い、瀕死の状態だった。
「でも……うちに来ても薬草も包帯もないんだよな……」
「私の家に来な!薬や包帯なら十分にある。その子を助けられるよ」
住民の一人がクワガタに声をかけた。
「おぉ!ありがとう!」
「そこの兄ちゃんもうちにおいで。怪我してんだろ?」
「……あぁ。ありがとう」
リランとアリアは体を包帯でぐるぐるに巻かれ、寝かしつけられた。
「しばらく安静にしてろよ」
そう言って、クワガタは家を出て行った。
「おばちゃんありがとう。二人とも安静にしてるよ」
「良いってことよ」
「ねぇクワガタさん。あの二人は誰なの?」
子供がクワガタに純粋な質問をぶつける。
クワガタはしゃがんで答えた。
「あの二人はね僕たちを救おうと、この国を変えようとしてくれてる人たちだよ」
「じゃあ、あの二人が勝ったらもう誰も死ななくて済むの?」
クワガタはその言葉に強く頷いた。
「そうだ!」
「じゃあ私のお姉ちゃんも帰ってくる?」
「お姉ちゃん?」
「うん!何年か前に王宮に捕まえて帰ってこなくなっちゃったの……だからあの二人が勝ったら帰ってくるよね!」
クワガタはその子供の背中に目をやった。
小さいながらにチョウチョの羽が生えて来ている。
この子はリランの友達の妹か……。
「あぁ。必ず帰ってくる!大丈夫だ!心配するな!」
子供の顔がパァッと明るくなった。
「絶対ね!約束だよ!」
「あぁ!」
二人は小指を結んだ。
「なぁ……クワガタ……さっきは悪かったよ……」
住民たちが次々とクワガタに頭を下げる。
「なんだよ……みんなして」
「いや……お前を疑っていたわけじゃないんだが、どうしても王宮の奴らに勝てるビジョンが見えなくてみんな素直になれなかったんだ」
「でも今やっとわかった!」
「あの二人がいればきっと前みたいな生活を取り戻すことができる!」
住民たちは顔を見合わせて頷き合った。
「そもそも俺たちだって国民なんだ!自分たちの自由のために戦って何が悪い!」
住民たちは次々に声を上げ、士気が高まっていく。
「じゃあ……一緒に戦ってくれるのか?!」
「あぁ!もちろんだ!やってやろうじゃねぇか!」
「みんな……!」
クワガタは目の前が少し潤んだ。
「なんだ?お前泣いてんのか?」
「うるせぇ!泣いてねぇよ!」
「あはは!おい!クワガタが泣いてるぞ!」
「やめろ!」
プロテアの住民たちに久しぶりに笑顔が戻った。
ーーその日の夜。
眠っていたリランとアリアが目を覚ました。
「お、起きたか?体調はどうだ?」
「もう……体がボロボロよ……」
「そうだろうな。あれだけ激しく戦えばそうなるさ」
「今日は随分と町が騒がしいんだな」
夜だというのに窓の外がオレンジ色に光っていた。
「あぁ。実はな、みんな二人の戦う姿を見て協力してくれることになったんだ」
「え?!本当か?!」
「あぁ。子供や女性はさすがに厳しいところはあるが、うちの屈強な男どもはみんな参加してくれる」
「そうだったのか……」
「俺たちの自由の復活を祈って今日は盛大にお祭りでもやろうって、今みんな盛り上がってるところさ。あとで行ってみると良い」
アリアはその様子を微笑ましく見ていた。
「そういえばリラン。さっきチョウチョの妹に会ったぞ」
「え?!本当?!」
「俺たちが勝てばお姉ちゃんが帰ってくるって喜んでた」
「そっか……絶対勝たなきゃね。王宮で何年も一人ぼっち。辛いだろうな……」
ーー王宮内。
ここは王宮の地下一階。幽閉棟。ここには囚人たちや、国王にとって都合の悪い人間やポカ属が捕らえられ、幽閉されていた。空気は重く、陽の光がほとんど差し込まないため常に真っ暗な状態であった。そのため、看守は必ず携帯ライトを持ち見張りに来ていた。
カツン……カツン……カツン……。
「ここか……相変わらず暗くて見えにくい……」
看守が牢屋の中にライトを当てる。
虹色の光が反射する。
「おい。国王様がお呼びだぞ。出てこい」
ボロボロで痩せ細った体。ちぎれた羽。手つかずの食事。7年前のあの日から、ずっとここで暮らしている。友人は私の命と国の未来を天秤にかけられて、私の命を守ってくれた。本当にありがたいと思ってた。いつかきっと助けに来てくれると、そう信じてた。情報が全く入ってこないこの幽閉棟の中でそれだけが唯一の希望だった。
「照らしてやるからしっかり歩け……」
久しぶりに立ち上がったのかフラフラとおぼつかない様子だ。
「おい、大丈夫か?」
「はい」
地上へつながる階段をやっとの思いで登り切り、扉を開く。
「眩しい……」
扉を開けた瞬間、陽の光が差し込んできた。携帯ライトでは感じることのできない温かみのある光。7年ぶりに感じた。
「国王様。お連れしました」
「ご苦労。下がっていいぞ」
「はっ!」
パグラスは後ろで手を組み、ゆっくりと歩き始めた。
「あれから7年。どうだ?今の気分は。チョウチョよ」
「特に何も……」
「そうか」
チョウチョはパグラスの前に膝をついて俯いていた。
「あの時、リランは優秀な王宮の兵士だった。俺の計画を成功させる上で最も大きな障害はあいつだった。だから仲の良かったお前を人質に取ることによって、あいつの自由を封じたんだ」
「でも……私を捕える必要なかったんじゃない?」
「まぁそう悲観的になるなよ。でも、これだけ長い期間捕まっていれば無理もないか」
「そうね……」
「今回、お前をここに連れて来たのにはある理由があってな」
「理由……?」
「そうだ。お前の親友に絶望を見せてやろうと思ってな」
パグラスはニヤリと笑った。
ーープロテア内。
町は相変わらずのどんちゃん騒ぎ。回復したアリアもその輪の中に加わっていた。
「いいねぇ兄ちゃん!最高だ!」
「だろ?!もっと食べ物持ってこいよー!」
「そうだそうだー!」
「なんだって?あたしらは男どもの召使じゃないんだぞー!」
「ギャー!鬼婆ー!」
すっかりポカ属に溶け込んでいた。
「ねぇ、あなたチョウチョの妹なんだって?」
「え?お姉ちゃん知ってるの?」
「もちろん。私はお姉ちゃんの親友なの」
「え?!そうなの?!」
リランは笑顔で頷いた。
「小さい頃からずっと仲が良くてね。毎日のように一緒に遊んでたの」
「へぇ!」
「でも私のせいで捕まっちゃって……」
リランは拳を強く握りしめた。
「あいつさえいなければ……」
チョウチョの妹はリランの手をそっと優しく包み込む。
「大丈夫……お姉ちゃんたちならきっとまた会えるよ。だって仲良しだったんでしょ?」
リランは目を閉じて少し笑った。
「そうね……必ずまた……」
夜空に浮かんでいた星が一つ、流れて消えていった。
「よーし!みんなちゅうもーく!」
クワガタが号令をかける。
「なんだ?なんだ?」
「どうしたんだ?」
遊んでいた住民たちがぞろぞろと集まって来た。
「明日の作戦を発表する!ではリラン!」
「え?!」
突然、話をふられて驚く。
「いや、攻め込むのは王宮だし、リランの方が詳しいかなーって」
「確かにー!」
アリアが煽りを入れる。
「あとで覚えておきなさいよ……」
「ひぃ……」
住民たちに慰められているアリアをよそに王宮の作りの説明を始める。
「まず、王宮へ入るには二つのルートがあるの」
「二つ?一つじゃないのか?」
住民たちは皆、不思議そうな顔をした。
「みんなが知ってるのは、この一本道を通ってポケを通るルートだと思う」
うんうんと頷く。
「でもこの道は私たちは使えない。街の兵士に邪魔されちゃうからね」
「確かに」
「だからもう一本。森の抜け道を使う」
おぉーという歓声が上がった。
「これは私が子供の頃によく使っていた道。プロテアから王宮の裏口まで一直線に繋がってるの」
「そんな道があったんだなぁ」
「この道を使えば、街の兵士に邪魔されず王宮にたどり着くことができる」
アリアはバクバクと肉を食べていた。
「そして王宮に入った後。おそらく待ち構えてるのは王宮の兵士たち、ドラムボタン、そしてパグラス」
住民たちはその名前を聞いただけで震えが止まらなくなっていた。
「いざ戦うとなるとやっぱ怖いな……」
「でも、俺たちの自由を取り戻すためだ!」
「ドラムボタンとパグラスは私とアリア、そしてクワガタに任せて」
「え?!俺もそっち?!」
「当たり前でしょ?クディアを倒したんだから」
ヒューヒューと称賛の声が上がる。
クワガタは素直に嬉しそうにしていた。
「おそらくドラムボタンは二階の庭園の間、パグラスは三階の王の間にいると思う」
「そんな部屋があるのか……」
リランは大きく頷いた。
「だからみんなには私たちがスムーズに奴らの元に辿り着けるように王宮の兵士たちの足止めをして欲しいの」
「なるほど……それはわかりやすい!」
「戦いは3日後。私もそれまでには必ず回復させるから」
「よっしゃー!」
「今までの死んでいった仲間たちのために!」
「俺たちの自由のために!愛する家族のために!」
「うぉぉぉぉー!」
「国を変えるんだ!俺たちは反逆者だ!」
住民たちの士気が一気に上がった。
アリアとリランはそれを笑顔で見つめていた。
ーー三日後。
「みんなこんな朝早くなのに顔が怖いぞ」
「あぁ。戦いたくてウズウズしてんだ」
武器を持ち、準備は万端だ。
「リランお姉ちゃん……」
「どうした?」
チョウチョの妹が不安そうな顔をして駆け寄って来た。
「不安?」
コクンと小さく頷いた。
「大丈夫。お姉ちゃんたちは必ず一緒に帰ってくるからね」
「気をつけてね……」
「あぁ行ってくるよ」
「準備はいいか?!」
「おぉ!」
「いくぞ!」
「うぉぉー!」
拳を天に突き上げ、プロテアを出発する。




