第35話:秘密基地と、甘い和解
「……さて、と」
「とりあえず、風呂に入ろうか」
リェンの街を出て、
街道沿いの茂みに隠れた俺は、
そう提案した。
「フロ……?」
煤だらけのフィリアが、
キョトンとしている。
服は焦げてるし、顔は真っ黒だし、
このまま旅をするのは無理だ。
「俺の『家』に招待するよ」
「歓迎会もそこなら邪魔が入らないし」
俺は空間の裂け目を開いた。
『揺らぎ』の入り口だ。
「さあ、どうぞ」
俺が促すと、フィリアは
恐る恐る中を覗き込み、
入ろうとしないので押し込む。
「うわああああ!!」
「空間が! 座標が歪んでるぅぅ!!」
……うるさいな、この天才。
店の中に入ると、
そこはいつもの快適空間だ。
空調完備。適温24度。
LEDの明るい照明。
「……な、な、な」
フィリアが腰を抜かしている。
「なんだここは!?」
「この光は!? この冷気は!?」
「魔力を感じないのに、
なぜこんなに快適なんだ!?」
さらに驚くべきことが起きた。
この空間に入った瞬間、
フィリアの体の汚れが落ちた。
焦げた服も(なぜか)修復され、
新品同様のピカピカになったのだ。
俺の店の「リセット機能」が、
フィリアにも適用されたらしい。
「体が……軽い……」
「汚れが消えた……?」
フィリアは自分の手を見て、
それから店の商品棚を見た。
ズラリと並ぶ、地球のアイテムたち。
「……宝の山だ」
彼女の目が、怪しく光った。
「これは何だ!? この素材は!?」
「この『カップ麺』という円柱は!」
「この『乾電池』……雷の缶詰か!?」
フィリアは奇声を上げながら、
棚の端から端まで調べ始めた。
もう放っておこう。
今の彼女には、
空間の謎より目の前の物資だ。
「さて、と」
俺は厨房に向かった。
最優先ミッション、
ニナのご機嫌取りだ。
彼女はまだ、
頬を膨らませてテーブルに座っている。
正面に座ったミケとサンは、
もう肉を焼き始めてるけど。
「ニナ、お疲れ様」
「これ、スペシャルメニュー」
俺が差し出したのは、
背の高いグラスに盛り付けた
『特製フルーツパフェ』だ。
コーンフレーク、バニラアイス、
生クリーム、イチゴ、桃の缶詰。
上にはチョコソースをとろーり。
「……!」
ニナの目が釘付けになる。
甘いものの引力には勝てない。
「……ブンペイさんの、バカ」
「すぐそうやって餌付けする……」
「ごめんな」
「でも、ニナが笑ってないと嫌だからさ」
「……むぅ」
スプーンを手に取り、パクリと一口。
途端に、表情がとろけた。
「……おいしい」
「悔しいけど、おいしいです」
よし、攻略完了。
チョロ……いや、素直で可愛いな。
「あ、ブンペイ」
「お風呂、先もらってるわ」
奥の居住スペースから、
シキの声がした。
見に行くと、
ユニットバスにお湯を張り、
緑色の入浴剤を入れている。
「……それ、きき湯?」
「うん。マグネシウム炭酸湯」
「腰痛と疲労回復に効くって
パッケージに書いてあったから」
シキが気持ちよさそうに
お湯に浸かっている。
こいつも順応早いな。
ここを完全に「自宅」だと思ってる。
興奮して鼻血を出しているフィリアと、
風呂上がりのシキ、機嫌を直したニナ、
肉を食い終わったミケたちが集合した。
改めて、
フィリアの歓迎会だ。
「カンパーイ!」
コーラとビール(俺だけ)で乾杯する。
フィリアはコーラの炭酸に
「痛い! でも甘い! うまい!」と
忙しい反応をしている。
「さて、今後のことだけど」
俺は切り出した。
「フィリアには、
この『揺らぎ』の中に
常駐してもらおうと思う」
「ここに!?」
「住んでいいのか!?」
「一生ここから出なくていいのか!?」
フィリアが食い気味に聞いてくる。
引きこもり体質には天国らしい。
「ああ。ここを『司令部』にする」
俺はPCを指差した。
「この箱には、
俺の世界の戦術データや
あらゆる知識が入ってる」
「フィリアはここで、
モニター越しに戦況を見て、
作戦を立ててくれ」
「さらに、補給物資の管理」
「誰かが弾切れしたら、
すぐにここから送り出す」
「怪我人が出たら、
ここに引きずり込んで治療する」
「……なるほど」
ニナが頷く。
「後方支援のスペシャリストですね」
「それなら、安心です」
「私が前線で指揮を執るのに
集中できます」
「そういうこと」
俺は役割を整理した。
前線指揮官 :ニナ
作戦参謀・補給 :フィリア
諜報・突撃 :シキ
偵察・突撃 :ミケ
火力支援 :サン
狙撃 :ゴロネ
完璧な布陣だ。
現代の特殊部隊でも、
ここまで環境が整ってるチームはないぞ。
「……あの」
「ブンペイさんは?」
サンが素朴な疑問を口にした。
「俺?」
「俺は……まあ、オーナーだし?」
言い淀むと、
シキが風呂上がりの牛乳を飲みながら
ボソッと言った。
「ブンペイさんは『王様』でしょ」
「この空間も、物資も、
全部ブンペイさんのもの」
「貴方がいないと、
私たちはただの無職と迷子です」
「……言い方」
でもまあ、その通りか。
俺はこの最強チームの
スポンサーであり、
最後の決定権を持つ責任者だ。
それに、いざという時は
俺の「ジョーカー」みたいな発想で
盤面をひっくり返す役目もある。
「ま、俺は好きにやるよ」
「みんなが楽に勝てるように、
裏でコソコソ悪いこと考えるわ」
「頼もしいです」
ニナが笑った。
フィリアも、PCを撫で回しながら
マッドな笑顔でニヤリと笑う。
「任せたまえ、オーナー」
「この『パソコン』とやらの知識、
三日で全て吸収してやる」
「君たちの戦いを、
数式で勝利に導いてみせよう」
こうして。
俺たちのパーティーは、
移動要塞を手に入れたも同然となった。
リェンを追放された爆弾娘は、
今や俺たちの
最強の頭脳だ。
さあ、次はどこの街へ行こうか。
どんなトラブルが来ても、
今の俺たちなら、
鼻歌交じりで踏み潰せる気がする。
……まあ、フラグにならなきゃいいけど。




