第34話:爆発、追放、そして6人目の……
宴の後。
俺たちはフィリアの
研究室(ゴミ屋敷)に戻ってきた。
結局、今日はここで
雑魚寝させてもらうことになった。
宿代も浮くし、
フィリアが「朝まで語り明かそう!」と
帰してくれそうになかったからだ。
「……そろそろ寝るか」
深夜。
語り疲れたフィリアが、
机に突っ伏して寝息を立て始めた。
手には、俺のスマホを
大事そうに握りしめている。
俺たちも、部屋の隅の
比較的物が少ないスペースに
毛布を敷いて横になった。
静かな夜だ。
窓の外から、優しい風が入ってくる。
いい出会いだったな。
明日の朝にはお別れだけど、
きっとまた会える気がする。
そんな感傷に浸りながら、
俺は意識を手放した。
……はずだった。
カッッッ!!!
ズドォォォォォン!!
夢の中で、
何かが弾ける音がした直後。
強烈な衝撃波と熱風で、
俺たちは空中に叩き出された。
「ぐわっ!?」
「な、なんだ!?」
俺は地面(元・床)に転がった。
耳がキーンと鳴っている。
サンが飛び起き、銃を構えるが、
敵の姿はない。
代わりにあったのは、
満天の星空だった。
……え? 屋根は?
見渡すと、壁も、屋根も、窓も。
全部が綺麗さっぱり消し飛んでいた。
俺たちが寝ていたスペースだけが、
奇跡的に残っている。
そして、爆心地と思しき
部屋の中央。
煤だらけのアフロヘアになったフィリアが、
呆然と立ち尽くしていた。
「……あ、あれ?」
「出力計算は……完璧だったはず……」
彼女の手には、
黒焦げになった何かの部品。
あれは……俺が貸した予備のスマホか!?
「……先生」
「何やったんですか」
俺が震える声で聞くと、
フィリアは引き攣った笑みを浮かべた。
白い歯だけが輝いている。
「い、いやあ」
「スマホのバッテリー構造を
魔法で再現しようとしてな……」
「ちょっと、魔力圧縮率を……」
「バカなの!?」
「リチウムイオンは爆発すんだよ!」
「俺たちごと吹き飛ばす気か!!」
俺のツッコミは、
駆けつけた長老の怒号にかき消された。
「フィリアァァァ!!」
「貴様、今度こそ許さんぞ!!」
翌朝。
広場にて、
緊急裁判が開かれた。
被告人、フィリア。
罪状、爆発物取締法違反。
および、
住居損壊、騒音公害、安眠妨害。
「本来なら、投獄だ!」
「いや、地下牢で一生反省させるべきだ!」
長老たちは激怒している。
まあ、当然だ。
神聖な森を燃やしかけたんだから。
フィリアは小さくなって、
震えている。
「うう……実験だったのに……」
「あの、長老」
俺は手を挙げた。
「昨日の子供救出の件に免じて、
減刑できませんか?」
「彼女の石板がなきゃ、
助からなかった命もありますし」
長老は渋い顔をして、
しばらく沈黙した。
「……確かに、功績はある」
「だが、このまま街に置くのは危険だ」
「ならば……追放だ」
「リェンから出て行ってもらう」
「ただし!」
長老は俺を指差した。
「ブンペイ殿が、
責任を持って監督する場合に限る!」
「彼女の手綱を握れるのは、
貴殿しかおらんだろう」
え、俺?
俺がこの爆弾娘の保護観察人?
「……まあ、いいですけど」
俺が頷くと、
フィリアが涙目で縋り付いてきた。
「ま、待ってくれ!」
「追放!? 外の世界なんて無理だ!」
「私は家事できない、テントも張れない
おまけに方向音痴なんだぞ!」
「知ってますよ」
「野垂れ死ぬ! 確実に死ぬ!」
「頼むブンペイ! あ、奴隷でいい!」
「奴隷契約してくれ!」
「言うことは聞くから!」
天才学者が、
なりふり構わず土下座している。
情けない。
本っ当に情けない。
「……はあ」
俺はため息をついた。
「フィリア」
「俺はね、奴隷はいらないんだ」
「対等な仲間しか欲しくないの」
「そ、そんな……」
「じゃあ、どうすれば……」
フィリアが絶望していると、
シキが音もなく近づいた。
そして、フィリアの耳元で
何かを囁いた。
(……先生)
(ここは『お嫁さん』と言えば)
(彼は断れませんよ)
シキ、お前。
何か良からぬことを吹き込んでるだろ。
フィリアの顔が、
パッと明るくなった。
それ、名案! みたいな顔すんな。
「ブ、ブンペイ!」
フィリアは俺の手を
ガシッと掴んだ。
「お、お嫁さんにしてください!」
「私の知識も体も、
全部君の研究材料にしていいから!」
「……は?」
「ちょ、ちょっと待って!」
横からニナが割り込んだ。
すごい形相だ。
「フィリアさん!?」
「何言ってるんですか!」
「ドサクサに紛れて!」
「だ、だって!」
「他に方法がないんだ!」
「私の生存確率は、
彼の横にいる時が一番高い!」
「理論的だけど最低です!」
ニナがプンプン怒っている。
サンとゴロネは、
「また増えたー」と笑っている。
ミケは「ご飯係が増えるならいい」と
無関心だ。
そしてシキは、
「これで知識の流出はないですね」
と涼しい顔をしている。
確信犯め。
「……わかった、わかったよ」
俺は目頭を押さえながら言った。
「とりあえず、連れて行くよ」
「嫁かどうかは、おいおいとして」
「まず、仲間として歓迎する」
「……本当か?」
「ああ」
「あんたとの議論は、凄く楽しいよ」
フィリアは、
安堵でへなへなと座り込んだ。
「よかった……」
「これで研究が続けられる……」
こうして。
感動的(?)な別れは、
爆発音と共に消し飛び。
俺たちの旅のパーティーに、
新たに一人の
「残念美人な天才エルフ」が
加わることになった。
ニナの機嫌は最悪だ。
口を利いてくれない。
これは、機嫌取りに
甘い物でも作らないとなあ。
俺たちは、
煤だらけのフィリアを引き連れて、
騒がしくリェンの街を後にした。
背後で、
長老たちが「せいせいした」と
手を振っているのが見えた気がした。




