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事故死したので異世界に転移しますが、管理者のミスなのでアメリカの店ごと持っていくことにしました  作者: だい


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閑話:街道を行く、私たちの足で

 ニナは、風の匂いが変わったことに気づいていた。

 

 フロウムを離れてから、空気が軽い。

 街のそばにあった、張り付くような緊張がない。


 前を行くミケの背中を見ながら、

 無意識に歩調を合わせている自分に気づく。

 

 誰かの命令ではなく、自分で歩いているという感覚。


 それが、少し不思議だった。


 

 サンは、足元の感触を楽しんでいた。

 

 固い土、草の柔らかさ、小石の感触。

 揺らぎでの移動では、決して感じられなかったものだ。


 昔は、移動とは命令だった。

 行けと言われれば行き、止まれと言われれば止まる。


 今は違う。

 脚が疲れたら、休めばいい。

 喉が渇いたら、水を飲めばいい。


 そんな当たり前が、こんなにも心地いいとは思わなかった。


 

 ゴロネは、時々振り返って景色を見ていた。

 

 遠くまで続く街道、丘の向こうに沈んでいく雲。


 「世界って、こんなに広かったんだ」


 小さく呟いて、誰にも聞かせない。

 売られる場所と、働かされる場所しか知らなかった。


 今は、

 行き先が「決められていない」道を進んでいる。

 それだけで、胸が少し熱くなる。



 シキは、周囲の音を拾っていた。

 

 風に揺れる草、遠くを歩く獣の足音。

 危険がないことを確認しながら、静けさを楽しんでいる。


 誰も追ってこない。

 誰も命令しない。

 誰も、値踏みしない。


 それが、これほどまでに心を軽くした。

 今、シキは「生きている」と実感できている。


 

 ミケは、先頭を走りながら、

 

 時々わざとスピードを落とす。

 全員が揃っているか、確認するためだ。


 自分でも、少し驚いている。

 昔は、真っ先に逃げることしか考えていなかった。

 

 今は、後ろにいる仲間の数を、自然と数えている。


 それが当たり前になっている自分が、少し誇らしかった。



 野営の準備が始まると、

 全員が落ち着いた動きを見せた。

 

 誰かに指示されなくても、

 それぞれが役割を見つけて動く。


 火を起こす。

 水を汲む。

 周囲を確認する。


 ニナは、その様子を見て、

 胸の奥が静かに満たされていくのを感じた。


 守られるだけの存在では、もうないのだと。


 夜、焚き火のそばで、

 ミケは空を見上げていた。

 

 星が多い。

 多すぎて、少し怖い。


 でも、嫌ではなかった。

 逃げ場がない怖さではなく、

 

 知らない世界の広さに対するものだ。


 「……明日も、歩くんだよね」


 小さく言うと、

 サンが「そうですね」と返した。


 それだけで、十分だった。


 翌日、壊れた馬車を見つけたとき、

 全員が自然と足を止めた。

 

 命令も、合図もない。


 困っている人がいる。

 それだけで、理由は足りた。


 ミケは、気づけばブンペイの袖を引いていた。

 

 言葉にする前から、もう答えは分かっていたけれど。


 「……助けてあげて……ニャ」


 言ってしまってから、少しだけ恥ずかしくなった。


 でも、誰も笑わなかった。


 修理が終わり、夫婦と子供が頭を下げたとき、

 ゴロネは胸の奥が温かくなるのを感じた。


 「ありがとう」と言われるのが、

 こんなにも自然で、こんなにも嬉しい言葉だとは。


 昔は、感謝は命令の裏返しだったのに。


 再び歩き出した街道で、ニナは全員の背中を見渡した。


 揺らぎを使わず、自分たちの足で進む旅。


 不安はある。

 危険も、きっとある。


 それでも。


 「……悪くないですね」


 小さく呟いた言葉に、誰かが頷いた気配がした。


 リェンは、まだ先だ。

 でも、もう迷ってはいなかった。

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