第24話:街道六十キロ、初めての旅路
揺らぎから出たら、妙に空が高かった。
ここはフロウム傍の街道。
街の喧騒が背中に遠ざかるにつれて
段々と街の音は減っていく。
代わりに聞こえてくるのは
俺達の足音と、風の音だけだ。
「……六十キロって、意外とあるな」
俺がそう言うと、サンが軽く首を傾げた。
「行商で荷物持った人間なら、三日です」
「だよなあ。感覚バグるわ」
今回、揺らぎは使えない。
リェンは、まだ行ったことのない場所だ。
入口を作るには、一度行くしかないんだ。
俺ひとりで先行して車で行き
揺らぎを作る手もあったけどね。
でも、誰もそれを選ばなかった。
「……外、行きたいです」
そう言ったのは、ゴロネだった。
ミケもサンも、シキも、
ニナでさえ何も言わずに頷いた。
だから、全員で街道を行こうと決めた。
今までは見れなかった景色を見ながら。
MTB五台+電動MTB
獣人たちの脚力について行くため、俺だけ電動だ。
出力を上げても、油断するとすぐ置いていかれる。
「ブンペイ、遅い」
「無茶言うなってば」
ミケは笑いながら先頭を走り、振り返る。
耳としっぽが楽し気に風に揺れた。
街道は穏やかだった。
隊商とすれ違い、旅人と挨拶を交わす。
商人のひとりが
俺たちの乗り物を見て目を細めた。
「それは……馬ではないな?」
「ええ。遠い国の品です」
それ以上は聞かれない。
この世界で、”遠い国”は万能の答えだ。
昼前、丘を越えたところで景色が開けた。
草原が広がり、遠くに川が見える。
「……きれい」
ニナが思わず声を漏らした。
揺らぎの中では見られない
広がりのある景色だ。
野営地を決めたのは、小川のそば。
風向きもよく、野営には申し分ない。
「外で火を起こすの、久しぶりです」
サンがそう言いながら、竈を組む。
ゴロネは水を汲み、ニナは夕飯の準備。
シキはハーブや木の実を探しに行き、
ミケは石を並べて遊んでいたよ。
「寝る前に星、見ていい?」
「木から落ちるなよ」
「落ちない」
たぶん、落ちないな。
夜は揺らぎとは違う、自然の静けさ。
虫の音と、遠くの獣の気配。
「……旅って、こういうのなんですね」
ゴロネがぽつりと言う。
「そうそう。無駄な時間が一番楽しい」
俺がそう返すと、誰も否定しなかった。
翌日も、街道は穏やかだった。
昼を過ぎた頃、前方に止まっている
馬車が見えた。
近づくと、馬車の車輪が壊れている。
残っているのは夫婦と
まだ幼い娘ひとりだけだった。
「他の隊商は……?」
「先に行きました。助けを呼びに」
男の声は疲れ切っている。
このままでは
夜までに次の宿場へ辿り着けない。
ミケがそっと袖を引いた。
「……ブンペイ」
「ん?」
「助けてあげて……ニャ」
一瞬、言葉が遅れて届いた。
「……今、言った?」
ミケは顔を赤くして、視線を逸らす。
「はやく」
俺は小さく笑って、頷いた。
「了解。任された」
揺らぎを使うほどでもない。
収納から工具を出し、
壊れた車輪を確認する。
「完全修理は無理ですが、応急なら」
軸を補強し、金具を締め直す。
何とか走れる状態まで持っていった。
「本当に、ありがとうございます」
夫婦が深く頭を下げる。
娘はミケを見て、にこっと笑った。
「ねこさん!」
「猫じゃないもん」
そう言いながら、ミケはしっぽを揺らす。
再び街道へ。
空は変わらず高く、道は続いている。
「……いい旅だな」
思わず、そんな言葉が出た。
誰も、否定しなかった。




