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【白銀の旋風】、今度はベタ褒めされる


遡ること数年前。

人間の王国は、魔王アステラが突如姿を消した話題で持ちきりだった。

魔王の指示で動いていると思われていた魔物の活動がピタりと止んだことを不審に思った国王が、騎士団を魔大陸まで偵察に行かせたところ、魔王城が魔物1匹いないもぬけの殻になっていたことが判明したのだ。


学者達は懸命に頭を捻らせた。

ああでもない、こうでもない。

長きにわたる議論の結果、最有力となった二つの説が以下のものだ。



「魔王は魔族同士の抗争で死んだ」


「魔王は侵攻の準備を整えるため、拠点を移した」



……結論から言ってしまえば、答えは後者だった。


魔王城の地下深くには、緊急時に備えた魔王の別荘への直通通路が造られていた。

人間は幾度に渡る調査を行ったが、結局、魔法で巧妙に隠された地下通路を見つけることはできなかったのだ。



「ようやく再侵攻の準備が整いましたね、魔王様。して、実行はいつに致しましょう?」



「……すぐにでも、と言いたいところだが、あの女の行方を掴まない限り、人間に確実に勝てる保証は無い」



魔王アステラは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

アステラは立場上、幾度となく刺客に命を狙われてきた。

しかし彼はその全てを軽々と撃退し、人々の間で彼の実力を「歴代最強」とまで言わしめた。


……そんな彼が、『冒険者業で溜まったフラストレーションの解消』などというわけのわからない理由で突然魔王城を襲撃され、体の半分以上を吹き飛ばされた挙句『醜い魔物で良かった』などという捨て台詞まで吐かれてしまったのだ。

命からがら魔王城から撤退し、なんとか一命を取り留めたアステラだったが、体の回復には長い時間を要した。

これが、魔王とその配下がこれまで姿を潜めていた理由である。


魔王アステラは冷静だった。

その女が「冒険者」であるという情報を掴んだ彼は、ひたすら女が頭角を表す瞬間を待っていた。

……しかし、一向に部下からそんな報告は入らない。

そんなこんなで女の行方を掴む前に侵攻の準備が先に整ってしまい、現在に至る。




「魔王様のおっしゃっている『あの女』のことはよく分かりませんが、ダンジョンに侵入した危険人物は部下にリストアップさせました。これらの冒険者の中に心当たりは?」



「……無いな。リストアップしていない冒険者の情報も見られるか?」



「魔王様、はっきり言って貴方は強い。そんな貴方がそこまで警戒する必要があるのですか?」



「ある。あの時は女のイカれ具合に呆然としていたのもあるが、仮に油断していなくても確実に勝てる保証は無いな」



「……魔王様がタイマンを避けたいと考えるほどの相手が人間にいるとは。となると尚更、リストアップされなかったのが不思議です。本当に冒険者なのですか?」



「少なくとも奴はそう言っていた。……いや待て、こいつだ。【白銀の旋風】の魔導士だ」



「危険度1……? 私の部下達の見る目は確かなはずですが……ふむ、タイミングが良かったですね。このパーティーはちょうど今、ダンジョンに潜っているようです。視界をこちらに共有しましょう」



「頼む」



ヴァルガが何かの魔法を使うと、二人の前にダンジョンで戦っている【白銀の旋風】の様子が映し出される。





『しまった、モンスターハウスか!』



『ユノ、広範囲魔法を。俺たちで時間を稼ぐ!』



『え、えぇ!』



『……【アーサー様、私は?(攻撃力低下)】』



『ミューエは待機だ。……多分、ここを無傷で切り抜けるのは不可能だ。すぐに出番が来るぞ』



『【わかりました(注目の加護)】。【精一杯回復しますね(自然治癒力上昇)】』



『なんかこいつら、全員俺狙ってねぇか?……そうか、最初に潰すべき存在に気づいてるってことか。面白い。全部止めてやるよ! うぉぉぉぉぉぉぉ!』



『ギュイィィィィ!』

『グァァァァァァァァ!』



『くっ、一体一体は大したことないが、数が多すぎる! ユノ、まだか!』



『可愛いがいっぱい……はっ!? あ、うん。いつでも撃てるよ!』



『ファクス、3の合図で退避だ! さn』



『【火柱】!』



『そこは1から数えろよ! リーダー、ユノ、覚えてやがれェェェェ!』




ここで最後の魔物が倒され、「視界共有」が解除される。

魔王アステラは、神妙な顔でその様子を見つめていた。




「……いかがでしょう?」



「やはりこの女……ユノで間違いない。最後の魔法は明らかに無詠唱だ。俺の目は誤魔化せねぇぞ」



「そうですか? 私には、何かを口ずさんでいるように見えましたが……」



「『可愛いがいっぱい』なんて詠唱があってたまるか。大方、味方に無詠唱がバレないよう、適当な文章を口に出しているんだろうな」



「なっ……聞き取れたのですか?」



「口を読んだ。長く生きてると、大体わかるんだよ」



「……わかりませんね。仮にその実力があったとして、どうして隠すような真似をするのでしょう」



「一つ気になったことがある。魔法を放つ直前、ユノの手先が震えていた。これは、普通ならば初心者が魔力を制御できずに起こる症状だが……奴は意図的にそれを装い、仲間に『制御が下手』と印象付けているんだ」




「つまり、制御が下手だと思わせることで、仲間に魔法を直撃させても怪しまれない……と?」




「そうだ。恐らくあいつはそれを楽しんでいる。ストレス発散で魔王城を破壊する異常者だ。そのくらいはやりかねないだろう。そして、ユノの遊びに耐えているメンバーも、なかなかセンスが良いようだ」




「……はぁ。とにかく、常識に囚われてはいけないのですね」




ヴァルガは内心で頭をかかえていた。

どう見ても、ユノは魔法を使いこなせていないだけのただの冒険者だ。

他のメンバーだって、連携の取れない雑魚ばかり。

それを持ち上げる魔王アステラは、先の敗北でついにおかしくなってしまったのか……


ヴァルガがその勘違いに気付くのは、そう遠く無い話だった。



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