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可愛いモノ(魔物)好きな魔導士


(だから、弱いモノいじめは好きじゃないのよ……!)



目の前に出てきた魔物を見て、私の腕はまた震え出す。

……いつからだったかしら。

多分、物心付いた時から、私は魔物のことを「可愛い」と思っていた。


以来、私は魔物に向けて魔法を放つことを躊躇するようになり、「コントロールが効かない魔導士」として疎まれるようになった。

だから、アーサーが私に素質があると言ってくれた時は、私の本質を見抜いてくれたみたいで凄く嬉しかった。


私はこの国の宮廷魔導士よりずっと強い自信がある。

しかしそれは、醜い魔物が相手の時に限る。


……醜いとは即ち、魔力が大きく、乱雑であるということ。

私の言うところの「可愛さ」は、視覚的な見た目ではなく、内包する魔力の量を基準とする。

どうやら私が「可愛い」と感じるのは、内包する魔力が少ない魔物と向き合ったときだけらしい。

すなわち、強い相手になればなるほど、私は本来の実力を発揮できる……のだけれど、殆どの魔物はそれに値しないし、それができる魔物と戦う機会など滅多に無い。


最後に全力を出して戦ったのは、もう数年以上前のことだ。

本人は魔王ナントカって名乗ってたっけ?

本当に魔王だったのかはさておき……いや、多分本物の魔王はもっと強いはずだから違うとは思うけど、あの魔族は私の記憶に残るほど強かったなぁ。



「ユノ、魔法の詠唱を!」



「え、えぇ!」



……本当は、私の魔法に詠唱なんか要らない。

それでも仮様の詠唱をするのは、この時間で魔法を放つ覚悟を決めるためだ。


手先が震える。

こんな状態で大魔法を放とうものなら、援護してくれている仲間を肉片にしてしまう。

故に私は、少し火力を強めた「初級魔法」で戦う。



「【火球】!」



私の手から放たれた火の玉が、少しブレながらもホーンラビットに命中し、同時に私の心にもダメージが入る。



(ごめんね、子ウサギちゃん……)



……ファクスが盾でホーンラビットの動きを誘導しなければ、私はあの子を殺すことはなかったかもしれない。

しかし、ファクスを責めるのはお門違いだ。

彼らにとって……いや、世界にとって正しいのはファクス達の方で、異端なのは私なのだから。


私はこの弱点を克服するために、宮廷魔導士の誘いを蹴って冒険者になった。

宮廷魔導士になりたくなかったと言えば嘘になる。

給与も待遇も破格で、普通なら断る理由などない。


しかし、殆どの魔物相手に魔法を撃てない魔導士を国が抱えて、一体何の利があるというのだろう?

魔法の指南役?

……全てを自己流で学んできた私にはできない。

何せ、私は仕組みを殆ど知らないまま魔法を使っている。


もしあの時宮廷魔導士の道を選んでいたら、私は既にクビになっていただろう。

しかも、そんな私が生活魔法は不得意で、懺滅魔法だけが異常に得意ときた。


……はぁ、生活魔法が得意な人間に生まれ変わりたい。

あるいは、魔物の全てが深層のダンジョンボスや魔王みたいな「可愛くない魔物」なら、遠慮なく魔法をぶっ放せたのに……



いずれにせよ、私には魔法しか食べていく術がない。

ろくな学歴もなければ、家が太いわけでも、ほかに特殊能力をもっているわけでもない。

どれだけ嫌だろうと、ダンジョンの魔物を倒して素材を頂かない限り、私が死ぬだけだ。



「おい! ユノ、俺狙ってんだろ!?」



「ご、ごめん!」



ごめんね、ファクス。

貴方を狙ってるんじゃなくて、無意識に魔法を魔物から離れるように軌道修正しちゃうのよ。

本当に申し訳ないけど、自分ではどうしようもないの。


……そういえば、仲間の方に杖を向けても手が震えないのは一体どうしてかしら?

実は皆も私と同じくらいの魔力を秘めているとか?


……いや、流石にそれはないか。

それだけ私が無意識に仲間を信頼しているということかもしれない。

最初はダンジョンに入る条件……「ギルドの許可を得た最低3人以上のパーティーであること」を満たすために、手頃なランクで私の弱点克服にはうってつけな彼らを利用するつもりだったのだけれどね。



「ユノは魔物と相対したときの恐怖心をどうにかしないとなぁ」



「返す言葉も無いわ……」



「ふん、魔物にびびって冒険者が務まるかよ。俺なら竜が出ても止めてやるね」



「ははは、言うね。なら俺はファクスより先に竜の首を落とそう」



「はぁ!? Bランクのお前にできるわけねぇだろ!」



「貴方()Bランクでしょう?」



「あ、あはは、そ、そうだった。冗談だよ」



「まぁ、俺が言ったのは半分本当だけどな。仮に敵が竜だろうと……いや、竜は流石に言い過ぎにしても、俺たち前衛は何が出ても後衛を守る覚悟でいる。怖がる必要なんてない。魔道士ってのは、仲間を信じて詠唱に集中してればいいのさ」



「アーサー……ありがとう。気が楽になるわ」




まぁ、アーサーのいう「恐怖」と、私が感じている恐怖は全く方向性の違うものだろうけど……

それでも、今の仲間にはいつも心が救われる。


いつか皆が私と同じくらい強くなって、肩を並べて凶悪な魔物と戦う。

なんてシチュエーションには……ならないかもしれない。

私と彼らでは、実力に差がありすぎるから。

それでも、私はこのパーティーの雰囲気が気に入っている。


彼らを無事にダンジョンから返す。

それが、最近できた二つ目の目標。



私は「可愛い魔物を克服する」なんて、側から見れば意味のわからない理由でダンジョンに潜るけど、まず死ぬことはない。

可愛い魔物に耐性が無いといっても、「ダンジョンに挑むときは最低3人以上のパーティーで」などという意味のわからない規則さえなければ、私は今よりも遥かに戦える。

……狙いが定まらないなら、超広範囲魔法で全方位を爆撃すればいいだけの話なのだから。


しかし、私以外の冒険者は違う。

文字通り命を賭けてダンジョンに潜り、そのまま帰らぬ人となった冒険者も数多く存在する。

少なくとも、アーサー達にはそうなって欲しくなかった。



しっかり者のアーサーも。


お調子者のファクスも。


不思議ちゃんなミューエも。



最初は私が利用するだけのつもりが、いつの間にか、私の中でかけがえのない存在になっていた。


どれだけ魔法を暴発させて、どれだけ皆に疎まれようと、私は多分、自分からこのパーティーを抜けることはない。

役立たずだと罵倒されたって一向に構わない。

……そうして私が抜けた後で、手に負えない魔物に遭遇して全滅されるくらいなら。



ねぇ、皆。

……どうしても私を追放したいなら、それができるくらいの実力を身につけて、私を安心させてよね?




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