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全ての人類に絶望を。  作者: うまい棒人間
君のための2週間
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最低最悪の学校制度

 夕暮れ時、短い針は6を超え、学校中にチャイムが鳴り響く。


 これは一般生徒は帰れという合図だ。


 だがグラウンドで練習をしている運動部はそんなチンケなチャイムの音をかき消すかのような大声を出し練習を続けている。


 …ルールとは?


 運動部が必死になるのも無理はない。このテストが終われば野球部には小さな大会があるらしい。


 俺は地球のスポーツを今までやったことはないが、興味自体はある。特に野球だ、すごい楽しそう。


 そんなことを思いながら俺達は校門を抜ける。


 そして俺の少し前には森谷朱里が歩いている。後ろからたんこぶがしっかり見えてなんか面白い。


 あいつが一緒に帰るところを見られたくないということで、大体毎日俺とあいつは帰る時間をバラバラに変える。


 なんか今の偶然だがうまくない?


 そんな冗談はさておき、今日はあいつから『この学校の仕組み』とかいう情報を得るため、一緒に帰ることになっている。


 それでも俺とあいつは離れながら歩く。


 森谷朱里曰く「後からついて来て、そして人がいなくなったら隣に来て」だそうだ。


 後ろからほかの人にバレないようにあいつの後を追って、人がいなくなったら近づく、か…。


 俺知ってる、こういうのストーカーっていうんだよな。


 森谷朱里のやつそこまで考えて…!?


「あほらし」


 俺は自分の考えを鼻で笑いながら森谷朱里の後をつける。別にこそこそする必要は無い、少し離れて堂々と歩けばいいんだ。






「…よし、人気はあんまりないな」


 5分ほど歩くと周りの学生はいなくなった。もう大丈夫だろ。


 結局うちの生徒に見られなきゃいいんだ、あいつが恐れてるのは俺達が仲良しだと思われたくないからなのだからな。


 同じ速度で歩いてきた足を早足にして距離を詰める。

 声をかける。


「おい、話をするぞ」


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?ストーカーァァァァァ!!」


 !?


 な、何言ってんだこの女ァ!?


「…冗談」


 森谷朱里はまさに悪役のごとくニヤリと悪い笑顔を見せる。


 …殺してぇ。


「マジでシャレにならないからやめろマジで…」


「だから冗談って言ってるじゃない、誰かいたらやんないわよこんなの」


「…お前は誰かいないと思えるほど周りを見渡しましたか?」


「見てないけど、大丈夫でしょ」


 なんだその根拠、ガバガバじゃねぇか。


 お前のそのミスで俺とお前の人生が吹っ飛ぶんだぞ?


 俺は殺意と怒りを込めて睨むが、なんとそんな俺を見て彼女はさっきの悪魔のような微笑みとは別に優しくニコリと笑って。


「あんたが話しかけたんだから、そういう場になったってことでしょ?」


「…なんだその信頼は」


 こいつからは、一体俺はどういうふうに思われてんだ?


 嫌われてるけど俺の能力は信用しているということだろうか。


「まぁいいや、とりあえず本題に入ろうぜ」


「そうね、教えてあげるわ、そして後悔しなさいこの学校に入ってきたことを…!」


 まずお前がこの学校にいるということで俺は一番後悔している。果たしてそれを上回ることができるのかな?


「一応聞くけど、この学校の名前知ってるわよね?」


「知らん」


「…」


 そういえば聞いたことなかった。興味のない話は極力スルーする方向で人の話聞いていたからな。


「…栄輝高等学校」


「あぁ、確かそんな感じの名前だった」


「栄えて輝くと書くわ」


「学校にふさわしい名前じゃないか、いいな栄輝。気に入った」


 栄輝、なんか素晴らしい響き。初めて聞いた言葉だけどいいな。名前だけ聞けば素晴らしい学校じゃないか。


 目を輝かせている俺とは裏腹に、はぁとためいきをつく森谷朱里。


「この学校の本質は、恐ろしいまでの連帯責任」


「連帯責任?」


 聞き返す、馬鹿の証?なんじゃそりゃ?俺が言ったのは何度も何度も聞き返すしか脳のないやつのことだ。決して今の俺ではない。


「成績は個人反映は当たり前だけど、それとプラスしてクラス成績というものも存在するのよ」


「クラス成績は、生徒にのチームワークの向上、そして協力を促すために存在してるわ。学校行事やテストの点数でそのクラス成績が決定する」


「へぇ、面白そう…ん?」


 まて?クラス成績…?


「…そしてクラス成績のテストの点数はクラスの平均得点で反映されるの」


「…なるほど読めた」


 そういう事か、納得がいったぞ、森谷朱里がどうしてあんなに必死になっていたのか。


 あとは最後のピースをはめるだけ。


「あの男はクラスメイトか?」


 森谷朱里はコクリと頷いた。


 つまりはそういうことである、この学校制度として存在するクラス成績を下げないために森谷朱里は頑張っていたのだろう。


「クラス成績が与える俺たちへの影響はなんだ?」


 そんな質問をする、別にどうってことない内容でないことぐらい森谷朱里の動揺っぷりを見ればわかるのだが、これからのために知っておきたい。


「クラス成績は高い順から一気に境遇がよくなる」


「境遇ってなんだよ、誤魔化さないで詳しく言え」


「学校側が依怙贔屓するようになるわ。例えば学食無料券が配られたり、多少の娯楽を許されたりね。しかもクラス成績は個々の成績にも反映するの。更には就職先や進学先の希望もクラス成績が関わってくる。良ければ希望する企業や進学先に優先的に受験させてくれるわ」


 …なーにが栄輝高等学校だ。


「一応なんとなくは分かるが…成績が低くなるとどうなる?」


「簡単に言えば逆になるのよ」


「おー怖…」


 つまりはこういうことか?「成績を上げたければチームワークでなんとかしろ」と?


 ふざけてる。学食は許す、娯楽も許す、だが俺は個人の成績にも影響を及ぼすというところに納得がいかない。


 馴れ合いを求めてるのか?この学校は独立の精神を求めていないのか?


 クソ、なんか本気でイラついてきた。


「そして、さっきの男の人はクラスの中でトップレベルの馬鹿なの」


「つまりお前はそのバカの点数を上げるいい機会だから助ける、という訳だな」


「それもあるわ、でも一番の理由はそこじゃないの」


 ん?それ以外の理由?


「かわいそうじゃない、いつも最下位でみんなから嫌な目で見られるのって」


「…あぁ、そういう事ね」


 悲しそうな表情で、他人の心配をしている彼女を見て、思い出す。俺に対する態度が凶暴すぎるから忘れがちだが、本来この女は優しいんだ。


 決して(俺以外は)殴らず、決して(俺以外は)蹴らず、決して(俺以外には)悪口を言わない。


 それなのにこの女は何故か不良扱いされている。


 なんでだろう、わからない。


「まぁ、それはそうとてやばいことになったな」


「うん…」


 俺は赤点回避を目標値として発言していたため、本当に赤点回避を狙いとした作戦を発表したのだ。


 それが1週間の詰め込み。それさえ出来れば赤点は取らずに済むとそう思っていた。


 だが、それは大きな間違い。


 彼に低い点数を取らせることは俺達の点数に関わることとなり、それと同時にクラス内全員の成績をガクッと下げることになってしまう。


 そうなるとそれを嫌に思うやつが現れる。


 だがあいつにもし友達がいたのならその嫌に思うやつとの対立は避けられない。


 そんなことになったらこのクラスのチームワークなんて消え去るだろう。


 そしてまたクラス成績と共に点数が下がる。負の連鎖だ。


「作戦、建て直さなきゃな…」


「うん…」


 まぁ、少しだけ俺のせいでこうなった以上見捨てるわけにもいくまい、せめてまともな点数を取ってもらってビリにならない方法を考えるか。


 また俺は、人のために何かをしてしまうのだろうか…。


 俺と森谷朱里、がっくりうなだれたまま家にゆっくりと向かうのだった。

明日用事があるので遅れます。嘘だといいですね

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