最低最悪の決行
「あっ!?」
森谷朱里が勘づいたようだ、俺の考えていることが分かったらしい。
だがまた考え込む、どうやら納得いかない点があるみたいだ、まぁ実際ある。向こうの男がそれを考えていないだけだ。
「それを考えると、なんかいい事あるんすか?」
そんな質問が来た、…森谷朱里みたいに察してくれないだけありがたい。
だが物事全部説明しちまうと、なんかかっこよくない。捻った表現が好きなわけじゃないけどいちいち全部説明するのは面倒臭いし嫌いだ。
…しかも今回の作戦は全部説明する訳にはいかない、したらせっかくの絶望が台無しになっちまう…。
「ま、俺の言うとおりにするといい、お前は残り1週間まで絶対に勉強するんじゃないぞ。勉強したら謎の異世界人がお前の前に現れて不思議な力で首が飛ぶぞ」
「は、はぁ…?」
「以上だ、あと残り1週間になったらもう一度ここに来な」
「わかりました…そ、それじゃあ失礼します」
そう言うと、彼は部室をあとにした。
✖✖✖
そしてまた、部室には俺と森谷朱里が残された。
両者無言、何一つ口を開かずただ黙々と作業をこなしていた。
だがそこに俺はぎこちなさを感じなかった。下手に仲の良いやつなら気まずさを感じるだろうが、俺とこいつは水と油。嫌いだし嫌われている。
嫌われてるやつにどう思われようが知ったことじゃない。これは森谷朱里に俺が与えた言葉だ。
「ねぇ」
だがそんななんてことない沈黙を、彼女は壊した。
「え?なに?」
急に声をかけられたからか、そもそもかけられることを予想してなかったからか、俺は少し驚いていた。
「さっきの作戦に、ちょっと疑問に思ったことがあるんだけど」
「…あぁ、それか」
俺はなんとなく疑問が予想はできてる。こいつはバカっぽい…いや馬鹿だが物事を考えられないほど馬鹿ではない…はず。数学出来るらしいし。
「本当に、1週間程度で点数取れるの?」
「…ま、赤点超えるぐらいならなんとかなんだろ」
俺達が要求されているのは『赤点回避』のみである。しっかり1週間集中してやれば赤点は軽く超えることが出来ると思う。
「だからそこまで心配することは…?どしたお前」
安心させるつもりで喋ったのだが、全く安心した表情になっていない。むしろ絶望顔だ。冷や汗が流れ、体が震えている。なにかに怯えているようだった。
「…まって、もしかして、あんたこの学校の仕組み、知らないの?」
「知らねぇよ、学校だって偶然ここが降りてくる場所ここに入っただけだ」
そういった瞬間、森谷朱里の顔がさらに青ざめた。もう真っ青だった。血が通ってないかと疑うほどの青さ。結城萌花から借りた本に出てくる館内で主人公達を追っかけ回すあの青い鬼と似ている。
「…お、終わった…」
「お、おい!?」
森谷朱里が後ろ向きにバタッとぶっ倒れた。そのまま人形のように動かなくなった。…え?死んだの?てか後頭部めっちゃいたそう。
「どうしたんだよお前!」
「オワタ…オワタ…」
ぐらんぐらんと肩を揺らすが、首が固定されておらずただ無気力にされるがままに首もぐらんぐらんと揺れる。
まさに人形、魂を抜かれた抜け殻のようだった。
「おーい!早く起きろ!下校時刻になっちゃうぞ!」
彼女が意識を取り戻すのには少し時間がかかった。
「…はっ!?」
「や、やっと起きたか…」
昨日道端で踏んだアリについて謝り始めた時はもうやばいと思ったがどうにか意識を取り戻してくれた。
「な、なんか後頭部痛い…あとほっぺた痛い…」
ちなみにほっぺたが痛いのは俺が起こすためという理由をつけてストレス解消のビンタをしまくったからである。これを言うと今度は俺が横になるので決して言わない。
「…で?なんでそんなショック受けたの、あとこの学校の仕組みって何?色々教えてもらうぞ」
「…いいわ、教えてあげる。でももう下校時刻になりそうだから帰りながらね」
コクリと俺は頷く。
森谷朱里も頷いて立ち上がる、だがまだ気絶から回復していないせいかふらりと体がよろけている、このまま帰らせると何かと危ない。
だがそのまま階段から落ちて転落死、または交通事故にあって即死していただくのが俺にとってベストな展開なのだが、そうした場合…。
あれ?困ること無くね?
じゃあ放置でいいやん。
「…帰るわよ」
「うい」
色々な思いを抱きながら、俺達は部室の扉を開けて帰路につく。
部活のこと、テストのこと、さっきの男のこと、そして、さっき森谷朱里の言っていたこの学校の仕組み。
色々あってぐちゃぐちゃになっているが、こういう時こそ慌ててはいけない。1つづつクリアしていこう。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!??」
「…やっぱりな」
そんなことを思っていたら、案の定森谷朱里は階段から転げ落ちた。ほんと、期待を裏切らない。
「おーい…大丈夫か?」
「うぅぅぅ…痛いよぉ…」
彼女は涙目で頭に大きなたんこぶを作り大の字になってぶっ倒れていた。俺が見た感じだと頭から転がり落ちたから相当…ん?
おい、まて。普通の人間って階段を頭から転がり落ちて、『痛い』ぐらいのケガしかしないのか?
…どうやら、森谷朱里を普通の女の子としてみるのはいい加減やめよう…。
新しい悩みが一つ増えて、今度は俺が頭を痛める。今日は問題事が一気に増えた…こういう日は絶対にいいことがない。重なった問題にそしてこれからに絶望しながらぶっ倒れた森谷朱里を放置してそのまま帰路に着いた。
「無視すんな!」
「いたっ!?」
何時立ち上がったのか、森谷朱里は後ろから上靴で後頭部をぶんなぐってきた、痛い。
ただでさえ考え事で痛い頭にさらに頭痛を加えられた俺の頭はなぜかすっきりとしていた。少し馬鹿になった証だろうか。
あぁ、なんか馬鹿がうらやましい。知らないことを当然として生きていけたらどれだけ楽な人生になるのか。
別に『俺天才だからww』って感じで何かを見下しているわけじゃない。こんな自分のためにならないことで悩んで頭を痛めるぐらいなら、考える頭なんか必要ない。本能だけで行動し、それを成功に導く知能だけあればいい。野生の熊みたいな存在になれたらいいなと思ってる。
俺は侵略者、作戦を実行する頭とそれにこたえる肉体さえあればよかったのに。変に頭がよかったせいでいろいろ考える生き物になってしまった。
…そして恐ろしいのは、そんな生き方を楽しんでいるということだ。
馬鹿は、一つのことに集中する力しかない。俺はそれさえあればよかった。何も考えずに目的を遂行するロボットでよかったんだ。
そうやって俺はまた悩む。悩んで悩んで、また知識を得る。
俺は、馬鹿になりたい。
めざパは諦めました(半ギレ)




