最低最悪の解決方法
「まぁ今までのお前の話を聞く限りだと…」
「はい!なんかいいのないっすかね!?」
「お前じゃ無理だ、諦めろ」
…シン
一瞬、部室が凍りついたような気がした、いや、間違ったことは言ってないと思うんだけど…。
ドゴォ
そして静まり返ったこの部屋に、放たれる重く鈍い音。冷静に解説しているがこれは森谷朱里が俺の腹部にボディブローをかましてきて発生した音である。
文字に起こしているから痛みを伝えることは難しいが、この来た激痛は麻酔がきれてることに気が付かないままドリルで歯に穴を開けられる痛みと似ていた。
要するに、涙が出るぐらい痛かった。
「ごぷっ…!?」
「…おい、林田くん?」
って怖っ!?さっきまで「どんな解決策教えてくれるのかな」みたいな目線を感じてたのに今は殺意しか感じられない。
「ひ、ひでぇ!最低だ!!」
「あなたに頼った私が馬鹿だったわ!このクズ!粗大ゴミ!」
「まぁまて、話はまだ終わってないぞ?」
怒り狂う彼らをなんとか静止して話を切り出す、さぁこっからだ。
「俺が無理だと言ったのは、お前にやる気がないからだ」
「や、やる気ならありますよ!」
「…やる気があるなら今までさっきの女の人が言ってたやつぐらいやれよ」
「それは…」
おいおい…こんなんで言葉に詰まるのかよ…?
でもいいや、まずは本題を終わらせる。
「…まぁ、そういうことだ。お前は自分の中じゃ頑張りたいと思ってんだろうが、お前には『覚悟』ってのが足りてないのさ」
「覚悟、ですか?」
向こうの男が聞き返す、森谷朱里も真剣に聞いている。
2人とも、俺の次の言葉を待っている。
…でもこれから言うことは当たり前のことを難しくいうだけなんだよな…期待してるだろうけど期待しないでほしい。
「そう、覚悟だ、あとお前には『絶望』がまるで足りない」
「絶望?」
さっきからこいつ聞き返してばっかだな。文章力足りないんじゃないのか?
「これは俺の予想なんだが、お前これまでのテスト、ほとんど一夜漬けだろ?」
「は、はい!」
「夏休みの課題とかも、最終日にがんばって終わらせるタイプだろ?」
「はい…」
どんどん声に力が無くなってきている、見事当てられて自分でショックを受けているようだ。
隣を見ると汗をダラダラ流している森谷朱里がいた。なるほどお前もそうなのか。
「まぁ何が言いたいかと言うとだな、お前が勉強できない理由は『余裕の持ちすぎ』と『自分の過大評価』だ」
「『俺一夜漬けでテスト乗り切ったるわww』とか『真田夏休み一週間有るから宿題余裕ww』とかそう言って物事先延ばしにして行ったんだろう」
「きっとこれまでの人生、それでもどうにかなってきたのだろうが、それはただ運が良かっただけだ。それを彼は知らなかったんだ」
「お前は自分で今の状況を本当に危ないと思ってないんだ、まだ心のどこかで余裕がある、それがある限り今のお前じゃどんな勉強法を教えてもやらないのがオチだろうな。そういう風に生きてきたんだからな」
「…」
ついに何も言わなくなった、言い返せないということは認めたということだ。
向こうは見えないが、彼が今どんな表情をしているのかは簡単に想像がつく。きっとこの世の終わりを告げられたように、青ざめていることだろう。
無理もない、助けてくれると思っていたら自分のダメなところをさらけ出されたのだから。
横から森谷朱里が怒りに満ちた視線をこちらに向けている、これも無理はない、助けてあげると思っていたら逆に叩き落としてやったのだから。
このままだと俺はクズだろう、だがそれは『このままなら』の話だ。
俺の話は終わっちゃいない。だからスカイアッパーの構えをするのはやめてくれ。お前のそれはシャレにならないぐらい痛いから。顎とか砕けるから。
「と、まぁここまでがお前の現状だ、今から話すのがそんなお前にぴったりなテスト対策」
「…え?あるんですか?」
「あるさ、そのためにさっきの話をしたんだよ」
「そうなんすか!?お、お願いします!」
さっきまでの話をした理由は自分のダメなところを俺が指摘することでショックを受けさせることにある。自分をいかにダメだと思わせるかで今後の行動力が変わってくるからだ。
人間、一番勉強がしたくなるタイミングは何時だろう?人にもよるだろうがおそらく彼のような勉強嫌いが勉強をしたくなるタイミングは『テスト最中』だと思う。
『どうしてやってこなかったんだ』
『もう少し頑張ればよかった』
そんな気持ちになって、俄然やる気が出てくる。
つまり人間の原動力は『絶望』なのだ、だから希望に満ち溢れた人生じゃ人は成功しない。
彼は今まで一夜漬けという希望を持ってこれまでの人生を歩んできた、ならそれを奪ってしまえばいい。
これまでの人生を否定してやればいい。
簡単に言えば『失敗は成功のもと』みたいなイメージだ。
あとはそれでこいつがどれほど苦しもうが知ったことじゃない、むしろ気分がいい。
そして今こいつは自分のダメさを聞かされて、感傷的になっている。こういう時人は物事を鵜呑みにしてしまうのだ。
たとえどんなことでもな。
すぅ、と息を吸う。心して聞くがいい、俺がお前に与えるありがたいお言葉を。
「お前、テスト前1週間まで勉強すんな」
「はい?」
ん?聞こえなかったか?しょうがねぇな、ありがたいお言葉はちゃんと聞くもんだぞ?
「だからお前はいっ…!?」
ガッと森谷朱里のスカイアッパーがクリーンヒットした。顎は砕けなかったが俺は不意打ちの恐ろしさを知った。
「な、なにふんだ!?」
顎殴られてうまく喋れない!舌思いっきりかんじまってまず喋れない!
「あんた正気!?なんで勉強できない人間に勉強させないのよ!?」
「勉強したくねぇならやらなきゃいいんだよ」
「はぁ?」
「まぁ、黙って見とけ」
そう言うと森谷朱里は何か言いたそうな顔をしたが、結局何も言わなかった。
ご機嫌は斜めなようだ。確かに俺が言ってるのは正攻法じゃないし成功する方法とも限らないからな。
「どうか、したんすか?」
「あぁ、いや、何でもない。1週間まで勉強しない作戦、実行してみるか?」
「待ってください!勉強しないんすか?しなきゃダメなんじゃ…」
…その言葉を待ってたぜ。
「そう、結局のところ勉強しなくちゃいけない、でもお前は集中して勉強することが多分できない。だからお前は自分で自分を『絶望』させるんだ」
「???」
森谷朱里が何言ってんだかよくわかっていないようだが無視だ、こいつには後で説明できる。
「お前がテストで赤点を回避しつつまぁまぁな点をとるために必要な条件は、『短期集中型』になることだ」
「短期集中ですか?自分あんまり得意じゃ…」
「得意か不得意かじゃねぇ、やるんだよ」
「は、はい!頑張ります」
ここで今までの会話が生きてくる、弱った心は人の意見を鵜呑みにする。俺の多少の無茶ぶりなら軽々押し切れる。
「だからお前はテスト前1週間まで絶対に勉強するな、そしてずっと勉強しない自分に怯えてろ『こんなんで赤点回避できるのか…?』とか『勉強をしないといけないんじゃないのか…?』みたいな事考えながらな」
明日こそめざパ厳選するので遅れます。