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魔装部隊の特異点  作者: 那珂川 輝
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第一章「変わりゆく世界」 Ⅰ

4月7日。この日は全国で、入学式が行われることが多い日であり、圭祐がこれから通う「桜宮高校」も例に漏れなかった。

 市内でも、それなりに偏差値の高い高校であり、中学三年間を勉強に費やしてきた圭祐にとって、入学するのに苦は無かった。やろうと思えば、更に一、二段階上の学校も目指すことが出来たが、何分家から遠すぎたために、この高校を選んだのだ。実際、圭祐の家から桜宮高校まで徒歩10分もかからない。

 ようは二重の意味で面倒くさかっただけなのだが。

 

 入学式はつつがなく行われて、待ちに待ったホームルームの時間。俺は、中学時代にこれといった友人がいなかった為、高校の初日に滑るわけにはいかないと気張っていた。

 そもそもの原因は、中学に入学する直前の春休みに、電車の衝突事故に遭遇してしまったためだ。意識が戻ったのはなんと11月の事で、医者に言わせれば、まさに奇跡だったらしい。それから色々とあり学校に復帰したのは12月の初めの頃。

 既に運動会や学園祭といった、クラスの絆(?)を深めるイベントは大方終わった後で、友達グループも形成されていたため、俺は孤立せざるおえなかった。とはいえ、別にイジメを受けたこともなく、時々喋ったりする奴もいたので、困ったことは何も無かったのだが。

 よくある、体育で二人組を作るのに苦労したこともなかった。というか、事故の影響で左腕が思うように動かせなかったため、中学時代の体育は全て欠席。小学校時代にバスケットボールをやっていたので、運動できない事にうずうずした事も幾度となくあったが、結果として良かったのだろう。気まずい空気を耐える事等できなかっただろうし。

 

 そんな三年間だった。遊びに行く友達もなく、少しつまらない日々。この過去を打開すべく臨んだ高校初日のホームルームだったのだが。

 緊張という物は恐ろしい。声は裏返り、呂律が回らず、俺自身何を言っているのか意味分からなかった。

 結果として。

 自己紹介は失敗中の大失敗。それだけならまだしも、席が近い人に話しかけられた時には、言葉の使い方を忘れてしまったかのように、口から出た言葉が途切れ途切れになってしまった。

春休み中に喋る練習しておくんだった、なんて思っても後の祭り。周囲の人達はドン引きだった。

 圭祐は気にしたことも無かったが、問題は彼の格好にもあった。一番の問題は、目を覆ってしまうほどに伸びた髪。しかも、ストレートな髪質であったために、他の人たちから圭祐の目を見ることが出来なかったのだ。それが、根暗なイメージを強調させ、「こいつヤバい奴だ」何て思われる原因であったことに、圭祐が気づくはずもなかった。

 5月にもなると彼の孤立は中学時代よりも酷いものになっていた。相変わらずイジメを受けることは無かったが、誰も話しかけてこない。

 それとは別の話だが、一ついい事があった。2年半にわたるリハビリのかいあって、左腕が支障なく動くようになり、体育に参加してもいいことになったのだ。長年たまったストレスを吹き飛ばしたいと、圭祐はゴールデンウィークが明けるのを楽しみにしていた。

 

                 ◇ ◇ ◇

                 

 圭祐は何故立っているのか、困惑していた。授業中のはずなのに、壁際に突っ立っていた自分に。何をしようとして立ったのかが分からなかった。

 それだけではない。

 教室は、およそ授業を受けているような状態では無かった。

 床に伏せているもの。

 友達と固まっているもの。

 誰一人として、机に座ってはいなかった。教師でさえ、壁に体を預けて震えていた。

 ただ、一つ分かったことは、誰もが自分の行動に困惑している事だった。各々の顔を見合わせて、?マークを浮かべている。

 そんな中でも、流石は大人というべきだろう。数学の教師が最初に言葉を発した。

「......何かあったのか、分かる人はいますか?」

 その問いに答える人はいない。教師はじっくりと待った後、肩を落とした。

「一人もいませんか......。少し、待っていて下さい。校長と話をしてきます」

 教師が教室から出ていく。それを合図にして、ガヤガヤと教室内が騒がしくなった。

 圭祐は、誰と話すわけでもなく席に着き、一人考え始めた。その顔からは、相変わらず何を考えているのか、読み取ることが出来ない。

 何があったのか。

 そもそも、何かあったという考えが間違いなのだろうか。実際、圭祐は授業を受けている途中で、何故か立ち上がり、壁際に歩いて行っただけなのだ。

 ただ、圭祐だけだったらまだしも、他の人達も同じような行動をしていた事が、圭祐の意識に引っかかっていた。

 やはり、何かあったのだろうと結論付ける。そうなると、他のクラスではどうだったのかが気になるところだが、それは教師が帰ってきたら分かる事だ。今は、他の事を考えるべきだろう。

 記憶が混濁している事は明らかだった。

 手段、そして理由が定かにならないが、自分達に覚えていられると困る物なのだろう。

 時間は。

 教室に据え付けられたデジタル時計は、十三時二十分を指していた。授業の開始時刻が十三時。ノートの進行具合から見て、十五分間以上は授業を受けていた様だ。ならば、何かが起こった時間はほとんど短かったはずだ。

 明らかに怯える様な出来事。テロ組織が乗り込んできたのか、はたまた爆弾が爆発しかけたのか。

「......情報が少なすぎる」

 それ以上を考えようとして、圭祐は思考を止めた。伸びを一つして、窓の外の景色を眺める。

 圭祐のクラスメイト達も同じように推測を立てていたが、どれも仮説に仮説を重ねた、意味をなさない物ばかりだった。

 圭祐が欠伸をして、そろそろ一眠りしようかという頃になって、ドアを開く音が鳴り、教師が戻ってきた。

「みんな気になる事も多いだろうけど、まずは席に着いてから」

 口を開きかけたクラスメイト達が、渋々と各々の席に座る。

「分からない事ばかりなんだけど、とりあえず今日は家に帰って下さい。明日以降、警察に学校の中を調査していただくことになりました。期間はまだ分かりませんが、追って連絡します」

 クラスの騒めきは収まらず、無意味な推理が進んでいた。

「警察って......やっぱり何かあったのですか?」

 十夜司が教師に聞いた。

 制服を学校の規定通りにキッチリと着た、所謂優等生だ。成績は学年トップで、更に運動も出来るこの男は、学校中から人気を集めていた。

「他のクラスも同じ状態だし、何かがあったと考えるべきでしょうね。......みんな、気になる事も多いだろうけど、私達も何も分からない事ばかりなの。だから、今日はさっさと家に帰って下さい。じゃあね」

 教師はそそくさと教室を後に知った。

 圭祐は、彼女の槍投げな態度を非難することは無かった。

 誰よりも早く片づけを終え、教室から出ていく。その目は高校生になってから最も輝いていたが、誰も気が付くことは無かった。

ちょくちょく改稿していくかも

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