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非正規転生 ~転生したけど最弱スキルすらもらってない~  作者: KEI
第16話 神託は予言ではない

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(二)水祓い対象再確認に関する照会

◆ (三)水祓い対象再確認に関する照会


分院長は表題を書いた。

水祓い対象再確認に関する照会。

神託文解釈に関する照会とは書かなかった。

外部者が神託を読んだことを、正面から問題にすれば危険すぎる。

だが、水祓い対象の再確認であれば、分院の実務として中央へ問うことができる。


分院長は筆を進めた。

カランタ分院管轄の水祓い神託公開後、冒険者ギルド経由にて、川沿い村落の確認対象に関する報告が提出された。

報告者は山科理人。

当該報告は、神託文の否定または既存解釈の撤回を求めるものではない。

神託文中の距離表現および過去参照に基づき、現在の確認対象から外れつつある村落の有無を照合すべきとする提案である。


添付の確認表において、白倉村は神殿台帳および水祓い対象に含まれている。

一方、近年の巡回、荷運び、祭礼参加、冒険者ギルドへの依頼に関する記録が薄い。

同村が現在の注意対象として後退している可能性があるため、雨期前巡回において優先確認候補に含めるべきか、中央神殿の判断を仰ぐ。

分院長は、最後に添付資料を書き並べた。

神託文中の未来・距離表現に関する仮対応表。


川沿い村落の交流・祈祷対象確認表。

川沿い村落の対象漏れに関する確認提案報告書。

魔物除け札の外形補正に関する暫定記録。

神託の意味を問うたわけではない。

巡回対象を増やしてよいかと尋ねただけだ。


それでも、添付された紙を読めば分かる。

これは、ただの巡回順の相談ではない。

神託を、何が起きるかではなく、何を確認すべきかへ変える文書だった。

分院長は照会文へ印を押した。

中央が判断する。


それが、この紙束を最も安全に扱う方法だった。


◆ (四)中央神殿


照会文が中央神殿へ届いたのは、二日後だった。

雨期前の中央神殿には、各地から多くの文書が集まる。

水祓い巡回の日程。

必要な神官の数。

祈祷具の不足。


川沿いの村落台帳。

崩れた水路。

増水で通れなくなった道。

祈祷を早めてほしいという領主からの要望。

その中に、カランタ分院からの照会も混じっていた。


最初に目を通した神官は、表題を見て、通常の巡回相談だと思った。

水祓い対象再確認に関する照会。

珍しいものではない。

村が増えた。

道が変わった。


担当する分院が変わった。

その程度の確認は毎年ある。

だが、添付資料の題で手が止まった。

神託文中の未来・距離表現に関する仮対応表。

川沿い村落の対象漏れに関する確認提案報告書。


神官は一枚目をめくった。

未来。

遠い。

未到達。

過去参照。


現在の注意対象。

神殿の正式な解釈ではない。

だが、ただの思いつきにも見えない。

その日の夕刻、紙束は神官長の机へ回された。

中央神殿の奥。


祈祷を終えた者の足音さえ遠くなる部屋で、神官長エルネスト・ワルトは照会文を受け取った。

机の上には、すでに各地からの報告が積まれている。

エルネストは、カランタ分院の紙束を手に取った。


◆ (五)神官長の疑い


エルネスト・ワルトは、神託を疑っていたわけではない。

女神の存在を軽んじたこともない。

祈りを無意味だと思ったこともない。

彼が長く疑っていたのは、神託を受け取る人間の方だった。

神託は未来を告げる。


人々はそう言う。

町へ知らせる文も、分院へ回す写しも、領主へ送る報告も、多くはその形へ整えられていた。

いずれ災いが来る。

雨に備えよ。

祈りを怠るな。


神の守りを求めよ。

分かりやすい。

人を動かしやすい。

混乱も少ない。

だが、エルネストは、その分かりやすさを恐れていた。


古い神託ほど、短い。

主語がない。

場所も時も明示されない。

一つの語が、遠い時間にも、遠い場所にも使われている。

神官が分かりやすく言い換えるほど、神託の持っていた幅は削られていく。


神託は、本当に未来を見ているのか。

女神は、これから起きる出来事を先に見て、人間へ予言として告げているのか。

その理解は、人間にとって都合がよかった。

未来を知る神。

災いを予告する神。


祈れば守る神。

起きたことは、予言が当たったとされる。

起きなかったことは、祈りが届いたとされる。

どちらでも、神託は正しかったことになる。

エルネストは、その形に長く違和感を抱いていた。


神託を否定したいのではない。

むしろ逆だった。

神託が本当に女神から届くのなら、人間に都合のよい予言へ削ってよいはずがない。

古い神託を読み続けるうち、エルネストには別の可能性が見えるようになっていた。

すでに、どこかで起きている異常。


まだ人間の耳へ届いていない危険。

祈りの対象から外れた場所。

数えられなくなったもの。

呼ばれなくなった名。

世界のどこかで生じている小さな崩れ。


神託は、未来の光景を告げるものではない。

人間へ届いていないものを、届く形へ変えた警告ではないのか。

その考えは、信仰を捨てることではなかった。

信じているからこそ、消すことのできない疑問だった。

だが、公に語ることはできなかった。


神託は予言ではない。

そう口にすれば、女神は未来を見ていないと言ったに等しい。

神官長であっても、軽々しく触れられる考えではなかった。



※第16話「神託は予言ではない」は全五回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/irregular-reincarnation-top/

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