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非正規転生 ~転生したけど最弱スキルすらもらってない~  作者: KEI
第13話 閉じ括弧が足りない

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(一)同じ型の札

◆ (一)混ざるものを減らす


「古い札は外す」


山科理人がそう言うと、神殿分院から来ていた術具係の男は眉をひそめた。

床には、荷車に取りつける魔物除け札が並べられている。

魔物被害がなかった札。

魔物が寄ったと報告された札。

荷役獣が嫌がった札。


羽虫が避けた札。

煙が乱れた札。

見た目は、どれもよく似ていた。

だが、同じではない。

理人は色のくすんだ札を手に取り、脇へ寄せた。


術具係の男が尋ねる。


「なぜ外すのです」

「古さの問題が混ざるからです」


次に、理人は木札の端へ指を当てた。

乾いているもの。

少し柔らかくなっているもの。

表面に湿りが残っているもの。

リナが札へ鼻を近づけた。


「これは湿ってる。匂いが違う」

「湿った札も外す」

「それでは、残る札が少なすぎます」


男の声には、はっきりと不満が混じっていた。

理人はうなずいた。


「少なくていいです」

「少なければ、正しい比較にならないでしょう」

「違う問題が混ざっている方が、もっと分からなくなります」


セリアが、机の上で記録用の紙を押さえながら口を挟んだ。


「古さと湿気の影響を、いったん比較から外すということですね」

「はい」

「それで原因が分かるんですか」

「分かりません」


術具係の男の顔がさらに険しくなる。

理人は札を並べながら続けた。


「ただ、分からないものを減らせます」


古い札。

湿った札。

素材の違う札。

新しく、乾いていて、同じ種類だと確認できる札。

リナが札を分けていく。


術具係の男は、その様子を面白くなさそうに見ていた。

理人にも、その気持ちは分かった。

魔法を使えないよそ者が、神殿の術具を床へ並べ、勝手に分類している。

不愉快でないはずがない。

それでも、最初から全部を見ようとすれば、何も見えなくなる。


理人は床に残った札を見渡した。

数は減った。

だが、ようやく比べられる形になった。


◆ (二)魔法は分けられない


「魔法陣は、古いか新しいかだけで分かるものではありません」


術具係の男は低い声で言った。


「魔力の通し方。素材の質。描き手の熟練。祈りの集中。使われた土地の魔力。それらが重なって術具は働きます」

「大事だと思います」


理人が答えると、男は一瞬言葉を止めた。

否定されると思っていたのだろう。

理人は床に残った札を指した。


「だから、今は少しずつ分けます」

「分ける?」

「全部が大事なまま全部を比べたら、何が違ったのか分かりません」

「魔法は、物を数えるようには分けられません」

「そうかもしれません」


理人は否定しなかった。


「でも、札の古さと湿りは分けられます」


術具係の男は口を閉じた。

理人は続ける。


「素材が違う札も分けられる。同じ型かどうかも確認できる。作った人も残っているなら分けられる」

「魔力の流し方までは、あなたには見えない」

「見えません」

「なら、意味がないでしょう」

「見えないものがあるから、見えるものまで混ぜる必要はありません」


男は理人をにらんだ。

セリアが小さく息を吐く。


「この人、こういう時は本当にしつこいんです」

「しつこいのではなく、乱暴です」


男は言った。

理人はその言葉も否定しなかった。

専門家から見れば、乱暴だろう。

魔法には、理人の知らない条件がいくつもある。

見えていないものを、ないことにはできない。


だが、見えている違いを、魔法だからという理由で一つにまとめることもできなかった。


「乱暴でも、最初に分けます」


理人が答えると、男は深いため息をついた。


◆ (三)同じ型の札


床に残ったのは、比較的新しく、乾いた札だけだった。

術具係の男によれば、どれも荷運び用に作られた、同じ型の魔物除け札らしい。

対象は低級の魔物。

荷車の側面へ下げて使う。

形も材料も、基本的には同じ。


理人はさらに札を分けた。

魔物被害がなかったと報告された札。

魔物が寄ったと報告された札。

羽虫が避けた札。

煙が乱れた札。


荷役獣が強く嫌がった札。

セリアが記録を取る。

リナが札を運ぶ。

理人は線を見る。

外周の円。


内側へ向かう線。

外側へ戻る線。

線の終わりにある点。

小さな輪。

途中で終わっている線。


同じ型と言われた札は、同じではなかった。

少なくとも、理人の目にはそう見えた。


「描いた人の名前は残っていますか」


セリアが札の裏を見る。


「印があります。神殿側で照合できるそうです」


術具係の男が札を確認した。


「この印が描き手です。こちらの小さな刻みが、魔力を通した者の印になります」

「描いた人と、魔力を通した人は別の場合がある?」

「あります。見習いが描き、熟練者が仕上げることもあります」


理人は木片へ項目を足した。

描き手。

魔力を通した者。

セリアがそれを見て、苦笑する。


「また増えましたね」

「増えました」


理人は札から目を離さずに答えた。

札の形だけでは足りない。

魔力を通した者だけでも足りない。

だが、混ざっていたものが一つずつ見えるようになってきた。



※第13話「閉じ括弧が足りない」は全五回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/irregular-reincarnation-top/

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