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非正規転生 ~転生したけど最弱スキルすらもらってない~  作者: KEI
第12話 魔法陣にはおそらく意味がある

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(一)素材と魔力

◆ (一)半年近く


カランタに来てから、半年近くが過ぎていた。

山科理人は、もう水桶を指して単語だけを並べる必要はなくなっていた。


「北の道の護衛依頼、人数が少ない。昨日の報告、まだ反映されていない」


受付のセリアが、少し疲れた顔で書類をめくる。


「反映する前に、依頼主が急ぎだと言ってきたんです」

「急ぎと安全は別だ」

「分かっています。だからあなたを呼びました」


その程度の会話なら、もう通じる。

発音はまだ怪しい。

言い回しも硬い。

冗談は半分くらいしか伝わらない。

それでも、最初の頃とは違う。


リナが隣で全部を言い直す必要は、もうなかった。

リナはリナで、別の紙を見ている。


「こっち、昨日の戻りの報告。小型魔物、二回」

「場所は?」

「東の細道。白い石の手前」


理人は手を止めた。

白い石。

その言葉に、前に見た道守りの言い伝えを思い出す。


だが、今はその話ではない。

セリアが別の木箱を持ってきた。


「それと、こちらも見てください」


中には、薄い木札が何枚か入っていた。

表面には、細かい円と線が描かれている。

文字ではない。

だが、ただの絵にも見えなかった。

理人は眉をひそめる。


「札?」

「魔物除けです」


セリアは木箱を机に置いた。


「荷運び用のものです。最近、報告が揺れています」

「揺れる?」

「効いたという人もいる。効いていないという人もいる。荷役獣が嫌がったという人もいる。犬が吠えたという人もいる」


理人は、木箱の中を見た。

同じような札が、何枚もある。

同じように見える。

だが、本当に同じかどうかは、まだ分からない。

理人は椅子を引き寄せた。


「並べよう」


セリアは小さくため息をついた。


「やっぱり、そう言うと思いました」


◆ (二)魔物除けの札


木札には、同じような模様が描かれていた。

円。線。小さな点。方角のような印。

それらが、細かく組み合わされている。

理人は木札を一枚持ち上げた。


「これは、荷車に下げる?」

「はい。街道を行く荷車に下げます。低級の魔物なら、近づきにくくなると言われています」

「言われている」


理人は、その言い方を繰り返した。

セリアは少しだけ顔をしかめる。


「実際、被害が減ることはあります」

「減ることはある。でも、今回、出る時と出ない時がある」

「そうです」


理人は木札を机に置いた。


「札が効いたかどうかは、まだ分からない?」


セリアは少し驚いた顔をした。


「普通は、被害がなければ効いたと見ます」

「魔物が近くにいなかっただけかもしれない」


セリアは黙った。

それから、少しだけ苦い顔でうなずいた。


「……それは、そうですね」


理人は札を並べた。

魔物被害がなかったと報告された札。魔物が寄ったと報告された札。荷役獣が嫌がった札。犬が吠えた札。新しい札。古い札。

見た目は、ほとんど同じだった。

ほとんど同じ。

だからこそ、理人は嫌な予感がした。


倉庫の袋も、最初は同じに見えた。

依頼票も、最初は整って見えた。

撤退条件のない低危険度依頼も、紙の上では安全に見えた。

同じように見えるものを、同じ扱いしてはいけない。

理人は、札の外周を指でなぞった。


円がある。

その内側に、細い線がいくつも走っている。

線は中央へ向かったり、外へ戻ったり、途中で分かれたりしている。

飾りのようにも見える。

だが、飾りにしては細かすぎる。


理人は顔を上げた。


「これ、誰が作った?」


セリアは木箱の横に置かれた札束を見た。


「神殿分院に出入りしている魔道具師と、神殿の術具係です。今、呼んでいます」


理人はうなずいた。

専門の者が来る。

それは助かる。

ただし、専門の言葉はたぶん難しい。

理人は木片を引き寄せ、札の横に小さく書いた。


魔物被害。札。作った人。使った場所。荷役獣。犬。虫。煙。後で確認。

項目は、もう増え始めていた。


◆ (三)素材と魔力


しばらくして、神殿分院から来ていた男が札を手に取った。

白い布を肩にかけ、指先には薄く染料がついている。

神官というより、神殿で魔道具を扱う者らしい。


「魔力の乗りが悪いのでしょう」


男は、札を一目見てそう言った。

理人は男を見る。

男は札の表面を軽く撫でる。


「素材が悪ければ、魔力は通りません。湿気を吸った木札もよくありません。古い札なら、なおさらです」


セリアが聞く。


「では、素材の問題ですか」

「おそらくは」


男はそう言った。

理人は、そこで少しだけ眉を動かした。

おそらく。

つまり、確定ではない。

素材が悪い可能性はある。


古い札もある。

湿気を吸ったものもあるだろう。

それは否定しない。

だが、新しい札でも被害は出ている。

同じ道でも、被害が出た日と出ない日がある。


同じ種類の札に見えるのに、動物の反応も違う。

素材だけでは、少し説明が足りない。

理人はまだ何も言わなかった。

まず、見る。

男は続ける。


「魔物が強くなっている可能性もあります。道の魔力が濃くなっているのかもしれません。荷運びの者が札を正しく扱わなかった可能性もあります」


理人はうなずいた。

どれも、あり得る。

素材。古さ。湿気。道。魔物。扱った人。作った人。魔力を通した人。

原因の候補は多い。

だから、一つに決めるのは早い。


理人は木片に書き足した。

素材。湿り。古さ。道。魔物。扱い。作り手。魔力を通した者。

セリアがそれを見て、嫌な予感がした顔をする。


「また増えますか」

「増える」


理人は素直に答えた。

セリアは額を押さえた。

神殿の男は、少し不快そうに理人を見る。


「札は、術具の知識がなければ分かりません」

「分からない」


理人はうなずいた。


「だから、まず違いを見る」


男は黙った。

納得した顔ではない。

だが、否定する言葉もすぐには出なかった。



※第12話「魔法陣にはおそらく意味がある」は全五回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/irregular-reincarnation-top/

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