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非正規転生 ~転生したけど最弱スキルすらもらってない~  作者: KEI
第11.5話 最後まで聞かないと条件が分からない

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(四)古い言葉

◆ (十)道守りの言い伝え


午後、セリアが受付の棚から古い写しを一枚出した。

ギルドの報告書ではない。

神殿分院が旅人向けに写した、古い道守りの言い伝えらしい。

おとぎ話というほど柔らかくはない。

神託というほど厳かでもない。


だが、普通の依頼票とは明らかに言葉が違った。

紙の端には、何度も折られた跡がある。

荷運びや巡礼者が、道に出る前に見るものなのだろう。


理人には、全部は読めない。

それでも、いくつかの単語は拾えた。

雨。東の細道。倒れ木。白い石。夕。獣。待つ。戻る。


そして、聞き慣れた音もあった。

レク。

行く。

それに、最後の音がついた形。

レクナ。


行かない。

あるいは、行くな。

もう一つ。

エル。

見る。


それに条件の音がついた形。

エルカ。

見たら。

見れば。


理人は、紙の上に指を置いた。

単語だけなら、少し分かる。

だが、つながりが分からない。

雨の後に、東の細道へ行くな、なのか。

倒れ木を見たら戻れ、なのか。


白い石の先で待て、なのか。

夕方に獣を見たら戻れ、なのか。

それとも、夕方になる前に戻れ、なのか。

似ている。

ギルドの撤退条件に似ている。


だが、もっと読みにくい。

普通の報告書より、主語が少ない。

条件も薄い。

何が何にかかっているのか、すぐには分からない。

セリアが横から言った。


「東の細道に出る前に読むものです。古い道の言葉なので、今の人でも少し読みづらいです」

「神託?」


理人が聞くと、セリアは首を横に振った。


「神託ではありません。土地の言い伝えです。ただ、神殿が写して配っているので、言い回しは神殿の文に近いです」


理人は、少しだけ眉を寄せた。

それは、ちょうど危ない位置にある文だった。


◆ (十一)古い言葉


神託ではない。

だから、理人は本物の神の言葉を読んでいるわけではない。

だが、神殿の言い回しに近い。

つまり、古い語順や省略の癖を少し含んでいる。


理人は、紙の余白に小石を置いた。

雨。道。倒れ木。白い石。夕。獣。戻る。

次に、それぞれを線でつなごうとした。


だが、すぐに手が止まる。

どれが条件なのか。

どれが結果なのか。

どこまでが場所なのか。

どこからが行動なのか。


セリアが、少し苦い顔をした。


「それ、私たちもたまに間違えます。白い石を見たら戻れ、なのか、白い石の手前で待て、なのか。土地の人に聞かないと分からないことがあります」


理人はうなずいた。


それは、ただの言い伝えではなかった。

古い道の危険を、言葉に閉じ込めたものだ。


ただし、それは古い言葉が雑だったという意味ではない。

もしかすると、その土地の古い方言なのかもしれない。

その道を使っていた者たちには、十分に明確な指示だったのかもしれない。

白い石。東の細道。倒れ木。夕。獣。戻る。


当時の人間なら、その並びだけで分かった可能性がある。

どの白い石なのか。

どこから先が危ないのか。

夕とは、どの暗さを指すのか。

獣とは、何を避けろという意味なのか。


それは、土地と経験を共有している者には、説明しなくても通じたのかもしれない。


だが、時間が経つと、共有されていたものが消える。

道が変わる。

石が動く。

森が広がる。

獣の種類が変わる。


その言葉を使っていた人間がいなくなる。

それでも、言葉だけは残る。

残った言葉は、同じ顔をしている。

だが、それを読む人間の側が、もう同じではない。


さらに、そこへ神殿の言葉が重なる。

土地の者が口で伝えていた言葉を、神殿の者が写す。

神殿の文体に整える。

祈りの言い回しに寄せる。

意味を説明しやすい形に直す。


そのつもりだったのかもしれない。

だが、土地の言葉と、神殿の文法が重なれば、元の指示は少しずれる。

方言の省略。古い語順。神殿の修辞。祈り文の格式。

それらが混ざると、どこまでが土地の注意で、どこからが神殿の解釈なのか分かりにくくなる。


理人は紙を見た。

読みにくいものを、読めたことにして運用すると、現場が危ない。

古い言葉が悪いのではない。

神殿の解釈が悪いと決めつけるのも早い。

危ないのは、古い言葉を、今の現場に合わせて読み直さないことだ。


そして、解釈が混ざったものを、最初から一つの正しい意味だったように扱うことだった。



※第11.5話「最後まで聞かないと条件が分からない」は全五回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/irregular-reincarnation-top/

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