(四)もっと言葉がいる
◆ (十二)線が引かれる
その日、ギルドが変わったわけではない。
依頼票がすべて書き換わったわけでもない。
新人が死ななくなったわけでもない。
撤退条件が全員に受け入れられたわけでもない。
ただ、線が引かれた。
見るべきだと言う者。
見ると面倒になると言う者。
そして、見ないともっと面倒になると言う者。
新人を守るべきだと言う者。
新人に甘い顔をするなと言う者。
そして、厳しいと追い詰めるは違うと言う者。
依頼票を変えるべきだと言う者。
依頼が回らなくなると言う者。
そして、無理に依頼を回せば、もっと回らなくなると言う者。
見えるものが増えた。
だから、言葉も一歩だけ進んだ。
逃げることは、ただの臆病ではなくなった。
戻ることは、ただの失敗ではなくなった。
怖いと言うことは、ただの弱さではなくなった。
たぶんと残すことは、ただの曖昧さではなくなった。
まだ、誰も大きな変化など口にしていない。
だが、物事はたぶん、最初から大きな制度の名前で始まるものではない。
見えるものが増えた分だけ、言葉を一歩だけ進める。
そこから始まる。
セリアは、机の上の石を片付けなかった。
カイルは、若い冒険者たちを見ていた。
ミナは、撤退条件の紙をまだ持っていた。
支部長は、古い依頼票の束を奥へ戻させなかった。
反発していた男は、苦々しい顔で席を立った。
理人は、そのすべてを見ていた。
何かがきれいに始まったわけではない。
むしろ、面倒が始まった。
だが、面倒が始まったということは、見ないで済ませる段階が終わったということでもある。
◆ (十三)もっと言葉がいる
その夜、セリアは理人に紙の束を渡した。
全部ではない。
まずは、新人が関わる依頼だけ。
それでも、かなりの量だった。
リナはそれを見て、少し顔を引きつらせた。
理人も同じ気持ちだった。
読めない字。揺れる依頼名。別々の記録。欠けた日付。曖昧な帰還報告。
やることは多い。
それに、言葉が足りない。
理人は、セリアに聞きたいことの半分も聞けなかった。
セリアの説明も、リナを通さなければ大半が分からない。
このままでは限界がある。
理人は、紙の束を見下ろした。
数えるだけでは足りない。
読む必要がある。
話す必要がある。
この世界の言葉で、説明する必要がある。
リナが隣で言った。
「言葉、もっと覚えないとね」
理人はうなずいた。
「そうだな」
珍しく、現地語ではなく日本語で返した。
通じなかったはずだ。
だが、リナはなぜか少し笑った。
ギルドの紙の山は、まだ机の上にある。
新人死亡率という名の請求書は、ようやく封を切られたばかりだった。
◆ (十四)ログ
ログ
未接続項目:連結
局所負荷:上昇
分類維持:困難
反応分岐:発生
注記:
蓄積値の再解釈が開始。
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※ネタバレ範囲にご注意ください。
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