第1話:グランプリと冷たい視線
私はユラ。訳あって、今はこの地下の麻雀施設で、双子の姉のサラと共に麻雀を打っている。
配られた13枚の牌(配牌)を見て、私は息を呑んだ。
なんと、国士無双13面待ち聴牌。
チラッと隣を見ると、サラも見た感じとても良い手牌のようだ。
この勝負、もらった。
親のサラは第一ツモを終え、無言で『二萬』を捨てた。
次は私のツモ順だ。
祈るように牌山から引き寄せた指先の感触……来たっ、東。
でも、これで「ツモ」を宣言すれば、親であるサラが最下位になってしまう。
この麻雀は一局のみのデスゲーム。
最下位になった者が、すべての借金を背負う賭け麻雀なのだ。
仕方なく、私はアガリ牌である東をそのまま河(捨て場)に捨てる。
その瞬間、サラの表情が凍りついた。
目を見開き、血の気を引かせた姉の顔を見て、私は最悪の可能性に思い至った。
もしかして、今の東はサラのアタリ牌でもあったの?
アガリ牌を見逃したことで、ルール上『フリテン』となった私は、もう他の誰かがアガリ牌を出しても自分の順番が来るまではロンをすることができない。
対戦相手の席に座る二人の少女が、不気味にニヤニヤと笑っている。
……これはもしや、最初から仕組まれた罠だったの?
私たちがこんな絶望的な麻雀に参加することになった経緯は、1ヶ月前に遡る――。
◆ ◆ ◆
「……というわけで! 今年の『2人で夏の海を散歩コーデ』コンテスト、見事グランプリに輝いたのは……サラちゃん、ユラちゃんの双子ペアでーす!!」
真夏の太陽が照りつける、海辺の特設ステージ。
MCの弾んだ声と共に、割れんばかりの拍手と歓声が鳴り響いた。
「嘘っ……ヤバいヤバい! サラ、私たち優勝だって!」
「もー、ユラったら泣きすぎ! ……でも、信じらんない。本当に私たちが一番?」
私と姉のサラは、顔を見合わせて思い切り抱き合った。
私たちは、社長と私たち3人しかいない小さな弱小事務所に所属する、駆け出しの読者モデルだ。
そんな無名の私たちが、超有名雑誌の夏の看板企画で、まさかの優勝を果たしてしまったのだ。
優勝賞金はもちろん、一番の目玉は『雑誌の専属モデル契約』。
これでやっと、これまでずっと苦労をかけてきた社長に恩返しができる!
最高潮の気分でトロフィーを受け取り、観客に向けて手を振る私たち。
でも、ふとステージの端に目をやると、文字通り氷のように冷たい視線が私たちを射抜いているのに気がついた。
準優勝に終わった二人組、キララとシズクだ。
彼女たちは、業界最大手の『グロウグローバル芸能事務所(GGG)』が猛プッシュしている超大型新人ペアだった。
華やかなルックスと、巨大事務所の圧倒的なバックアップ。
誰もが彼女たちの優勝を疑っていなかったのに、ポッと出の私たちが大番狂わせを起こしてしまったのだ。
「……ふん。小汚い弱小の分際で、調子に乗らないでよね」
すれ違いざま、キララがボソッと吐き捨てるように呟いたのを、私は確かに聞いた。
隣を歩くシズクも、まるで路傍のゴミでも見るような目で私たちを睨みつけている。
ギラギラと燃えるような、強烈な嫉妬と悪意。
背筋が少しだけゾクッとしたけれど、その時の私は「よっぽど悔しいんだろうな」くらいにしか思っていなかった。
まさか、あの巨大事務所が、私たちのような小さな存在を本気で潰しにかかってくるなんて、想像もしていなかったからだ。
「ユラ、どうしたの? 早く楽屋戻って、社長に報告しよ!」
「あっ、うん! 今行く!」
トロフィーを抱えて駆け出すサラの背中を追いかけながら、私は胸を高鳴らせていた。
これから、私たちの輝かしい未来が始まるんだ、と。
この直後、私たちが「ちょっとした親切心」から、取り返しのつかない地獄へと引きずり落とされることになるとは知らずに。




