第32話 放課後の司令塔 特等席の独白
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五月の連休が明け、吉永校舎には再び日常が戻ってきた。しかし、僕の日常は以前より少しだけ重みを増している。
放課後。クラスメイトたちの賑やかな声が遠ざかる中、僕は一人、校舎の三階にある生徒会室にいた。
ここは、僕の「仕事場」だ。
「……よし、これで半分か」
眼鏡を「くいっ」と押し上げ、僕は学校貸与のタブレットに置いた目線をそっとそらした。
静まり返った室内には、壁にかかった時計の秒針が刻む音だけが響いている。この間まで準備室で原や結衣が騒いでいた時間が、まるで別の世界の出来事のように感じられた。
ふと、肩の力を抜いて顔を上げる。
生徒会室の大きな窓の向こうには、高台にあるこの学校ならではの「特権」とも言える景色が広がっていた。
「……やっぱり、ここからの眺めは格別だな」
僕は椅子から立ち上がり、窓際に歩み寄った。
眼下に広がるのは、富士市の街並み。整然と並ぶ家々の屋根、迷路のように入り組んだ路地、そして遠くに見える工場の煙突が、午後の柔らかな光を浴びて模型のように静止している。
そしてその先には、ゴールデンウィークに、美歩さんと二人で眺めたのと同じ、駿河湾の青が地平線まで続いていた。
沼津で見た海は、手の届くところにある「動」の海だった。
けれど、ここから見る海は、街の営みを包み込むような、静かで深い「静」の海だ。
(あの街のどこかに、みんながいるんだな……)
原は今頃、放送室で機材の片付けをしているだろうか。結衣は広報の取材で校内を走り回っているかもしれない。そして美歩さんは……きっと、どこかの窓辺で、僕と同じように空を見上げている気がした。
生徒会室という「公」の場所に一人でいると、自分がこの街の一部を動かしているような、不思議な高揚感と孤独が混ざり合う。
誰もいない教室。山積みの資料。
けれど、窓の外に広がるこの圧倒的なパノラマが、「お疲れ様」と言ってくれているような気がして、不思議と嫌な気分ではなかった。
「……さて、あと少し。終わらせてしまおう」
僕は再びデスクに向き直った。
沼津での二人だけの探景、そして今日この場所から見下ろす街の景色。
それら全ての「景」が、僕の中でゆっくりと現像されていく。
忙しさは変わらない。役割も増えていく。
けれど、この窓からの景色を知っている限り、僕はどこまでも遠くへ行ける気がした。
外では、夕暮れのチャイムが鳴り始めた。
富士の裾野に沈みゆく太陽が、生徒会室の床に長い影を落としていた。
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