表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/33

第32話 放課後の司令塔 特等席の独白

最後まで読んでくださると嬉しいです!

五月の連休が明け、吉永校舎には再び日常が戻ってきた。しかし、僕の日常は以前より少しだけ重みを増している。


放課後。クラスメイトたちの賑やかな声が遠ざかる中、僕は一人、校舎の三階にある生徒会室にいた。


ここは、僕の「仕事場」だ。

「……よし、これで半分か」


眼鏡を「くいっ」と押し上げ、僕は学校貸与のタブレットに置いた目線をそっとそらした。


静まり返った室内には、壁にかかった時計の秒針が刻む音だけが響いている。この間まで準備室で原や結衣が騒いでいた時間が、まるで別の世界の出来事のように感じられた。


ふと、肩の力を抜いて顔を上げる。

生徒会室の大きな窓の向こうには、高台にあるこの学校ならではの「特権」とも言える景色が広がっていた。


「……やっぱり、ここからの眺めは格別だな」

僕は椅子から立ち上がり、窓際に歩み寄った。

眼下に広がるのは、富士市の街並み。整然と並ぶ家々の屋根、迷路のように入り組んだ路地、そして遠くに見える工場の煙突が、午後の柔らかな光を浴びて模型のように静止している。


そしてその先には、ゴールデンウィークに、美歩さんと二人で眺めたのと同じ、駿河湾の青が地平線まで続いていた。


沼津で見た海は、手の届くところにある「動」の海だった。


けれど、ここから見る海は、街の営みを包み込むような、静かで深い「静」の海だ。


(あの街のどこかに、みんながいるんだな……)


原は今頃、放送室で機材の片付けをしているだろうか。結衣は広報の取材で校内を走り回っているかもしれない。そして美歩さんは……きっと、どこかの窓辺で、僕と同じように空を見上げている気がした。


生徒会室という「公」の場所に一人でいると、自分がこの街の一部を動かしているような、不思議な高揚感と孤独が混ざり合う。


誰もいない教室。山積みの資料。

けれど、窓の外に広がるこの圧倒的なパノラマが、「お疲れ様」と言ってくれているような気がして、不思議と嫌な気分ではなかった。


「……さて、あと少し。終わらせてしまおう」

僕は再びデスクに向き直った。

沼津での二人だけの探景、そして今日この場所から見下ろす街の景色。


それら全ての「景」が、僕の中でゆっくりと現像されていく。


忙しさは変わらない。役割も増えていく。

けれど、この窓からの景色を知っている限り、僕はどこまでも遠くへ行ける気がした。


外では、夕暮れのチャイムが鳴り始めた。

富士の裾野に沈みゆく太陽が、生徒会室の床に長い影を落としていた。

最後まで読んでくださりありがとうございました!

別の作品や次の話も是非見てみてください!

面白かったらブックマーク・評価で応援いただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ