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第152話 感謝

「ぐ……あぁ……」


全身に激痛が走り、俺は意識を取り戻す。


「く……何が……ああ、そうだ……奴が……」


上空の魔法陣から、黒い、そう黒い何かがデスロードに降り注ぎ。

そしてあれが現れた。

漆黒の竜が。


「デスゲイザー……」


ジャガリック達がそう呼んでいた。

恐らく、それが奴の名なのだろう。


そして俺は、そのデスゲイザーの攻撃に吹き飛ばされたのだ。

いや、あれを攻撃と言っていいのだろうか?


――咆哮。


そう、奴のただの咆哮によって俺は吹き飛ばされこの様である。


「そうだ、ジャガリック達は……」


咆哮の直前、ジャガリック達が盾になる様にフェンリルの前に姿を踊り出したのを思い出す。

今の俺でこのダメージなのだ。

盾になった彼らのダメージは相当な物の筈。


「エリクサーを」


直ぐに確認したかったが、痛みで体が真面に動かない。

フェンリルも反応がないので、気を失っている状態だと思われる。

なので、俺は先にエリクサーを服用した。


「なんだ……全然回復しないぞ?」


エリクサーは奇跡の霊薬だ。

死亡状態以外は完全に回復してくれる効果がある。

にもかかわらず、エリクサーを飲んでも状態が全く変わらない。


いや、少しだけましになった気はするけど……


どちらにせよ、エリクサーの本来の回復効果には程遠い。


「不良品か?」


精霊達の力で作った物だが、中には不良品が混ざっていてもおかしくはない。

そう思ってもう一本服用するが、やはりそれも微々たる回復しなかった。


「なんでこんなに回復しないんだ……」


その時、脳裏にある考えが浮かんだ。

それは回復阻害だ。

ゲームなんかだと、たまにあるデバフである。


「くそ、のんびりしてる時間なんてないってのに……」


デスゲイザーがいるのだ。

幸い追撃を受ける気配はなかったが、いつまた攻撃されるか分かった物ではない。

急いで立ち上がらないと。


「回復量が少ないなら全部飲むまでだ」


エリクサー。

それとスパムポーションを全て一気飲みする。


精霊達が大ダメージを負っているのなら、彼らの回復用に少しとっておいた方がいいのでは?


それは必要ない。

自然に近い精霊達に、生物用の回復アイテムは一切効果がないからだ。


「フェンリル!目を覚ましてくれ!」


回復量は少ないが、流石の全部飲んだら多少は回復した。

俺は球に手を置き、フェンリルに声をかけた。


「ぷぎゃ……(体が痛いよう)」


「すまん、頑張ってくれ」


「ぷぎゃあ(うん、頑張る)」


フェンリルが起き上がる。

デスゲイザーは此方を睨みつけたままで、動く気配はない。


なぜあいつは動かないのか?


そんな疑問はあるが、まずはジャガリック達を確認するのが先だ。

俺は周囲を見渡す。

すると少し離れた場所に3人は転がっていた。


俺は慌ててそこに向かう。


「皆!無事か!」


「う、うぅ……マイロード、お逃げください」


「早く逃げるんじゃ……」


「あれは……私達が命に代えても足止めを……」


三人は気絶していた様だが、俺の声に応えてよろよろと起き上がって来る。


「お前らを置いて行く訳がないだろ。逃げるなら一緒だ」


あれには絶対勝てない。

俺の本能がそう告げている。

なのでここは逃げの一択だ。


もちろん、そのため精霊達を捨て石にするつもりなどなかった。

幸い、何故か相手は動かない。


今のうちに逃げれば……


「おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


身震いするような雄叫び。

俺は咄嗟に精霊達を庇う様に動いた


「くっ……」


先程と同じく、これはただの雄叫びだ。

だがそこから生まれる衝撃は凄まじく、俺は倒れないよう必死にこらえた。


「くそ……皆、大丈夫か?」


距離があったからさっきほどではなかったが、それでも凄まじい衝撃だった。


「ワシらの事は気にせず……今すぐ逃げるんじゃ」


「だから置いて行けないって言ってるだ……」


全身に寒気が走り、俺は言葉を途切れ指す。

俺は慌ててその視線をデスゲイザーへと向けた。


奴は――


「ブレス……」


――その(あぎと)を大きく開け、その口腔内にとんでもない力が収束していく。


これを喰らえば、塵も残さず死ぬ。

それを容易に想像させるだけの力だった。


「マイロード!早くお逃げください!」


「マスター!」


「エドワード殿!」


ジャガリック達が、俺に逃げろと叫ぶ。

だが無理だ。

もう発射寸前で、しかもあれだけ膨大なエネルギーだ。

今更回避した所で間に合わない。


俺は死ぬ……


「すまない、皆」


もしカッパーを見捨てていれば、きっとこんな結末にはならなかっただろう。

だが、彼女を見捨てるという選択など取れるはずもなかった。

だから、その選択自体に後悔はない。


後悔があるとすれば、俺のせいで精霊達、それにフェンリルや他の皆を守れなかった事だ。


「これだけは言わせてくれ。今までありがとう」


最後に、感謝の言葉を口にする。

俺のために尽くし、命までかけてくれた彼らには本当に感謝しかない。


「エドワード殿……」


「マイロード……」


「マスター……」


「ぷぎゃあ(パパ……)」


デスゲイザーがブレスを放つ。

その膨大な、正に死の塊と言うべき巨大なエネルギーは俺達を包み込み、一瞬で全てを消滅させる。


「え?なんだ?」


――事無く、あらぬ方向に飛んで行く。


デスゲイザーがブレスを放つ直前、向きを変えたからだ。


「何が一体……はっ!待てよこの方向は!?」


なぜあらぬ方向にブレスを放ったのか、一瞬意味不明だったが、俺はその理由に直ぐに気づいた。

なぜならその方向は――屋敷がある方向だったからだ。


そう、カッパーのいる屋敷に向かって奴はブレスを放ったのである。

デスゲイザーは死に体の俺達よりも、ランクアップで大きな力を手に入れるカッパーを優先したのだ。


――凄まじい轟音と、視界を覆いつくす黒い閃光。


「カッパー!!」


俺にはただ、彼女の名を叫ぶ事しかできなかった。

拙作をお読みいただきありがとうございます。


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