第150話 才能
戦いが始まって既に数時間経つ。
スパムポーションは3本使ったが、まだエリクサーには手を付けていない。
消耗ペースが早い?
長丁場である事を考えると、確かにそうだ。
だが問題ない。
何故なら――
「そこ!」
デスロードの攻撃を、俺は見切って躱す。
――そう、既にあいつの動きはおおむね見切っているからだ。
最初こそそこそこの頻度で喰らってはいたが、人間やっていると慣れて来る物だ。
戦いの素人だった俺でもデスロードの動きに慣れ、被弾率は激減していた。
ひょっとしたら俺には戦闘のセンスがあったのか、もしくは騎乗の影響で知能が上がった影響かも知れない。
まあなんにせよ、これなら10日間の時間稼ぎも余裕だろうと思われる。
疲労や空腹はエリクサーで補えるからな。
ま、もっとも……
「そんなにかける必要は無さそうだけどな!フェンリル!」
デスロードの攻撃を躱しつつ、俺はフェンリルに指示を出す。
「ぷぎゃ!(えいやぁ!)」
フェンリルのコントロールで尻尾が動き、そしてその鋭い一撃をデスロードへと加える。
俺には尻尾が無いので上手くコントロールできない部分だが、生来の持ち主であるフェンリルに頼めばこうやって攻撃に使えう事も可能だった。
俺が躱し、フェンリルが攻撃する。
流石に大ダメージとはいかないが、それでも地味に響いているはずだ。
この流れで、そのまま押し続けてやればいずれ倒せるはずである。
「マイロード!お待たせしました!」
デスロードに巨大な岩がぶつかって吹っ飛び、フェンリルの肩にジャガリックが着地する。
どうやらデスナイトを倒して来た様だ。
「俺よりも皆を手伝ってやってくれ」
「そちらにはタニヤンとポッポゥが対応しておりますので、ご安心ください」
精霊達はもうデスナイトを倒している様だ。
残り2体にポッポゥとタニヤンが援護に言っているなら、そちらの決着がつくのも時間の問題だろう。
「おっと!」
素早く体勢を立て直してきたデスロードの攻撃を、大きく後ろに飛んで躱す。
ジャガリックの攻撃で吹っ飛びはしたものの、ダメージはなさそうに見える。
「マイロード。不意打ちで吹き飛ばせましたが、私の攻撃ではほとんどダメージは与えられません」
「みたいだな」
「ですが……」
ジャガリックが手を伸ばす。
その瞬間、目の前まで迫っていたデスロードの足元の地面がへこみ、奴の体勢が崩れた。
「ナイスアシスト!」
態勢を崩したデスナイトの剣があらぬ方向いそれ、その大きな隙に俺は全力の拳を叩き込む。
本当にナイスアシストだ。
ダメージはなくとも、こうやって隙を作ってくれるだけで充分である。
ここにポッポゥやタニヤンも加われば、更に有利になるだろう。
まあフラグ立ちそうで嫌だから、余計な言葉は口にしないけど。
◇◆◇
驚くべき事だった。
マイロードに戦闘の心得はない。
なので、同等の能力と、エリクサーなどの回復薬を使って時間を稼ぐだけで精いっぱいになるとの予想でした。
なので、我々精霊が出来るだけ素早くデスナイトを処理し、加勢する必要がある
そう考えていたのですが……
その予想は全く当て嵌まらなかったのです。
私がデスナイトを処理して駆けつけた時には、戦いにおいて素人に近かったはずのマイロードはデスロードの動きを見切り、優位に立ちまわって見せていました。
どうやら私は、自らの主と認めた方の力を過小評価していた様でした。
我ながら不敬極まりない考え。
自らの愚かさを恥じざるえません。
ですが同時に、私は喜びを感じざるえなかった。
自分の予想を軽く超えられる、偉大な主に仕える喜びを。
「そこだ!」
マイロードが、デスロードを追い詰めていきます。
「ふぉっふぉっふぉ。エドワード殿、お待たせいたしましたな」
「マスター、お待たせしました」
そこにタニヤンとポッポゥが加わりました。
リッチは同じ死の力同士で決定打が無く。
タゴルさん達では、エレメントゴーレムの補助があってもデスナイトを倒すのは難しい状態でした。
だから二人にはその援護に回って貰っていたのですが、そちらが終わった様です。
他の方々は後方待機ですね……
流石に他の方達では、デスロード戦で逆に足手まといになりかねません。
私達精霊の様に、連携を取れる訳ではありませんし。
ですので、タニヤン達は彼らを下がらせたようです。
私でも同じ判断を下すでしょう。
「助かる!」
「援護はお任せくだされ!」
「マスターには触れさせん!」
メガ精霊である私達の力では、残念ながらデスロードに真面なダメージを通す事は出来ません。
ですが、それぞれの力を駆使すれば行動の阻害は可能でした。
三人で連携し、私達はひたすらデスロードの行動阻害に腐心します。
「おらぁ!」
マイロードが確実に攻撃を加え、そしてデスロードを追い詰めていきました。
やがて全身の骨がヒビまみれになり、満身創痍となったデスロードの頭部が、マイロードの一撃を受けて大きく砕け散ります。
更に尻尾による追撃を受け、デスロードが大きく吹き飛び。
地面に激突したその衝撃で、右手が外れて転がっていきます。
「勝負ありましたね」
「流石マスターです」
「ふぉっふぉっふぉ。エドワード殿には本当に驚かされるわい」
我々の勝ちでしょう。
もはやデスロードに戦う力は残っていないはず。
後は、止めを刺すのみ。
「さあ。エドワード殿、奴めに止めを」
「ああ、分かった」
時間が経てば、死の力で回復してしまいかねません。
なので、デスロードはきちんと止めを刺す必要があります。
「む、まだ立ち上がって来るか」
「しぶとい奴じゃな」
デスロードが、立ち上がって来ます。
既に片腕はなく、全身ボロボロで、しかも左手で剣の刃の部分を掴んでいる様な状態。
満身創痍といって差し障りなく、とても戦える状態ではないので最後の悪あがきといった所でしょうか。
「ごおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
その状態でデスロードが雄叫びを上げます。
普通に考えれば、断末魔の咆哮。
ですが――その瞬間、私の全身に寒気が走った。
「ぬ……何かする気じゃぞ」
「マスター下がってください!」
「マイロード!」
「どうしたんだ!?」
タニヤン達も私と同じものを感じた様だ。
私と同じように慌ててマイロードの前に出る。
「何をする気じゃ!?」
デスロードが左手を上げる。
その刃部分を握った剣の切っ先は、奴の胸へと向けられていた。
奴はその切っ先を、自らの胸元へと勢いよく突き刺す。
その瞬間――
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