第146話 デレ
「SSの+までか……」
筋力を上げて行ったところ、SS+で能力上昇にロックがかかってしまった。
精霊の加護抜きである、俺本来の能力だとAプラスだ。
「これ以上一気に上げると、肉体が変化に耐え切れず崩壊するからロックか……」
ロックされてしまったのではこれ以上上げる事は出来ない。
まあ仮にできたとしても、肉体が崩壊すると分かっている以上、上げたりはしないが。
それをしたらただの自殺である。
「ちょっと、どの程度の力があるか試してみるか」
今、どの程度の力なのか?
それを試すため、執務室から庭に出た俺は、地面を力いっぱい殴ってみた。
『ドゴン!』という音共に、地面が放射状に広く崩壊し、砂埃が盛大に舞う。
その巻き上がった砂埃は、突風によって一瞬で吹き飛んでいく。
タニヤンがやったのだろう。
「すげぇ……」
自分の拳が齎した結果に、俺は感嘆の声を漏らした。
想像以上のパワーだ。
地面が思いっきり崩壊してるし、これなら……
「これなら、デスロードの相手だって出来るんじゃないか?」
そう思って、一緒に庭までやって来ていたジャガリックに俺は尋ねた。
「難しいかと……」
だが、その返事はそれ程芳しいものではなかった。
けど――
「難しいって事は……不可能ではないって事だよな?」
そう、無理なら無理とジャガリックはハッキリと答えていたはずだ。
「確かに、可能性自体はあります」
「マスターが全ての能力を同水準まで上げた上で、2割といった所かと」
ポッポゥが成功率の見込みを上げてくれる。
2割。
生死のかかった様な手術の成功率とかでその数字を言われたら、すっげー不安になる数字だ。
「そっか、2割か。けど、エリクサーとかも使えばもう少し確率は上がるだろうし……」
エリクサーは7本ある。
スパムポーションも、そこそこ。
それらを上手く使えれば……
「それも込みしたうえでの2割ですぞ、エドワード殿」
「あー、込みの確率かぁ」
いやまあそりゃそうか。
抜きで計算したりしないよな。
まあでも、0じゃないんならやるだけだ。
「何事ですか!?男爵様!!」
地面を殴った音に驚いてか、休憩していたクロウ達が屋敷から飛び出してきた。
「なんだこりゃ!?」
「まさか敵襲!?」
そして広範囲に崩壊した庭の地面に気づいて目を丸める。
「ああ、いや……これは俺の今の力を確認するためにやった物だから、敵襲じゃない」
「エドワード様がこれを!?」
「あらあら。エドワード様ったら、いつの間にこんなに力が強くなられたんですか?」
「さっきだよ。SSランクの+まで強化して、その試しだ」
「SS+って……頑張られたんですね」
俺の強化に、エクス達が目を丸める。
ランクアップの痛みを良く知っている彼女達からすれば、怠け者の俺がそこまで上げたと言われたら、そりゃ驚くよな。
まあ俺の場合、痛みは一切なかった訳だけど。
「それって……あの化け物と戦うため……ですか?」
タゴルが怪訝そうに聞いてくる。
「ああ、俺がデスロードを止める」
「正直……あの化け物にエドワード様が勝てる姿が、私には想像つきませんね」
「マスターが強くなっても、あれを倒すのは無理だ。そして、カッパーが目覚めるまでの足止めの成功率は2割ほどしかない」
エクスの言葉に、ポッポゥが彼らに成功率を伝える。
「足止めが2割って……それって、下手したらエドワード様が死んじゃうんじゃ?」
「かもな。けど、カッパーを見捨てたくない。彼女にはさんざん世話になって来たんだ。危険だとしても、何もせず逃げ出すわけにはいかないだろ?」
まあ本当の本当に駄目だった時は、その時は見捨てる事になるだろうが……
「貴族のあんたが、カッパーの為に命を賭ける……か。わかった。なら、俺もこの命をあんたの……いや、エドワード様のために賭けて戦う事を誓う」
タゴルが自分の胸を叩いた。
その瞬間、クエスト達成が俺に伝わってきた。
確認すると――
【使徒との信頼を築け!】
【村人の信頼を勝ち取れ!】
――が達成されていた。
タゴルの信頼度が100%になったためだ。
タゴルの信頼度は、初期に比べ最近ではかなり上がっていた。
だが、彼との間には何か壁の様な物を感じており、そのせいで満タンにまで行かない感じだったのだが……ついにその壁が壊れた様だ。
まあこの状況で11万ポイント入ったからって、何が変わる訳でもないが、それでもなんだか嬉しくなってしまう。
「ああ、盛大に戦って散ってくれ。ちゃんと後で蘇生してやるから」
そう笑いながら言ったら――
タゴルの信頼度が80%ぐらいにまで下がってしまった。
デレ期、いくら何でも短すぎないか?
やっぱ扱いにくい奴だ。
ま、一度達成したクエストはなかった事にならないので別にいいか。
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