第144話 諦められない
「なっ……」
――デスロード達がカッパーの力に反応し、誘導は不可能。
撤退してきたはジャガリック達に話を聞かされ、俺は絶句する。
「助ける方法は無いのか?」
動かせず。
そしてデスロード達なら、その状態の彼女を消滅させる事が出来る。
それはカッパーの死を意味していた。
「残念ながら……」
ジャガリック達の沈痛な面持ち。
同じ精霊仲間を好き好んで切り捨てる筈がない。
その彼らが、手立てがないというのなら本当にお手上げ状態なのだろう。
「……」
「マスター。デスロードは半日もあればここへとたどり着きます。今すぐ避難の用意を……カッパーもきっと分かってくれるはずです」
エレメントゴーレムには命がないため、デスロード達は人間を殺した時の様なエネルギーの吸収時間を必要としなかった。
そのため、足止めできる時間はかなり短いのだ。
因みに、奴らはここへ至るまでに大量のエネルギーを吸収してストックしている様なので。エレメントゴーレム達を使ってガス欠を起こさせるという手は効かない。
「エドワード殿」
「……」
カッパーを見捨てる……
彼女は今。俺のためにランクアップしてくれているのだ。
はじめっから、領地を捨てる選択をしていればこんな事にはならなかったはずである。
言ってしまえば俺の我儘だ。
そんな我儘に付き合ってくれたカッパーを、俺は見捨てるのか?
「何か……手が……」
思考をフル回転させる。
けど、良い答えなんて出て来る訳もない。
所詮知能Dで、俺より頭のいいジャガリック達ですら見つけられていないのだから、頭をひねった所で何か名案が出て来る訳もなかった。
俺は聖人君子じゃない。
だから、自分の為なら知らない人間を犠牲にする事だって憩わない。
けど……自分のために頑張ってくれてる精霊を、見捨てるなんて真似はしたくなかった。
「くそっ……俺は何て無力なんだ……」
だが手立てがない。
これが漫画やラノベなら、主人公が覚醒してなんて展開もあっただろう。
だが、俺にそういった主人公達の様な資質はない。
それどころか、戦闘能力だって全然だ。
知能以外のステータスはAだが、それだって精霊からの補助ありきでしか……
「待てよ……補助……ジャガリック!精霊から受けてるステータスの補助ってのは、どういうものなんだ?教えてれ!」
精霊からの補助。
そこに閃き。
それがどういったもものかを俺はジャガリックに尋ねた。
「補助……ですか?」
「ああ、補助だ。俺のステータスをAに固定する物なのか?それとも、加算や乗算の強化魔法のような物か?」
ステータスを固定するタイプなら、閃いた事は無駄になる。
だが、乗算系の強化による物なら……
「固定する様な物では御座いません。我らの力が、マイロードの力を引き上げていると思って頂ければ宜しいかと」
「そうか」
少なくとも固定ではない。
まあゲームじゃないんだから、そりゃ固定じゃないよな。
問題は、どういう風に力が引き上げられているかである。
あと、ランクアップに必要なポイントだな……
強化後のAランクとして判定されるのか。
それとも、本来のステータス帰順なのか。
「とにかく、試してみよう」
自信のステータスを確認し、そして筋力のランクアップを試みる。
必要ポイントは――
「A+にあげるのに16ポイント……」
俺の本来の筋力ステータスはCだ。
そしてC+に上げるのに必要なポイントは16だったはず。
つまり、俺のランクアップは俺本来の能力を基準にしているという訳だ。
……これなら、きっときっと人間の限界を超えたSランク以上にも強化できるはず。
「よし!強化を……ああ、くそ……そういや、痛みの事を忘れてた」
強化には激しい痛みが付き纏う。
それもランクが高ければ高いほど。
時間的余裕がるならともかく、数時間でデスロード達は辿り着いてしまうのだ。
そんな短いタイムリミットで、ランク上げの激痛に堪えて能力を数段階上げるのなんて、俺に堪えられるとは到底思えない。
仮に痛みが自分のランク基準だったとしても、だ。
結局……
「諦めるしか……」
いや、駄目だ。
ここで諦めたらカッパーが死ぬ。
そんな結果は受け入れられない。
「根性で……根性で耐え抜いて見せる」
そうだ。
根性だ。
痛みに耐えて、力を手に入れる。
そしてカッパーを守るんだ。
「痛みでも何でもこい!」
俺は自らの筋力を一段階上げる。
一気に上げてしまうと気を失ってしまうかもしれないからだ。
耐える覚悟は決めたが、気を失ってしまったら上げようがなくなってしまう。
「……あれ?」
俺は首を捻った。
何故なら、ランクアップさせたにもかかわらず痛みが発生しなかったからだ。
「痛みが……ない?どういう事だ?」
ステータスを確認すると、筋力はA+にちゃんとなっていた。
なのになぜ、傷みが発生しなかったのか?
「どうなってんだいったい……」
謎だ。
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