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第143話 ターゲット

「あれが……」


デスロードやデスナイトと呼ばれる、死の化身達。

まだ遠くにいるのでその姿は小さい


なのに――


――体が震える。


「こんなに離れてるってのに、とんでもないプレッシャーね。悔しいけど……全く勝てる気が全くしないわ」


「ちっ……」


エクスさんがそう呟き、タゴルさんが忌々し気に舌打ちする。


「……」


視線を動かし、僕は周囲人達の顔を見る。

その表情は全員、暗い物だ。


この場にいるのはジャガリックさん、タニヤンさん、ポッポゥさんの精霊三人。

それに、僕とアリンとタゴルさんに、エクスさんとクロウさん。

そして、5,000のエレメントゴーレム達である。


現在のスパム王国から出せる全戦力と言っていい。

あ、いや……そういやフェンリルは来てないから全って事はないのか。

フェンリルはエドワード陛下やランクアップ中のカッパーさんから離れるのを嫌がり、残念ながらこの場にはいないのだ。


「ふむ……どうやらあのデスロードは、多くの人間を殺した事で力が増している様ですね」


「うむ。本来のデスロードにはない力じゃ。いったいどうやって……いや、今更考えても仕方ない事ではあるか」


化け物じみた強さを持つデスロードが、さらに強くなった。

それはとんでもない悲報と言えるだろう。

タニヤンさんが引き付けて死の森へと誘導する作戦なんだけど、大丈夫だろうか?


「アリン……大丈夫?」


「うん、どうって事ないよ。カンカンこそ大丈夫?」


「ぼ、僕は勿論大丈夫さ」


全然大丈夫ではなかったけど、平気ぶる。

好きな子に、格好悪い姿を見せたくないから。


「アリン。間違っても前に出るなよ」


「分かってるって。もう、お兄ちゃんは心配性なんだから」


タゴルさんがアリンに声をかける。

彼は最後の最後まで、アリンがこの戦いに参加する事を反対していた。

まあ当然だろう。

蘇生があるとはいえ、自分の妹が死んで喜ぶ兄何ている訳がないんだから。


結局、本人の参加の意思と。

戦力は少しでも欲しいというジャガリックさん達の要請から、アリンはこの戦いへの参加が決まっている。


「アリンは……この命に代えても僕が守ります」


普段ならきっと、僕の言葉は一蹴されたはず。

寝言を言うなって。


「……その言葉、絶対に守れよ」


けど、タゴルさんは顔を顰めながらもそう口にする。

それは、こんな僕にもすがらなければならない状況の表れと言えるだろう。


「はい。約束します」


「もう、二人とも……私だって戦えるんだから、自分の身は自分で守れるわよ。むしろ私が二人の事、守ってあげるんだから」


「お前は自分の事だけ考えてろ」


◇◆◇


「……」


若い三人のやり取りを見て、羨ましく感じる。

ネクロマンサーの資質を持って生まれた私には、兄弟との愛情や、恋愛なんて無縁だった。

だからカンカン達のやり取りが凄く眩しく見えた。


「勝てそうですか?」


既に召喚済みのリッチに私は尋ねた。


「デスナイトなど、いくらいようが我の敵ではない」


私達が相手取るのはデスナイトだ。

デスロードの相手は流石に無理があるので、そっちはスピードのあるタニヤンさんが受け持ち死の森へと誘導する手はずになっている。


「と言いたい所だが……あのデスナイト達は普通ではない。我の力でも1匹を抑えるのが限度だな」


「倒すのは難しい、と?」


「業腹ではあるがな」


「そうですか……」


デスナイトの数は全部で5体。

その内2体はジャガリックさんとポッポゥさんが受け持ってくれるので、残り3体を他のメンツで抑える必要があった。


言葉通りリッチが一体抑えてくれると考えて、それ以外の2体を私を含めた他の人達と一緒に相手する事になる訳だが……エレメントゴーレム達がいるとは言え、正直厳しい戦いになると言わざるえない。


「精々頑張るがいい……と言いたい所だが、この作戦は既に破綻している」


「え!?破綻って、いったいどういう事です!?」


驚いて大声を出してしまい、全員の視線が私に集まる。


「急に大声をだして、どうかしたの?」


エクスが怪訝そうに私に尋ねて来る。


「ああいや……その何と言ったらいいか……リッチがこの作戦が破綻していると急に言い出して……」


「破綻している?リッチちゃん、どういう事か聞かせて貰っていいかしら」


「我も奴らも、死の化身だ。だから同じ由来を持つ者同士、ある程度の意思疎通が可能だ」


どうやら死という特殊な由来同士なら、意思疎通ができる様だ。


「まあ、奴らには我の様な高度な知能は備わってはおらんがな。奴らの行動原理はあくまでも本能のみ」


「彼らと意思疎通されたのですか?」


「うむ」


ジャガリックさんの言葉に、リッチが頷く。


「そして奴らの目的を……いや、その強い殺意の向かう先を把握した」


「殺意の向かう先?」


「カッパーだ。奴らの殺意は全てカッパーへと向けられている」


「カッパーさんに!?」


意味が分からない。

なぜこの場に居ない彼女に、デスロード達の殺意が向くというのか?

敵はカッパーさんと会った事すらない筈である。


「近づいた事で本能的に気づいたのだろう。自分達を滅ぼしうる強大な力の胎動に。そしてその力の源が、カッパーである事にな」


カッパーさんは水の精霊だ。

水の力は生命を司り、死の力に対して強い抑止力となるらしい。


そんな力を持つ者が、デスロードさえも消し去る力をランクアップで手に入れようとしている。

その事に本能的にデスロード達が気づき……


「今の奴らにはカッパーしか見えていない。だから……誘導して死の森へと引き込む作戦は破綻しているといっているのだ」


「嘘ではないようですね」


「我は精霊相手に嘘を吐く程愚かではない」


精霊には、他者の嘘を見抜く力がある。

つまり、今リッチが話した言葉は質の悪い冗談なんかではなく……全て真実という事だ。


相手がカッパーさんを真っすぐ目指すのなら、死の森への誘導は不可能。

リッチの言う通り、この作戦は破綻したと言えるだろう。


「参りましたね」


ジャガリックさんが、ため息交じりにそう呟く。

普段はポーカーフェイスな方だが、その顔には明確な苦悩が浮かんでいた。


「仕方あるまい。最低限の時間稼ぎ用の足止めを残し……この場は撤収する」


タニヤンさんが撤収を口にする。

誘導できないのなら、たいした時間稼ぎは出来ない。

一旦撤退して、新しい作戦を立てる必要があるので正しい判断だと思う。


けど……


果たしてこの状況から打てる手はあるのだろうか?


◇◆◇


「今の状態のカッパーは動かせん」


タゴル達を先に撤退させ、迫りくるデスロードを見つめながらタニヤンが呟いた。

ランクアップのために半分自然と同化しているカッパーは、ほぼ魂だけの状態と言っていい。

その状態の彼女を、動かす術はなかった。


そして……


「残念じゃが、カッパーの事は諦めるしか無かろう」


その力を持つデスロード達は、そんなカッパーの魂を容易く砕く事だろう。

魂の破壊。

それは死、いや、精霊の完全な消滅を指す。


そうなれば、もはや二度と転生という形での復活も叶わないだろう。


「きっとカッパーも納得してくれるはず……」


「……」


「……」


ポッポゥが苦悩に表情を歪め、ジャガリックは自らの唇を噛む。

二人からの否定の言葉はない。

どうあがいても、カッパーを救えない事を理解していたからだ。


「わしらも撤退するとしようかの」


半数程残したエレメントゴーレム達に、目の前に迫るデスロード達に突撃するよう命じ精霊三人は撤退する。


カッパーを切り捨て、エドワードを逃がすための作戦を実行するために。

拙作をお読みいただきありがとうございます。


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